ここのところ、コメディ作品のレビューがないのでこの作品にした。続編の『麻婆島2』も昨年韓国で劇場公開されたが、そちらはまだ未見である。主人公のイ・ジョンジンとイ・ムンシクの配役と婆さん5人のベテラン女優の配役は見事である。オ・ダルスやソ・ヨンヒもいい位置づけになっているし、特別出演のユ・ヘジンやキム・サンホらもインパクトに残る。
麻婆島
制作年:2005年
監督:チュ・チャンミン
出演:イ・ジョンジン、イ・ムンシク、ヨ・ウンゲ、キム・スミ
ジャンル:コメディ
鑑賞:韓国版DVD
ヤクザからカタギになるために茶房(韓国の喫茶店)を経営するシン社長(オ・ダルス)は、経営難で苦しんでいた。毎回購入しているロトくじを店員のチャンミ(ソ・ヨンヒ)に買ってくるように頼んだ。テレビで結果をみていたシン社長は、160億ウォンを当てたことを知り、チャンミの帰りを待つがチャンミは逃げてしまった。シン社長は、当たりクジを取り戻すためにチャンミを捜す作戦として、賄賂を渡して不良刑事チュンス(イ・ムンシク)に協力を求めた。チュンス刑事に出された条件としてシン社長の子分ジェチョル(イ・ジョンジン)と一緒に行動することである。以前にジェチョルはチュンス刑事に逮捕された経験があり、二人の仲は最悪である。警察の情報網を使ったチュンス刑事は、チャンミの本当の名前はクッスンだと分かり、故郷は麻婆島であることがわかった。麻婆島行きの船は週に1便しかなく、警察の力を使ったチュンス刑事は急遽小船を用意してもらい、運転手の漁夫(ユ・ヘジン)にチュンス刑事とジェチョルを麻婆島まで送ってもらった。麻婆島には、5人の老婆しかいない島だった。チュンス刑事とジェチョルは、婆さんたちに身分を隠し釣り人と偽ってクッスンが戻ってくるのを待った。男を見るのが20年ぶりの婆さんたちは、チュンス刑事とジェチョルにいろいろと仕掛けてくる。婆さんたちと共同生活をするチュンス刑事とジェチョルは、自給自足の生活を共にして交流を深めていくが、幾度となくアクシデントが起こる。果たして、チュンス刑事とジェチョルは目的であるチャンミことクッスンを捕まえて当たりクジを取り戻すことができるのか、麻婆島にいる婆さんたちとチュンス刑事とジェチョルとの間に何が起こるのかというお話。
監督は、本作デビュー作のチュ・チャンミン監督。出演者は、シン社長の子分ジェチョルを演じるのは『海賊、 ディスコ王になる』『マルチュク青春通り (原題:マルジュク通り残酷史)』のイ・ジョンジン、チュンス刑事を演じるのは『ビッグ・スウィンドル!(原題:犯罪の再構成)』『達磨よ、ソウルへ行こう』のイ・ムンシク、麻婆島の婆さん会長を演じるのは『ひとりで廻る風車』『いつも終電に乗って来る人』のヨ・ウンゲ、麻婆島のチナン婆さんを演じるのは『偉大なる遺産』『スーパースター カム・サヨン』のキム・スミ、麻婆島のヨス婆さんを演じるのは『ナチュラル・シティ』のキム・ウルドン、麻婆島のマサン婆さんを演じるのは『オー!ブラザーズ』のキム・ヒョンジャ、麻婆島のチェジュ婆さんを演じるのは『もし、あなたなら ~6つの視線~』のキル・ヘヨン、チャンミことクッスンを演じるのは『ラブストーリー (原題:クラシック)』『ライアー』のソ・ヨンヒ、シン社長を演じるのは『オールド・ボーイ』『甘い人生』のオ・ダルス。
チャンミことクッスンが160億ウォンの当たりクジを持って逃げたのをジェチョルとチュンス刑事が追って辿りついたのが、婆さん5人しか住んでいない麻婆島という小さな孤島で、二人は婆さんたちからとんでもないことに合う。
序盤は、ジェチョルとチュンス刑事がチャンミことクッスンの故郷の麻婆島に行くだろうと予想して先に行って待ち伏せするのだ。麻婆島に行くまでも大変で、地図に載っていない孤島で週一便というなかなか行けない場所なのだ。ジェチョルとチュンス刑事は警察の力を使って漁夫に小船を出してもらうのであるが、テンションが高い漁夫と対照的に船酔いで吐いているジェチョルとチュンス刑事がおもしろく描いている。漁夫を演じるユ・ヘジンの登場は2シーンしかないが、かなりインパクトに残るキャラクターを演じている。麻婆島に着いて彷徨い、真夜中に小さな家の庭で休む二人にホラー映画級の恐怖を起こす麻婆島の婆さんたちがおもしろく描かれており、草むらを横切る白い服の人影がみえたり、ゾンビのように無表情で現れたりしているのだ。
