青山で行われた東京国際女性映画祭で鑑賞。イ・オニ監督が来られて舞台挨拶&ティーチ・インが行われた。何よりも実物のイ・オニ監督って若くて綺麗である。隣りの席のおばさまは、こんなお嬢さんが監督をしているのってつぶやいていた。ティーチ・インでの内容は、原作との比較、変更点、どのような経緯で原作本を手にしたのか、イ・ミヨンありきの作品、そして男に依存する女ヒスを演じるイ・テランをキャスティングした経緯や彼女のイメージやヒスの重要性を語ってくれた。今年の11月に一般上映される本作品であるが、興行的には厳しいであろう。内容もイマイチだが、それよりも韓流ファンって男性俳優目当てで鑑賞する人が多い傾向があるから、女性二人が主役を張る作品の注目度が低いであろう。
肩ごしの恋人
制作年:2007年
監督:イ・オニ
出演:イ・ミヨン、イ・テラン、キム・ジュンソン、マルコ
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
鑑賞:第20回東京国際女性映画祭
結婚している青年実業家のヨンフ(キム・ジュンソン)との恋愛を楽しむ32歳独身の写真家のジョンワン(イ・ミヨン)。結婚が女の幸せと思い込み裕福な実業家ヒョンシク(ユン・ジェムン)と結婚して派手な生活をする32歳主婦のヒス(イ・テラン)。恋愛や結婚の考え方が違うジョンワンとヒスは10年以上の親友で、二人の友情が壊れないのは男性のタイプが違うからだと言い張るジョンワン。それぞれ二人は、自分の思い通りに人生が進み満足していたが事態が急変した。ある日、ヒスは買い物をしているときに夫ヒョンシクが若い女性エリ(キム・ファジュ)とデートしているのを目撃してしまう。夫の愛人エリから電話で呼び出されたヒスは、自分から誘ったのではなくヒョンシクから誘われたことやヒョンシクに気がないことを告げるエリは強気な態度にでてきて、しかも待ち合わせした店での食事代まで払わされた。夫の浮気が原因でヒスは、家出をしてジョンワンの家に転がり込んだ。ジョンワンは、今の恋愛を楽しみ割りきった考えをして妻のいるヨンフとつきあっていたが、ヨンフの夫婦間で離婚の話しが持ち上がっていることをきかされ、ジョンワンは今の恋愛に迷っていた。不倫される側と不倫している側という正反対な立場の二人が同居生活をする。ジョンワンとヒスの恋愛や結婚に対して価値観が違う二人が、衝突して口論になったり、ときにはお互いが頼ったりと友情が深まる。人生の岐路に立つ二人の今後は、どのようにして人生の選択をするのかというお話。
監督は、『アメノナカノ青空 (原題:...ing)』のイ・オニ監督。出演者は、独身で写真家のジョンワンを演じるのは『純愛中毒 (原題:中毒)』『タイフーン』のイ・ミヨン、金持ちの男性と結婚して主婦をしているヒスを演じるのは『男物語』のイ・テラン、ジョンワンの恋人ヨンフを演じるのは『不機嫌な男たち (原題:可能な変化たち)』『親知らず』のキム・ジュンソン、モデルをしながらバーで働くマルコを演じるのは役名と同じ名前のマルコ、ヒスの夫ヒョンシクを演じるのは『グエムル -漢江の怪物-』『熱血男児』のユン・ジェムン、ヒョンシクの愛人エリを演じるのは本作スクリンデビューのキム・ファジュ。
直木賞受賞し、大ベストセラーとなった唯川恵の小説「肩ごしの恋人」が原作。日本のTVドラマでも、2007年夏に米倉涼子と高岡早紀が出演していたTVドラマ版【肩ごしの恋人】が放送された。日本のTVドラマ版は、原作本の通りにストーリーを進めており、さらにサイドストーリーも含めた形をとっている。韓国映画版は、原作本や日本のTVドラマでも登場するゲイ、ゲイのマスター、男子高校生の存在がなく、主人公二人のおもしろい過去が欠落していることで、かなり物足りなさを感じる内容である。原作本と本作品とで、ラストが変わっている点は意識して作ったことを監督が説明していた。
