ヒューマニスト
制作年:2000年
監督:イ・ムヨン
出演:アン・ジェモ、カン・ソンジン、パク・サンミョン、ミョン・スンミ
ジャンル:コメディ
鑑賞:日本版DVD
元退役軍人で不動産事業で金持ちになった父(パク・ヨンギュ)を持つ息子テオ(アン・ジェモ)は裕福な生活をしている。テオが、父と継母(ノ・ギョンヘ)と腹違いの弟サンオ(パク・チュナ)と暮らしている。テオにはユーグレナ(カン・ソンジ)とアメーバ(パク・サンミョン)という二人の友人がおり、二人は孤児で貧しかった。ユーグレナは暴力的な性格で不遇な画家、アメーバは知恵遅れの太った青年でテオとは金目当て付き合っている。そんな三人が酒を飲みながらドライブしていると、検問していた警察官を引き殺してしまう。これを目撃した同僚警察官が、逮捕しない代わりに2億ウォンを要求する。テオはお金を用意するために父に頼むけれど、断られたためにある計画を練る。三人で父を誘拐して身代金を引き出すことである。果たして、三人はこの誘拐を成功しお金を手に入れることができるのかというお話。
本作がデビュー作のイ・ムヨン監督。出演者は、主人公テオを演じるのは『悪い女 青い門』『ドクターK』のアン・ジェモ、ユーグレナを演じるのは『アタック・ザ・ガス・ステーション!』のカン・ソンジン、アメーバを演じるのは『新装開店』『なせば成る』のパク・サンミョン、修道女ロサを演じるのは『美しい季節』『実際状況』のミョン・スンミ。
腐敗した社会を皮肉って表現するブラック・コメディーである。教会の神父、家族関係、警察、若者の狂った非人間的な行動を題材にしている。題名『ヒューマニスト』とは正反対の内容である。サングラスをしたテオが過去形で所々に出てきて話しているシーンは最後に繋がる。登場人物の殆んどがどこかおかしいく人間として欠陥がある。テオは何でもお金で解決できると思っているし、テオの父は不倫をしており継母には男がいないか常に監視しており、継母も父が留守のときに男を招き入れ不倫している。家族らが行く教会の神父と父とのやりとり、兵役中に先輩の嫌がらせされて銃で殺しそのまま逃亡している片足が腐敗している乞食、友人ユーグレナの暴力的な性格、友人アメーバのバカな振る舞い、警官が口封じの賄賂といったところだ。まともなのは訛り口調の修道女ロサぐらいだろう。
三人でテオの父を誘拐して身代金を引き出す計画をしたが、実行時に大きなトラブルが起こり思いもよらない展開になっていく。テオの父を誘拐するためにテオの家で張っていたユーグレナとアメーバが連れ去ったのは継母の不倫相手であり、その現場を偶然みてしまった修道女ロサも一緒に誘拐するはめになる。継母の不倫相手をトランクに入れて運転していたら後ろから車が衝突してトランクからは血が流れている。ユーグレナとアメーバはテオの父を誘拐して交通事故で死んでしまったと思い込み、テオの方は父に道路で会っているために誘拐が失敗したと思っている。三人のずれが最後にとんでもないことが起こってしまう。
社会に対するメッセージが多く詰まった作品でもある。徴兵制、地方差別、障害者差別、貧富の差、職権乱用。随所にテオが徴兵制を逃れるために、電球に近づきで視力を落とそうとしたり、醤油を一気飲みしたりとなんとか徴兵免除されるように試みるところは何気におもしろい。修道女ロサの訛りがテオの弟サンオに移ってしまい継母が修道女長に文句を言い、修道女ロサに訛り口調を直すように詰め寄る。まさに地方差別なのに、継母は決して地方差別をしているのではないがと断りをいれて抗議しているが言い訳にしかきこえない。
自分の父親を誘拐してお金を奪う非人間的行為が、さらに事件が連鎖していってしまう。アン・ジェモが主人公であるが、カン・ソンジンとパク・サンミョンが大きな働きをしていることで三人が主役のような存在である。脇を固める父、継母、弟、父の不倫相手、継母の不倫相手、修道女ロサ、乞食と濃いキャラが揃っている。映像的に少し汚いシーンもあるが、全体的に通してみるとブラックコメディとしてはまあまあの出来である。腐敗した社会にメスを入れるような皮肉たっぷりの内容はよい視点で捉えている。『ヒューマニスト』って題名でこれほど非人間的というのもすごい。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★