一般上映期間中は都合が悪くて行けなかった作品。だって上映期間が短かったから。この作品を劇場で公開した勇気だけは褒めたい。とてもお客が呼べる作品ではないからだ。国際映画祭等のコンペティション部門で上映されるような内容だ。中国映画(大陸もの)が好きな人は気に入るだろう。
キムチを売る女 (原題:芒種)
制作年:2005年
監督:チャン・リュル
出演:リュ・ヒョンヒ、キム・パク、ジュ・グァンヒョン、ワン・トンフィ
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:日本版DVD
中国東北部の荒れ果てた小さな町で、キムチの露天商をしている朝鮮族スンヒ(リュ・ヒョンヒ)と幼い息子チャンホ(キム・パク)が二人で暮らしている。スンヒの夫は殺人を犯し服役したため、母子は故郷を捨ててこの地にやってきた。スンヒは、三輪車を引きながらキムチの露天商をして、安い価格でキムチを売り、息子チャンホに朝鮮語を教える日々を過ごしていた。ある日、いつものようにキムチを売っていたスンヒに、工場に勤める技術者キムさん(ジュ・グァンヒョン)がお客として現れ、珍しく同胞と出会ったことで親しげに接してくる。スンヒもキムさんも朝鮮族同士ということで心を許し合うようになり、肉体関係になってしまう。だが、キムさんには年上の妻がいる。夫の浮気現場を取り押さえたキムさんの妻は、夫に問いただすと自分を守るためにスンヒのことを娼婦だと嘘を言ってしまい、スンヒは警察に捕まってしまう。留置所に連行されたスンヒであったが、そこにキムチを買いにきていた常連で知り合いのワン警官(ワン・トンフィ)がいた。ある条件によって、スンヒは釈放されたが彼女には絶望感でいっぱいであった。果たして、スンヒに起こるその後の不幸とは何なのかというお話。
監督は、『唐詩』の中国朝鮮族のチャン・リュル監督。
出演者は、キムチ売りの女スンヒを演じるのはリュ・ヒョンヒ、スンヒの息子チャンホを演じるのはキム・パク、工場に勤める技術者キムさんを演じるのはジュ・グァンヒョン、ワン警官を演じるのはワン・トンフィ。ワン・トンフィ以外は映画初出演の俳優ばかりである。
中国朝鮮族の女性スンヒが、何もない平穏な田舎で幼い息子チャンホと二人で素朴に生活していたが、そこで出会う男たちによって翻弄され、孤独と絶望を味わう。国際映画祭で公開されるような田舎が舞台で素人中心とした典型的な中国映画である。だから、マイナー系の中国映画を鑑賞している人にとっては非常に鑑賞しやすく、韓国映画と思って鑑賞してしまうと戸惑うであろう。
母子の生活を描写するところを多く取り入れており、更に過疎化した田舎町で過ごす人たちの生活も同時に表現している。母子の生活は、スンヒがキムチの材料の野菜を洗ったり、髪を洗ったり、チャンホが朝鮮語を勉強したり、頻繁に出没する鼠を殺鼠剤で死んだ死骸をチャンホが処理したり、母の弱みにつけ込んでチャンホがテレビをおねだりしたり、といったありきたりの日々なのだ。線路近くの二軒の長屋に住んでいる母子で、もう片方には地方から出稼ぎにきていた3~4人の娼婦たちが住んでいる。娼婦たちとチャンホの交流がなかなか笑えるところで、よくチャンホと一緒に遊んであげていているのであるが、最終的には娼婦たちの独占になる結末がなかなかおもしろい。
スンヒが母であると同時に女性である一面をみせているのが、キムさんとの出会いである。キムさんに妻がいるのを知りながらも親しくしているのは、女性としてのスンヒの寂しさを表現しているのがみられる。スンヒにも男性を選択するところもあり、以前にチャンホが球蹴りでホテルに勤める男性の家の窓ガラスを割ってしまい(実際はチャンホの友達がやったのだが逃げてしまい冤罪である)、その男性と仕事の依頼した経緯で肉体関係を迫られたワンシーンがあるが抵抗して断っている。
見せない描写方法が多く取り入れられており、映像の外部で何が起こっているのかを、そのときの状況や人物の感情をみて鑑賞者が判断するように撮られているのだ。典型的なのがスンヒの家で、居間の中央部だけみえるようにしており、両サイドは死角になっており、リビングが中心になって表現されている。キムさんとのベットシーン、ホテルに勤める男性との拒絶シーン、ワン警官とのあるシーン、息子チャンホの運命的なシーンも見えないところで出来事が進行するようにしているのだ。前後の事柄を理解して、スンヒの感情を洞察することで、読みとっていく作風が最後まで貫き通しているのがわかる。
いろいろ伏線を張った小道具が印象的にみえる。三輪車、鶏や家に塗った青ペンキ、殺鼠剤、娼婦の存在、凧・・・といった終盤に繋がるつくりは上手さを感じた。韓国映画の枠になると一応「アート系」という扱いになるのかと思うが、中国映画という枠でみてしまうと、一般的な作品にみえてしまうのだ。静かにストーリーが進行していく作品だから好き嫌いが分かれる作品であろう。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★