原作は同じで日本のテレビドラマ「ガリレオ」の劇場版として日本版もすでに公開されている。韓国版は簡単に云えば、主演だった天才物理学者の湯川(福山雅治)と女性刑事の内海(柴咲コウ)がいないキャストと思った方がわかりやすい。
来月に日本で一般上映するので、観たい人はちょっと待って。
容疑者X 天才数学者のアリバイ (原題:容疑者X)
制作年:2012年
監督:パン・ウンジン
出演:リュ・スンボム、イ・ヨウォン、チョ・ジヌン
ジャンル:サスペンス
学生時代は同級生から天才と云われていたが、現在高校の数学教師をしているキム・ソッコ(リュ・スンボム)。ある日、ソッコが住んでいるアパートの隣りに、叔母ファソン(イ・ヨウォン)と姪ユナ(キム・ボラ)の二人家族が引越して来た。ソッコは、ファソンが働いているカフェで、毎朝弁当を買っていく常連さんである。11月の夜、ファソンの部屋に元夫チョルミン(カク・ミノ)が訪ねてきて、ファソンに暴力を振るって姪ユナにちょっかいをだす。チョルミンがファソンに襲いかかったのでユナが助けに入り、二人がかりで暴れるチョルミンを抑えつけて、アイロンのコードでチョルミンの首を絞めて殺害してしまった。大きな音をしていたことで気になったソッコは、ファソンの部屋を訪ね、事の真相を知る。ソッコは、二人を守るために完全犯罪を考えて、二人にアリバイを用意し、ソッコが死体遺棄をする。数日後、漢江近くで指紋が消された死体が発見される。警察は、現場検証をしてミンボム刑事(チョ・ジヌン)とサンジュン刑事(キム・ユンソン)が、死体近くに不自然な自転車をみつけ、近くのドラム缶の中から宿の名前が書いてある鍵をみつける。鍵番号の宿泊客のDNAと漢江近くで見つかった死体のDNAが一致したことで、宿に残された遺留品から死体がキム・チョルミン(カク・ミノ)と判明した。警察は、死亡推定時刻を11月9日午後4時から午後11時と推測し、さらに死体近くにあった自転車がセルフサービスのレンタル自転車で午後7時36分と記録があることで死亡推定時刻がある程度しぼることができた。ミンボム刑事は、被害者の元妻であるファソンを疑い、聞き込み捜査をする。事件のあった日、ファソンは朝から働いており、仕事が終わった後に姪ユナと一緒に映画館で映画をみていたことでアリバイがあった。ミンボム刑事は、ファソンの隣りの部屋に聞き込みをしたとき、ドアから出てきたソッコをみて驚く。ミンボム刑事とソッコは、高校の同級生でソッコが数学に関して天才的な頭脳の持ち主であることを思い出す。二人は酒を呑みながら昔話をして、ミンボム刑事がソッコに事件について話して、そのときのことを訊ねるが収穫はなかった。果たして、警察はソッコが作り出した完全犯罪を暴くことができるのかというお話。
監督は、『オーロラ姫』『視線 1318』のパン・ウンジン監督。
出演は、数学教師キム・ソッコを演じるのは『人類滅亡報告書』『死体が帰ってきた』のリュ・スンボム、カフェで働くペク・ファソンを演じるのは『光州5・18 (原題:華麗なる休暇)』『味噌』のイ・ヨウォン、チョ・ミンボム刑事を演じるのは『犯罪との戦争:悪い奴らの全盛時代』『パーフェクト・ゲーム』のチョ・ジヌン、サンジュン刑事を演じるのは『アタック・ザ・ガス・ステーション!2』『戦火の中へ (原題:砲火の中へ)』のキム・ユンソン、ファソンの姪ユナを演じるのは『よいではないか』『天国の子どもたち』のキム・ボラ、スポーツ店で働くナム・テウを演じるのは『素敵な人生』のイ・ソクチュン、ファソンの同僚チョンスクを演じるのは『私の愛、私のそばに』『怖い話』のイム・ソンミン、ファソンの元夫キム・チョルミンを演じるのは『甘い人生』『ヒーロー』のカク・ミノ、チーム長を演じるのは『ボクとマウミの物語 (原題:マウミ2)』『ネバーエンディング・ストーリー』のクォン・ヘヒョ、課長を演じるのは『執行者』『ミス・ギャングスター (原題:六穴砲強盗団)』のナム・ムンチョル。
