韓国版の156分ものをみた。日本一般上映(2012年1月)や東京国際映画祭上映(2011年10月)は、140分ものである。
哀しき獣 (原題:黄海)
制作年:2010年
監督:ナ・ホンジン
出演:ハ・ジョンウ、キム・ユンソク、チョ・ソンハ
ジャンル:アクション、サスペンス、ヒューマンドラマ
鑑賞:動画
中国の延吉でタクシー運転手をしている朝鮮族のキム・グナム(ハ・ジョンウ)は、娘スンヒと母の三人で暮らしている。グナムの妻ファジャ(タク・ソンウン)は、韓国へ出稼ぎに行っており、現在音信不通になっている。グナムは、妻ファジャの入国手続きをするために六万元が必要だったことで借金をして、毎月給料が出るとその借金を返済する日々が続いていた。グナムは、何とか借金を減らそうと麻雀をするが、逆に負けてしまい借金が膨らんでしまう。そんなとき、表向きは犬商人をしているミョン・ジョンハク(キム・ユンソク)から、借金を全部返済できるおいしい仕事を紹介される。ミョンは、裏ビジネスで闇ブローカーのボスをしており、朝鮮族を韓国に密航させている。ミョンは、グナムに韓国へ行き、ソウルに住んでいるキム・スンヒョン教授(カク・ピョンギュ)を殺害して、殺しの証拠となる彼の親指を切断して持ってくる仕事である。グナムは、妻ファジャの行方も知りたいので、この殺人の仕事を引き受け、指示通りに大連から船に乗り、韓国の蔚山に密入国した。グナムは、蔚山にいるブローカーのシン・ヨンベ(スン・ウィヨル)から、10日後に仁川から船が出ることを知らされ、目的地のソウルに向かう。キム・スンヒョン教授のマンションを見つけたグナムは、数日間近くで張り込みをして、キム教授の行動やマンションのセキュリティシステムを調べて準備をする。クナムは、張り込みの合間に妻ファジャが働いているという店に行くが既に辞めており、その後の妻の行方を関係者に聞き込みしながら調べていき、妻のアパートをみつけたが留守で、隣の住人が一時間まえに男と喧嘩をしていたことを教えてくれた。殺害実行日、キム教授の帰宅まえにキム教授のマンションに怪しい二人の男が入っていった。その後、キム教授が帰宅してマンション前で降ろし教授専用運転手(キム・ギファン)が見送り、数分するとキム教授と二人の男が戦い出し、それに気づいた教授専用運転手が階段で駆けつけ、さらにグナムもマンション内に入った。怪しい二人の男はある人物から頼まれた殺し屋で、キム教授と戦って死んでしまい、教授専用運転手がキム教授の首をナイフで刺して殺した。それを目撃したクナムと戦いになり、教授専用運転手をやっつけて、すばやくキム教授の親指を切断して持ち、警察が駆けつける中、何とか追いかけてくる警察をふりきって逃げた。グナムは、キム教授を殺害していないが、結果的に死んだし親指も手に入れたことでミッションは成功したと思っている。ニュースの報道では、監視カメラの映像から逃げる姿のグナムが映っており、グナムがキム教授殺人犯として指名手配された。グナムは、仁川の指定された場所に行ったが、そこは工事現場であり、ミョンに国際電話しても繋がらない。行き場を失ったグナムは、事件の真相を調べながら、行方不明の妻ファジャを捜すお話。
監督は、『チェイサー (原題:追撃者)』のナ・ホンジン監督。
出演は、タクシー運転手のキム・グナムを演じるのは『チェイサー (原題:追撃者)』『国家代表』のハ・ジョンウ、闇ブローカーボスのミョン・ジョンハクを演じるのは『チェイサー (原題:追撃者)』『チョン・ウチ 時空道士 (原題:田禹治)』のキム・ユンソク、バス会社社長のキム・テウォンを演じるのは『執行者』『味噌』のチョ・ソンハ、キム社長の右腕チェ・ソンナムを演じるのは『グッドモーニング・プレジデント』『シークレット』のイ・チョルミン、キム・スンヒョン教授を演じるのは『アジョシ (原題:おじさん)』『深夜のFM』のカク・ピョンギュ、キム教授の妻を演じるのは『自殺同好会 (原題:4曜日)』のイム・イェウォン、クナムの妻ファジャを演じるのは『ありがたい殺人者』『ビー・デビル (原題:キム・ボンナム殺人事件の顛末)』のタク・ソンウン。