久しぶりのお客さんで婆さんたちから歓迎された二人は、食事をもらい、クッスンの部屋があるヨス婆さんの家で寝泊りすることになる。そこにはヨス婆さんの他に小さな体系のチェジュ婆さんも一緒に住んでいる。何故かチェジュ婆さんはヨス婆さんから女中のように扱き使われている姿をみて、ジェチョルとチュンス刑事は不思議に思うのだ。これは観ている側も不思議に思う光景であるが、この理由は後半になってチナン婆さんがジェチョルとチュンス刑事にこの島で起こった彼女たちの歴史を語ってくれるのでそこでわかる。チェジュ婆さんは耳が聴こえないだけでなく更に悲しい過去があるのだ。
始めのうちは、二人をお客さん扱いしてくれたが、農作業や家の修理などをやらされて完全に主導権を婆さんたちに握られていくのだ。逃げたいけど船は週一便だし、泳いで陸まで行ける距離でないのでどうしょもないし、シン社長からは留まるように命令されるはで踏んだり蹴ったりの状況なのだ。だが、嵐の中で婆さんが倒れてきた屋根に挟まっているのを二人が助けだし、ジェチョルは背中に大怪我をして婆さんたちは交代で看病してくれたことで、二人と婆さんたちにいつしか見えない絆ができているのだ。段々とゆったりとした時間と自給自足の生活に慣れてきた二人がみられ、序盤であれだけいがみ合っていたジェチョルとチュンス刑事の間にも変化が出てくるのだ。中盤まででコメディ要素とヒューマンドラマ要素をうまく融合させて進行しているので、テンポがすごくよい。
婆さんたちとジェチョルやチュンス刑事との価値観が違うのがみられるのは、4人の婆さんたちが花札をしているときで、160ウォン買ったとか、10ウォン足らないと喧嘩をしているシーンで、この島にお金なんて意味のない物だとみせつけてくれるのだ。ジェチョルやチュンス刑事は、お金目的でこの島に来ているので対照的にみせているのだ。
ジェチョルやチュンス刑事の服装の変化も笑いのみせどころである。島に到着したころは、ジェチョルは革ジャンバー、模様の入った襟付きシャツ、黒のズボンといったチンピラ風な格好、チュンス刑事は釣り人風なラフな格好をしていたが、時間が経過していくと婆さんたちの洋服を着たり、もんぺをはいたりと二人が「婆さん化」しだすのだ。服装を語るところで好きなシーンは、会長の婆さんがチュンス刑事になぜ重作業しているのにジェチョルは革の服をいつも着ているのかを尋ねているシーンで、綺麗な服を着てバリバリに化粧しているマサン婆さんを例にして説明しているところはうまい。会長の婆さんもすんなり納得するし。
ストーリーが動き出すのは、クッスンが麻婆島に現れてからで当たりクジの行方やシン社長ら部下たちも麻婆島に来てからである。そこで、ジェチョルとチュンス刑事の心の変化、婆さんたちの行動、シン社長らの行動で大きくストーリーが動くので鑑賞して楽しんでもらいたい。「麻婆島」という架空の島であるが、しっかりと意味があるのは鑑賞後に分かる仕組みになっている。「麻」は終盤に出てくるある秘密のもの、「婆」はもちろん婆さんを示しているのだ。婆さんたちの言葉や行動、ジェチョルやチュンス刑事との絡みがうまく噛み合って、コメディを作り出している。そして、この島に住む婆さんたちの過去にもドラマを持っているから、ヒューマンドラマの要素をうまく引き出せている。『愛を逃す』でもみられた各キャラクターに味があり、状況によってうまく人を使っているのがみられる。二枚目俳優で作品を盛り上げるのでなく、演技派の俳優たちを集めている作品だけあって自然な演技で笑いを誘い、ストーリーが濃厚で、骨太な作品に仕上がっている。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★★