東京フィルメックス映画祭で鑑賞してきた作品。ティーチ・インがあり、監督と白人プロデューサーが来ており質疑応答をした。通訳が英語だったから何でかと思ったら、監督ってアメリカに移民した人なんだね。
内容としては、アート系の作品って感じである。音楽が少ないことで静かな作品に仕上がっている。韓国での公開は来年5月を予定しているみたいで、日本では今のところ未定みたい。まあ一般上映するのは厳しいだろう。
木のない山
制作年:2008年
監督:ソヨン・キム
出演:キム・ヘヨン、キム・ソンヘ、キム・ミヤン
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:第9回東京フィルメックス映画祭
都会のマンションで暮らしている6歳のジン(キム・ヘヨン)と小さな妹のビン(キム・ソンヘ)と母(イ・ソア)。6歳になってもまだ寝小便をするジンを母は優しく慰めてくれて、二人だけの秘密として妹のビンに黙ってくれていた。ジンは、学校で算数の引き算を学び勉強が楽しくなってきた頃、母に引っ越しすることを知らされた。三人は荷物を纏めてバスに乗って、郊外にある伯母さん(キム・ミヤン)の家に行った。母はジンとビンに豚の貯金箱をプレゼントして、これがいっぱいになったら帰ってくると言って、二人の娘を伯母さんが一時的に預かった。母がこのような行動をとった理由は、勝手に出て行った行方不明の夫を探しにいくためである。伯母さんは、商売に失敗して節約した生活をしているため、今まで多少の贅沢をしていた生活が一変したことでジンとビンは戸惑っていた。ジンとビンは、裕福な家の少年と遊んで優しい少年の母親からお菓子を食べさせてもらったり、やんちゃな少年と一緒にイナゴ取りをして遊んでいた。ジンとビンは、母との再会を楽しみにしているから、母の残した言葉を信じて、豚の貯金箱をいっぱいにすることに必死であった。だが、豚の貯金箱をいっぱいにしても母は戻ってこなかった。母から伯母さんに手紙がきて、その内容はジンとビンを実家に預けて欲しいというお願いであった。ジンとビンは、更に田舎にある祖父母の家に預けられて、侘しい生活をする。果たして、ジンとビンは母と再会することができるのか、生活環境が変動することでジンとビンはどのように成長していくのかというお話。
監督は、本作が長編2作目のソヨン・キム女性監督。
出演者は、長女ジンを演じるのは本作スクリンデビューのキム・ヘヨン、次女ビンを演じるのは本作スクリンデビューのキム・ソンヘ。長女ジン役のキム・ヘヨンは、ソウルの学校でスカウトした子役、次女ビンジン役のキム・ソンヘは孤児院でスカウトした子役である。
父が去り、そして母が去っていき残された幼い二人の娘が、大人の事情で振り回される中で、与えられた生活環境に順応していき、否応なしに早熟せざるを得ない姿をみせている。
全体として、都会で母とマンション暮らし、地方で伯母さんとの生活、田舎で祖父母と自給自足の生活といった三つの構成になっている。ジンとビンの幼い姉妹の視点によって描かれた作品のため、子供がどのような過程で成長していくのかが、この短い時間だけでもみられる。肉体的な成長ではなく、精神的な成長なのである。父は一度も登場せず、都会で母とそれなりの生活をして、ジンは普通に小学校に通って勉強し、ビンは派手な洋服を着て、経済的に満足している生活になっている。そこから、伯母さんの家では家事をやらされたり、粗末な食事といった生活水準が下がっていき、祖父母との生活で原始的な生活へと更に下がっていくのである。小さな子供が急変する生活環境に対応していく姿をジンとビンの表情が繊細に映し出しているのだ。
中心になるのは、伯母さんの家での生活であろう。豚の貯金箱をいっぱいにするという目的があるために、子供ならではの知恵を出していくのだ。伯母さんからお小遣いなんてもらえないことで、やんちゃ少年の姿をみてお金を稼ぐ方法をみつけるのである。草むらにいるイナゴを取って、生きたまま串に刺して丸焼きにして、それを新聞紙に包んで食品として近所の人に売るのである。味付けもなく丸焼きにしたイナゴなんて美味いのかと疑問に思う。イナゴの佃煮なら味付けがしてあるから酒のつまみとしてたまに食べるけど。更なる知恵が貯金箱の中の体積を増やす単純な方法である。正直、これはやるだろうと直ぐに頭に浮かんだ。だって幼児のビンが考え出した方法だから、如何にもって感じである。貯金箱をいっぱいにしたときの達成感と絶望感の感情の起伏を二人の子役が見事に演じていたのが印象的である。
伯母さんの家から祖父母の家に移るときに、伯母さんと祖父が言い争っている姿をみていたジンが、子供ながら自分たちがどのような存在なのかを悟ったと感じとれる。祖父と子供たちの間に入ってくれている祖母の存在がクッションの役目をして、祖母に対してはジンとビンが子供らしい素顔をみせているのである。自然に振舞う子役二人が輝いており、素の姿をみせているようにみえ、子役二人はもちろんのこと、これを引き出した監督及びスタッフたちにも拍手をおくりたい。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★