原作は、日本の東野圭吾の推理小説「容疑者Xの献身」であり、日本でもテレビドラマシリーズの延長戦上で映画化された。原作と大きく違うところは、トリックを解いていく天才物理学者が存在していないところである。ガリレオシリーズと呼ばれる本作で、主人公である天才物理学者が存在しない不思議な形で脚色している。原作では、天才物理学者が元大学時代の同級生刑事から依頼されて、謎のトリックを物理学から導いて解くのである。しかも天才物理学者と数学教師と刑事は、元大学時代の同級生でいろいろと接点がありながら、事件の真相に迫っていく。本作品の場合は、天才物理学者と刑事が合体した人物を形成しており、刑事が事件のトリックを解いていくようにしている。登場人物の設定も違っており、母子が叔母と姪になっていたり、小さな弁当屋がカフェになっていたり、変化をつけている。
殺人事件は偶発的に起こったもので、物音をきいた隣りのソッコが叔母ファソンと姪ソナの二人を助けるために、事件の処理を行い、二人に指示を出したとおりに行動するように命じて、完全犯罪を実行していくのである。ファソンのカフェでソッコが毎朝弁当を買っていくことで、ファソンの同僚チョンスク(イム・ソンミン)がソッコの姿をみて、ファソンに好意を持っていると茶化しているのだ。ファソンは、元夫チョルミンから逃げるように離婚をして、姪ソナを育てることに必死で生活しており、自分の幸せを二の次にしているのがみえるのだ。姪ソナは、ソッコの気持ちを応援しており、ファソンが母でないからそのような感情を持てるのであろう。ファソンが結婚に失敗しているから、余計にそのように思うのであろう。
ソッコの行動は、常に警戒しており、ファソンとの連絡は常に公衆電話からしている。ファソンとの接点を外部からわからないようにするためで、証拠が残らないように公衆電話から電話をかけて、心のケアをしながら、警察からの尋問にどのように対応すればよいか指示を出していくのだ。警察はファソンを疑っており、嘘発見器で尋問されても証拠になるようなデータがでないのだ。なぜならば、本当に映画館に行って映画を観ており、嘘をついていないからである。
ソッコが殺人事件のトリックを作ることで完全犯罪を実行し、ファソンとユナを事件から遠ざけている。殺人事件は序盤に事実をみせており、被害者の死亡推定時刻にアリバイがあるファソンとユナ、二人が知らないところでソッコが殺人事件に細工をして警察をかく乱させているのだ。数学だけ興味を示していたソッコが、このトラブルに遭遇し、このような行動に出たのはファソンに対しての感情である。そしてファソンがテジョンで働いていたころからの知り合い男性ナム・テウ(イ・ソクチュン)が現れたことで、ソッコの感情が揺れ動いていくのである。
終盤にトリックの全貌がみえる仕組みになっている。ファソンとソナのアリバイ、被害者の殺害時刻、ある偽装工作、レンタル自転車の謎、身元を隠すような遺体処理、ソッコの欠勤日。ミンボム刑事が調べることで徐々に真相がみえてきて、ソッコがある行動に出て事件に蓋を閉める形をとってしまう。つまらなかったソッコの人生は、ファソンとソナとの出会いによって現在生きているのが終盤に明らかになり、運命的なところもみせているのだ。ラスト間際のソッコの表情は印象的にみせており、献身的な愛を感じさせてくれる。
原作を読んだ者として、天才物理学者の存在がいることで数学教師と共通項がみえて、感情のスイッチが入ったときの数学教師の姿を面白くみせていたので、脚色された韓国版は原作を超えられない内容になっている。そこそこ楽しめる内容になっているので、原作を読んでなくても満足するかもしれない。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★
【追記】 2013.04.21
2013.04.20から日本で一般上映するため、邦題を追記した。