これで東京国際映画祭(協賛&提供企画も含む)の韓国ものレビューを書き終えた。この作品は一般上映されるから、観たい人は少し待てばスクリーンでみれるでしょう。重い内容になっているからちょっと疲れた。
クロッシング
制作年:2008年
監督:キム・テギュン
出演:チャ・インピョ、シン・ミョンチョル
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:第21回東京国際映画祭
北朝鮮の炭鉱村で、炭鉱で働いている元サッカー選手の父ヨンス(チャ・インピョ)、母ヨンファ(ソ・ヨンファ)、11才の息子ジュン(シン・ミョンチョル)、ペットの白い犬を飼って幸せに暮らしていた。中国を行き来して密貿易をする友人宅の家に遊びにいったヨンス一家たちは、テレビで南朝鮮のサッカーの試合をみたり、贅沢品を買ったりして、ヨンス一家よりもかなり裕福な生活をしている。その家は、ジュンが通っている小学校の同級生ミソン(チュ・ダヨン)の家であり、密かにジュンはミソンに恋心を抱いている。ある日、妊娠したヨンファが栄養失調で結核にかかってしまい、結核を治す薬が北朝鮮で手に入らないことから、ヨンスは中国に不法入国して薬を買ってこようと考え、中国と北朝鮮国境の豆満江を渡って中国にたどり着く。ヨンスは中国に渡ったのはよいが、中国警察の厳しい脱北者への取り締まりから逃げる日々が続き、ある取材を受ければお金がもらえるという甘い言葉に騙され、藩陽まで行ったヨンスたちはドイツ大使館へ駆け込み、亡命者として韓国に渡ることになる。このことで妻ヨンファや息子ジュンのいる北朝鮮に戻ることが出来なくなってしまった。一方、北朝鮮で父ヨンスの帰りを待つヨンファとジュンであるが、ヨンファの病状が悪化して亡くなってしまい、両親が不在になり経済的に厳しくなったジュンは家を出て浮浪児として路上生活することになった。何とかして家族に再会したいヨンスは、ブローカーに協力してもらい、家を離れたジュンの居場所をつきとめ、お互いにブローカーを通して何とか二人を会わせようとする。約束した場所モンゴルでヨンスとジュンの親子は再会できるのかというお話。
監督は、『オオカミの誘惑』『百万長者の初恋』のキム・テギュン監督。
出演者は、炭鉱で働く父キム・ヨンスを演じるのは『木浦は港だ』『韓半島』のチャ・インピョ、11才の息子ジュンを演じるのは『小さな池』のシン・ミョンチョル、ジュンの同級生ミソンを演じるのは『ブラザーフッド (原題:太極旗を翻して)』『霊 -リョン- 』のチュ・ダヨン、ヨンスの妻ヨンファを演じるのは『リターン』『スーパーマンだった男』のソ・ヨンファ、サンチョルを演じるのは『M』『追撃者』のチョン・インギ。
脱北者の父子の過酷な運命を描き、北朝鮮の実態に迫るストーリーになっている。多くの脱北者から情報を得て、北朝鮮の内情を調査して、実話を背景に制作された作品らしい。近年では親北的な作品が多いなかで、北朝鮮の闇の部分に突っ込んで残酷に描いた点としてはおもしろいところである。
冒頭では密貿易していたミソンの両親が当局に逮捕されたり、ヨンファの体調不良のために愛犬を鍋にして食べたり、ヨンスが中国に行っている間にヨンファが亡くなったり、浮浪児として路上生活するジュンといった衝撃的なシーンをみせている。この作品が脱北ものとして珍しいのは、北朝鮮でも地方を舞台にしているところで、現地を中心に描いているところだ。炭鉱の村の人々をみせたり、井戸水を使った生活、物品が少ない市場、多数の浮浪児たちの生活、反政府収容所といった韓国映画ではあまり表現しないところに切り込んでいる。日本のニュースで隠しカメラを使って現状の北朝鮮の姿といった特番を放送しているが、あれに近い映像をみせているのだ。
中国と北朝鮮国境の豆満江を渡っていくシーンとして、二つのシーンをみせている。父ヨンスの時とジュン&ミソン&むかつく浮浪児の時である。川を泳いで中国側に行くルートであるが、国境沿いだから北朝鮮側にいる兵士、中国側にいる兵士といった二つの難所を突破していかなければいけないのだ。結果的には、ヨンスは成功でジュンは失敗という形をみせているが、成功しても失敗してもどっちも厳しい現実が待っていることをみせているのだ。
「死」というものをみせて悲しみを刺激しているのが多々みられる。愛犬の死、母ヨンファ、初恋相手のミソン、亡命しようとする脱北者を容赦なく銃で撃つ兵士、遺体を物のように扱う兵士たちである。「死」を日常として捉えている感覚をみせているのかもしれない。感覚の麻痺をどこまでみせるのかも見せ所かもしれない。
脱北ルートとして、ヨンスのように藩陽の外国の大使館に入って第三国に亡命する方法をとるのが多いが、本作ではジュンがモンゴルに行くルートを取っているのがなかなか新鮮にみえた。近年では中国を南下して東南アジアのラオスやタイまでいくルートを使っているからだ。北朝鮮と国境を接している国は、韓国と中国とロシアがあるが、何故ロシアルートを使わないのかが疑問に思っている。拘束されることを恐れていることや寒さの問題があると思うが、夏場限定ならシベリア地域も暖かいから気候の問題は解消できるであろう。試しに、ロシア側へ脱北して北上していき、ベーリング海を渡ってアメリカ領土のアラスカに行くルートをしてもらいたい。中国-モンゴル間の灼熱のゴビ砂漠をいくルートもかなり過酷だと感じたからだ。
父子の感動もの、北朝鮮の現状、亡命としてはおもしろい題材で作られた作品だと感じている。実話をベースにしているようだが、どこまで実話を用いているのかが疑わしいところだ。違和感のある数々の表現されたシーンがあるからだ。ヨンスが韓国に行くまでの心情と行動、宗教、反政府収容所、ジュンの所在をみつけるブローカー・・・ときりがないが現実を考えると無理があるのがわかるはずだ。ジュンの所在をみつける優秀なブローカーが存在するなら、北朝鮮に捕らわれている日本人拉致被害者をみつけて欲しいものだ。
全体的に重たい内容になっていることで悲惨な運命を強調しているように感じた。亡命する過程や家族愛や悲しい初恋をアピールされている。同じ民族である韓国人が観たときにどのような感情を抱くのかを知りたいところである。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★