東京国際映画祭で鑑賞してきた作品。『虹 (原題:レインボー)』のレビューは次回へ。猛ダッシュでレビューを書いたので後から追記するかも。音楽に力を入れているから音響施設が整った劇場で観れたのはよかった。厳密には星2つ半のレベルかな。
妖術
制作年:2010年
監督:ク・ヘソン
出演:イム・ジギュ、ソ・ヒョンジン、キム・ジョンウク
ジャンル:青春ドラマ
鑑賞:第23回東京国際映画祭
音楽に対する情熱が強いチェロ奏者のミョンジン(イム・ジギュ)、絶対音感を持ち実力があるチェロ奏者のジョンウ(キム・ジョンウク)、素敵な笑顔をみせるピアノ奏者のジウン(ソ・ヒョンジン)。この三人は、同じ音楽学校に通う仲良しな友人である。ある日、院長先生(ソン・ヨンスン)から呼ばれたジョンウは、アメリカ留学がかかったオーディションを受けるように云われ、もう一人出場枠があり誰か推薦する人を訊ねられ、友人のミョンジンを推薦し、二人はオーディションを受けることになる。急遽決まったオーディションでミョンジンは、友人のジウンにピアノの伴奏を依頼し、そのみかえりとして小銭とある紙切れをミョンジンから強引に奪う。オーディションで、ミョンジンとジョンウは、同じ曲で同じ伴奏者ジウンであることに戸惑いを感じて、さらに一番目の演奏者ジョンウなのに、ジョンウがミョンジンを舞台に押し出し、そのままミョンジンが演奏し、演奏途中で弓を落としてしまう。最後の16番目の演奏者は、本当のところミョンジンであるが、ジョンウが登場して弓を投げ捨て、ギターのようにチェロを持ち上げて手で弦を弾き、審査員に侮辱的な態度をとって舞台裏に消えていく。オーディションの結果は、当然のように二人とも不合格になる。だが、オーディション以降からミョンジンとジョンウは、ジウンのことを異性としてみるようになり、ジウンも二人を意識するようになっていく。ジウンは、「妖術」という名の楽曲を日夜作曲しており、ジョンウがその楽曲を演奏したいと云いだす。ある日、演奏会が行われ「妖術」をピアノ奏者ジウンとチェロ奏者ジョンウがメインになって演奏していたところ、ジョンウが突然吐血して倒れてしまい、演奏会を中止しないためにミョンジンに続きを委ね、無事に演奏会を成功させる。微妙に揺れる三人の愛と友情を描いたお話。
監督は、長編作品デビュー作の女優ク・ヘソン監督。
出演は、チェロ奏者のミョンジンを演じるのは『銀河解放戦線』『過速スキャンダル』のイム・ジギュ、ピアノ奏者のジウンを演じるのは『愛なんていらない』のソ・ヒョンジン、チェロ奏者のジョンウを演じるのは本作スクリンデビューのキム・ジョンウク、中年のミョンジンを演じるのは『最高のパートナー (原題:マイ・ニュー・パートナー)』『イテウォン殺人事件』のチェ・イルファ、スジンを演じるのは『August Rush』のク・ヘソン監督自身、院長先生を演じるのは『TSUNAMI-ツナミ- (原題:海雲台)』『私の愛、私のそばに』のソン・ヨンスン。
全く性格の違う男同士の親友のミョンジンとジョンウ、そこに女友達ジウンが加わり、音楽を楽しむ仲良し三人組みであり、何時の日か異性として感じ出し、多くの感情が交錯する中で三人の運命を描いている。
オーディションを受けることが決まったミョンジンがジウンに伴奏を頼み、その帰りに二人が楽しそうにピアノで連弾している姿をみたジョンウが妬いたり、オーディション後のミョンジンの気の抜けた姿や変化していく過程、ピアノを弾いているジウンがジョンウに「妖術」の譜面を渡して左下に「一番目」と記しているところ、その後にジウンがミョンジンに渡した「妖術」の譜面の左下に「二番目」と記したところ、といった微々なことでも気にする感情を三人がみせている。「妖術」の譜面に記された「一番目」と「二番目」が、男二人をちょっと惑わすようなものになっている。劇中で「結婚記念日」という曲があり、作曲家が結婚十周年のために妻へ作った曲というのが表向きで、愛人に向けて作った曲であることをジョンウがミョンジンに説明しているところがある。曲に思いを込めるのはクラシック音楽と通じるところがあり、ジウンの愛情の順位のようにジョンウとミョンジンが感じ取ってしまったかもしれない。ジウンは、二人の気持ちに気づいているのがみえ、二人に好意を持ちながらも、常にジョンウを意識していたのが終始みられた。数字の意味としては終盤に明らかになるのでここでは伏せておく。
恋愛に対して積極的に行動を起こしているのはミョンジンである。ミョンジンからすると、音楽の能力をみると二人(ジョンウとジウン)の方が遥かにレベルが高いところで劣等感を持っていたり、自分だけが取り残される気持ちが焦りにもなっているのがみえる。それに対してジョンウは、ミョンジンのように恋愛に対して積極的な行動をとっていない。その理由としてジョンウの性格が面白く描かれており、強気な態度をとっているが実は臆病な面を持っており、素直になれないちょっと屈折した性格の持ち主であるからだろう。
この作品で興味深い点としては時間軸が飛ぶところである。冒頭シーンで中年ミョンジン(チェ・イルファ)と音楽女学生スジン(ク・ヘソン)の登場(もしかしたらスジンとジウンが重ねるような印象を持たすために二人が入れ替わっているかも)、直後に血だらけのジウンがミョンジンのところにきてジョンウのことを話すシーン、音楽学校で楽しむ三人の若者のシーンへと流れていくところである。音楽学生のミョンジンとジウンとジョンウは過去を映しだし、苦悩する中年ミョンジンと音楽女学生スジンは現在を映している。どちらの時間軸にも登場しているのが院長先生になっている。過去軸の音楽学生時代を中心に進行しながら、挿入するような形で入ってくるのが現在軸である。現在軸の中年ミョンジンは、過去の出来事が忘れることができず、更にジウンと同じコートで赤色マフラーをした音楽女学生スジンが重なるように演出しているのだ。スジンが演奏会のリハーサルをしているシーンで、ジウンが中央で歌っているシーンがあり、過去と現在の時間軸を越えた「マジック」のようにみせて調和しているのだ。
もうひとつ、時間軸とは別に幻想世界をみせているのが、浜辺のシーンになっている。海が広がる浜辺にひとつのドアが置かれており、恐らくドアはある境界線を象徴する道具として用いており、ドアの向こう側が何なのかを終盤に露にするのである。死後の世界(この世とあの世の間)と捉えると筋が通るが、それよりも人物の感情を幻想的に表現したところでしょう。
音楽面に非常に力が入った作品になっている。主要人物がチェロとピアノを弾いていることでクラシックがメインになっており、更に「アリラン」をパーカッションとモンタージュしたバージョンだったり、「愛の夢」をジャズバージョンやエレクトリックバージョンだったりと凝ったものになっている。また、何度かジウンのピアノの弾き語りがあったりと演奏シーンに見せ所が多い。
全体のバランスとしては、ちょっとばらけている感じを受けるが、そのような作品なのかと解釈するしかない。現在軸の描き方に工夫が必要に感じており、伏線を貼りすぎているから途中でどのような結末なのかがみえてしまった。正直、役者が監督をする長編作品って駄作が多いから心配したけど、この作品は意外にも成功しているようにみえる。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★