ほとんど男優が出演していないこの作品。その分、豪華な女優陣を起用しているのでキャストとしては申し分ない。
宮女
制作年:2007年
監督:キム・ミジョン
出演:パク・チニ、ユン・セア、ソ・ヨンヒ、イム・ジョンウン
ジャンル:サスペンス、ホラー
鑑賞:韓国版DVD
李氏朝鮮時代、垂木に首を吊った女性の死体を宮女チョンリョル(チョン・ヘジン)が発見する。亡くなったのは、側室ヒビン(ユン・セア)に仕える宮女ウォルリョン(ソ・ヨンヒ)であった。首吊り自殺をしたと思われた宮女ウォルリョンの遺体を検死する女医チョンリョン(パク・チニ)は、自殺では考えられない不自然な点が多々あることから他殺であると断定する。しかも、宮女ウォルリョンの遺体を更に調べると子供を産んだ形跡があることがわかる。だが、宮女ウォルリョンが出産した記録はどこにも存在していなかった。監察尚宮(キム・ソンリョン)は、宮女ウォルリョンの死を自殺として処理するように女医チョンリョンに言うが、納得がいかないため、女医チョンリョンは独自に事件の真実を暴いて行く。女医チョンリョンは、死体の第一発見者の宮女チョンリョルに状況を聞き、亡くなった宮女ウォルリョンと同室で生活していた言葉が話せない宮女オクチン(イム・ジョンウン)に筆談で情報を得ていた。女医チョンリョンが事件を調査していくが、ある者たちが妨害してくる。果たして、宮女ウォルリョンの死の真相とは何なのか、宮女ウォルリョンが握っている隠された秘密とは何なのかというお話。
監督は、本作デビュー作のキム・ミジョン女性監督。
出演は、事件の真相を探る女医チョンリョンを演じるのは『恋愛術士』『ラブ・トーク』のパク・チニ、側室のヒビンを演じるのは『血の涙』のユン・セア、亡くなった宮女ウォルリョンを演じるのは『連理の枝』『師の恩』のソ・ヨンヒ、話せない宮女オクチンを演じるのは『ひとまず走れ!』『愛してるから、大丈夫』のイム・ジョンウン、遺体の第一発見者の宮女チョンリョルを演じるのは『恋する神父 (原題:神父修業)』『みんな、大丈夫?』のチョン・ヘジン、監察尚宮を演じるのは『誰が竜の爪先を見たのか』のベテラン女優のキム・ソンリョン、王の甥イ・ヒョンイクを演じるのは『永遠の片想い (原題:恋愛小説)』『春の日のクマは好きですか?』のキム・ナムジン。
実在する朝鮮王朝第19代粛宗の側室の張禧嬪(チャン・ヒビン)をモチーフにして物語を構成している。ひとつの殺人事件から連鎖するように次々と死者が発生する展開で、その根底にある謎を女医チョンリョンがつきとめていく。張禧嬪や朝鮮王朝時代の宮廷の決め事についての予備知識があると物語に入りやすいであろう。そのようなものを容易に知るのであれば、張禧嬪ではTVドラマ【張禧嬪】(キム・へスが演じていたドラマ)が参考になるし、朝鮮王朝時代の宮廷の決め事についても、日本でヒットしたTVドラマ【宮廷女官チャングムの誓い (原題:大長今)】などがある。張禧嬪について簡単に説明してしまえば、王妃に男の子がなかなか生まれない状態で、側室の張禧嬪が男の子を生んだことで、その子を利用して自分も権力を得ようと試みて正妻すなわち王妃になった人物。
亡くなった宮女ウォルリョンを検死した女医チョンリョンが他殺であるとわかり、宮女ウォルリョンの人間関係を調べていく。同室だった言葉が話せない宮女オクチン、死体の第一発見者の宮女チョンリョル、宮女ウォルリョンを世話していた側室ヒビンやシム尚宮(キム・ミギョン)、宮女としてはタブーの男関係である。
生前時の宮女ウォルリョンの回想シーンを挿入しながらストーリーが展開されており、何故殺されたのか、彼女にどのような秘密があったのか、その秘密が暴露することで誰が困るのかというところをつきとめていく。宮女ウォルリョンの遺体をみつけた宮女チョンリョルが、すかさず宮女ウォルリョンが付けていた装飾品を奪ったところにヒントが隠されており、この装飾品は宮女の身分では手に入らないものだからだ。宮女ウォルリョンが出産した跡があることから、相手の男は誰なのか、どのように出産したのか、出産前後に関わった人物、その子供は何処にいったのかが焦点になっている。
サスペンス要素としては、女医チョンリョンの捜査と平行して、事件の真相に関わる人物が次々と殺されていく展開だから、自ずと犯人はしぼれてくる。犯人を当てるのであれは然程難しくないが、このような殺人を起こす動機の方がおもしろさがある。宮女は貞操を守るしきたりになっているが、亡くなった宮女ウォルリョンだけでなく、ある宮女も男関係があるところに意外性を感じるであろう。その後にとる行動もかなり痛々しいシーンもあるが、その男性に対する想いが込められたいる。
地味ではあるが、女医チョンリョンの弟子スギョン(ハン・イェリン)の行動がおもしろく描かれている。女医チョンリョンの味方である弟子スギョンは、捜査に協力的で気になる点を報告したりするが、一方で尚宮らがいる前で余計なことを滑らしたり、手作りタバコを隠れて吸ったり、幽霊を信じたりとおもしろい存在なのだ。
拷問シーンからの始まりは、宮女のしきたりを破ったことの制裁がいかに恐いのかをみせつけている。ホラーという観点として、この拷問の酷さが含まれていると感じられる。爪と皮膚の間に針のような棒を刺したり、逆さ吊り、暴行、ギロチンなどなどがみられ恐怖感がある。もうひとつは、宮女ウォルリョンの怨霊が度々登場してくるところである。現実的なサスペンスと思いきやオカルト的要素を交えているので、この辺りがTVドラマと違うところであろう。
側室ヒビンが準主役級で登場しているのに、王や王妃がほとんど登場しないのも珍しい展開で、しかも身分の低い宮女にスポットを当ててストーリーを進めている発想はおもしろいところだ。朝鮮王朝時代の時代劇が好みの人にはおもしろいと感じるであろう。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★