不倫でも恋愛、だれからも束縛されず気ままな生活を保ちたい、仕事が生き甲斐でたくましく、さっぱりとした性格なジョンワン。一方で、恋愛よりも結婚を優先し、女に生まれたからには女の武器を使って男を釣り、男に養ってもらうことが当たりまえ、男に依存する人生観をもつヒス。このように考え方が違う二人は親友であり、お互いがどのような性格であるかわかっているからこそ長く親友でいられるのである。
ヒスの夫ヒョンシクが不倫していることが明らかになり、ヒスは家を出てジョンワンの家に住みつくのである。ヒスは、夫が浮気してもかまわないことや夫が他の女性からもてることは気にしてなかったが、夫の愛人ユリに言われたことに腹が立って家を出たのだ。おもしろいのは、ユリは妻から夫を奪ってやろうという気が全くなく、男のほうが勝手によってきたという本妻に対して挑発的な言動であり、ヒスからしてみれば女のプライドがズタズタにされた感じになっているのが表現されている。
ジョンワンは、自由な恋愛観を持っており、妻がいても関係なくマイペースな恋愛をする。大きく変化したのは、恋人ヨンフが妻と別れるかもしれないという状況である。ジョンワンはヨンフに対して愛情が深くなっていったこと、日本へ出張するヨンフから一緒に行こうと言われて日本語の勉強を必死に始めるジョンワンの気持ちの変化が見られる。
本当はもっと注目されなければいけないモデル兼バーテンダーのマルコの存在である。マルコは幼い頃にスペインに里子に出されて、休みの期間を利用して韓国に来て産みの母親を探していたのだ。ジョンワンは、モデルの写真撮影の仕事で知り合ったマルコと仲良くなり、マルコが働いているバーでお酒を飲みに行き、彼のこれまでの経緯を聞き、泊まるところがなくバーで寝泊りしているマルコをジョンワンの家で一緒に住むことになる。マルコの設定自体はいいのであるが、この作品ではジョンワンとヒスの女性陣二人と22歳青年マルコとの三人の共同生活がつまらなく描かれているのが残念である。しかも、後半になってマルコを使うようでは原作のおもしろさを消してしまっている。
終盤に向けてみえるところは、ジョンワンとヒスの女性の力強さがみられる。何もかも男に依存していたヒスは積極的に行動するように変化していき、ジョンワンは仕事、恋愛、友情、将来の方向性といった様々な面で迷いながら決断をしていく姿が、女性の視点からすれば元気を与えてくれるような感じにみえる。
この作品は原作本及び日本版TVドラマを鑑賞している人にとっては消化不良な内容である。韓国版では登場人物の薄さが大きな欠落ポイントになっており、本当ならばそれぞれの登場人物が繋がっているはずが削除しているから、ジョンワンとヒスの心の成長だけがクローズアップされてしまった。勢いで仕事を辞めてしまう主人公(本作品ではジョンワンに相当)、男子高校生(本作品ではマルコに相当)と結果的に関係を持ってしまう主人公(本作品ではジョンワンに相当)、男しか愛せないゲイに恋する準主人公(本作品ではヒスに相当)、準主人公(本作品ではヒスに相当)は過去二回離婚経験をしており今の夫(本作品ではヒョンシクに相当)は主人公(本作品ではジョンワンに相当)の元恋人という複雑な関係などなど、おいしいネタが削除されているのだ。韓国というお国柄から「ゲイ」という存在を扱うには難しいのかもしれないと感じる。幾つか「ゲイ」を取り扱った作品もあるが不人気である。まだ姦通罪が法律として存在している韓国で、女性の不倫を正当化し恋愛として表現している作品なだけに韓国人の感性からするとこの作品の評価は難しいところだ。
宣伝の仕方もちょっとずるいところで、イ・ミヨンの大胆なセクシーシーンがあるかのように予告編を作り、男性の下心を刺激してみてもらおうとしているのだ。蓋を開けてみれば露出度は低く(今までのイ・ミヨンとしては肌をみせている方)、それ目当てに鑑賞すると「オイオイ」って感じになるだろう。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★