多くの要素が含まれている作品で、中国に暮らす朝鮮族を扱ってグナムの家族の問題や生活をみせ、請け負い殺人のために韓国に密入国、冤罪で指名手配される中で多くの人物たちに追われ、ターゲットになったキム教授殺人事件の真相を探りだす。スピードと残虐性を備えたアクション、殺人事件を紐解くサスペンス、グナムの家族や朝鮮族のヒューマンドラマをみせている。
序盤では、朝鮮族が多く住む中国の延吉を舞台にして、借金を返すグナムの生活をみせている。妻ファジャが韓国に出稼ぎに行って連絡も途絶えて帰ってこないから、グナムに周囲の人たちから妻が浮気して韓国で生活しているとたたかれているのだ。タクシー運転手として働いていたグナムが、いきなり会社の経営状態が悪いことで解雇されるといった厳しい環境で生活している姿を淡々とみせているのだ。幼い娘と年老いた母、出稼ぎにいって連絡ひとつもよこさない妻、借金で苦しくなる日々といったグナムの生活をみせることで、同情的にみせながら選択権がなく、犯罪に流されていく姿をみせている。韓国が抱えている犯罪問題のひとつで、中国における朝鮮族を使ったビジネススタイルをみせている。依頼主の朝鮮族のミョンは、中国人の手下を使っており、韓国国内にもミョンの手下のブローカーがいるのだ。ミョンからするとグナムを使い捨ての鉄砲玉として送り込んでいるのがみえるのだ。
キム教授を狙っているのは、グナムだけではないのだ。表向きはバス会社社長で裏では暴力団ボスのキム・テウォン(チョ・ソンハ)が、キム教授と問題を抱えており、キム教授を殺害のために二人の殺し屋を手配していたのだ。しかも、教授専用運転手もその一味となっており、最終的にキム教授を殺しているのだ。そんな事情も知らないグナムは、キム教授を殺害するためにその現場に遭遇してしまい、世間からは殺人者として警察から追われる立場になるのだ。もちろん、警察に行って殺人をしていないことを説明しても、密入国している立場なので、どっちにしろ逮捕される。行き場のないグナムは、警察から逃げながら、消えた妻を捜し、そしてミョンに騙されたと悟って反逆に出るのである。
キム教授の殺害には、キム・テウォンの指示とミョンの指示が重なった形になっており、別々の目的を持って実行されている。キム・テウォンの存在によって、ストーリーが意外な展開をみせており、彼の右腕チェ・ソンナム(イ・チョルミン)が動くことによって事態が変化していくのだ。キム・テウォンは、キム教授殺害現場の目撃者であることからグナムを警察より先に見つけ出して殺す計画をしているのだ。ソンナムが、グナムのような密入国した朝鮮族やブローカーを痛めつけることで、ミョンの実態がみえてくるのだ。キム・テウォン組織とミョン・ジョンハク組織の戦いに発展していき、事態が複雑化していくのだ。そんな中、グナムがミョンの手下のブローカーを追い込めていき、自分を陥れた者たちに辿りついていく。三つ巴の戦いのようになっており、派手なカーアクションがあったり、斧やナイフや包丁での格闘をみせて血泥なアクションをみせている。
終盤には、キム・テウォンとミョン・ジョンハクの末路をみるグナムであったり、キム教授殺害に絡んでいた真実をグナムが悟ったり、グナムの運命、さらにとんでもない事実をラストにみせている。登場人物が多いので、顔と名前を覚えていないと、全体のからくりがみえないようになっている。誰と誰がどのように繋がっているのかを見定めていくとサスペンスとしても楽しめる。アクションが、かなり派手に演出されているので、そっちに視点がいってしまうかもしれない。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★★