血闘
制作年:2010年
監督:パク・フンジョン
出演:パク・ヒスン、チン・グ、コ・チャンソク
ジャンル:サスペンス、アクション
鑑賞:動画
李氏朝鮮の第15代王の光海君の時代。満洲で、清と明との戦争で朝鮮軍が明のために派兵された。圧倒的な強さをみせる清は、敵を倒して去っていく。この戦いで辛うじて生き残っていた朝鮮軍将ホンミョン(パク・ヒスン)と朝鮮軍副将ドヨン(チン・グ)は、吹雪が吹く荒野を歩き、小さな小屋を見つけてそこで休むことにする。そこに、清との戦いで生き残っていたもう一人の朝鮮軍兵トゥス(コ・チャンソク)がいた。一番下っ端のトゥスは、ホンミョンやドヨンに温かい食べ物を与える。この小屋は、敵陣の真ん中にあり、いつ清の兵士が近づくか分からない状況にいる。ホンミョンとドヨンの意識が明確になってきたとき、今までの記憶を少しずつ思い出すことで、二人は距離を置くようになる。更にホンミョンは、トゥスが先ほどの清との戦いの最中に、命惜しさに逃亡したのを思い出した。同じ朝鮮軍でありながら、お互いに向けた殺意のオーラを放つ中で、緊張状態が続く。何とか朝鮮に帰還したいと思う三人であるが、そこで予想も出来ない争いが始まってしまうお話。
監督は、本作デビュー作のパク・フンジョン監督。
出演は、朝鮮軍将ホンミョンを演じるのは『10億』『素足の夢』のパク・ヒスン、朝鮮軍副将ドヨンを演じるのは『母なる証明 (原題:マザー)』『食客2 ~優しいキムチの作り方~ (原題:食客:キムチ戦争)』のチン・グ、朝鮮軍トゥスを演じるのは『イテウォン殺人事件』『裸足の夢』のコ・チャンソク、ノシンを演じるのは『箪笥』『タイフーン』のキム・ガプス、タンスを演じるのは『義兄弟』『悪魔を見た』のチョン・ググァン、ソヒョンを演じるのは『待ちくたびれて (原題:待つのが狂おしい)』『映画は映画だ』のチャン・ヒジン、ドヨンの父を演じるのは『イテウォン殺人事件』『妖術』のチェ・イルファ。
清との戦いの後、彷徨い辿りついた小屋で、三人の朝鮮軍兵士のホンミョン、ドヨン、トゥスがお互いの過去を思い出しながらお互い殺意を持っており、いつ戦闘が起きてもおかしくない状態に置かれた心理サスペンスのようなものになっている。殺し合いのためアクションの要素を取り入れており、ホンミョンが長刀、ドヨンが短刀、トゥスが斧を持ち、お互いを威嚇するのである。小屋にいる現在軸と三人の記憶からの回想シーンを交互に繰り返しながらストーリーが進行していく流れである。
ドヨンが清との戦いで片足を負傷して瀕死状態のときに、ホンミョンが肩をかして一緒に歩き、ホンミョンがドヨンに対して過去に悪いことをしたことを白状してしまう。小屋に到着して、朦朧としていた意識が戻ってきたドヨンは、そのときのホンミョンの言葉を覚えており、復讐しようと敵意をみせる。復讐とは、ドヨンの父を間接的に殺したのはホンミョンだからだ。一方、トゥスは、清との戦闘中に逃亡したのを彼らが思い出すまえに、この場から逃げようとするが失敗ばかり、ついに軍将ホンミョンがトゥスのことを思い出してしまうのだ。
この小屋で三人が戦いを起こすのは三回ある。ドヨンとトゥスが組んでホンミョンを襲う、三つ巴の戦いで一人が死亡、最後は二人でガチンコ対決といった感じである。目を損傷するホンミョン、片足を損傷するドヨン、片手を損傷するトゥスといった設定もよく、アクション部分はなかなかのものである。途中で清の兵士三人が小屋に入ってきて、朝鮮軍三人が清の兵士二人を不意打ちで殺し、一人を逃してしまったことで、清の兵士は数を揃えて復讐しに戻ってくるのである。だから、清の兵士が再びくるまでというタイムリミットの中、三人の朝鮮軍兵の戦う時間が刻々と迫ってくるのだ。
各々に回想シーンがあり、実は大きく分けると二種類用意され、回想シーンの進み具合で現在軸の動きも影響してくるのだ。ホンミョンとドヨンは、兄弟のように育ち、剣の腕を磨き、いつも一緒にいる仲であった。ホンミョンよりドヨンの方が家柄が格上だから、ホンミョンは全てにおいて限界を知ったり、ホンミョンが片思いしていた家柄の良い娘のソヒョン(チャン・ヒジン)がドヨンと結婚する予定でいることを知りショックを受けたり、多くの悔しさを持つのである。ドヨンは、父が殺害され、母はそのショックで直ぐに死亡し、ある理由でドヨンの身分は格下げになるが、ホンミョンはいつも一緒にいてくれた。互いの感情や裏に隠されていた事が、徐々に明らかになっていくので、そこが見所のひとつになっている。トゥスの回想シーンとしては、ひとつは清との戦闘のところ、もうひとつは妻と四人の子供とのことや理不尽な両班に対する憎悪である。
三人に大きく影響したのは、まさに政治である。身分制度であったり、一族の格付けであったり、まさに血統によってその人間の生活が変わるのである。回想シーンでよく出てきており、ホンミョンと父との会話の中ではっきり表現されている。同様にドヨンとある人物との会話も重要なシーンとして挿入されている。題名の『血闘』は、「血統」とかけており、戦闘のところで血みどろの戦いになるので、その点もかけているのであろう。
小屋にいる現在軸と彼らの回想シーンの過去軸のところで、切り替えるタイミングが上手くいっていないことで、スピード感を落としているようにみえてしまう。小屋にいる三人の殺意を出す緊迫した空気は良いのだが、回想シーンの挿入方法によって、その緊張感を壊しているようにも感じとれてしまう。小屋で三人が押し殺している姿や殺気に満ちているところは素晴らしいところである。残念なところとしては、過去軸の回想シーンが、主に政治や家柄に関わるところである。現在軸と過去軸で、置かれている状況の緊張状態に差がありすぎるのだ。回想シーンを短くして、小出しするような形で挿入していけば、現在軸の緊張状態を維持できたかもしれない。このような構成の作品は、編集に難しさがあり、ちょっとした工夫が必要に感じる。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★