さすが、『私のちいさなピアニスト (原題:ホロビッツのために)』のクォン・ヒョンジン監督の作品だ。監督自身で脚本を書いてないから、どのぐらいの実力を持っているかわからないが。単純のようでしっかりと作り込んでいる。一回目より二回目に観たときの方が良く感じたかな。
ウェディングドレス
制作年:2009年
監督:クォン・ヒョンジン
出演:ソン・ユナ、キム・ヒャンギ、キム・ミョングク、チョン・ミソン
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:韓国版DVD
ゴウン(ソン・ユナ)は、夫を亡くしており、小学生の一人娘ソラ(キム・ヒャンギ)と二人で暮らしている。ゴウンは、ウェディングドレスの販売やデザインをしている会社に勤めており、仲良しのボスのミジャ(キム・ヨジン)や頼りない後輩スラン(ミン・アリョン)と忙しい日々を過ごしている。ゴウンは、雨が降る日にソラが傘を忘れても濡れないように傘を持って迎えに行ったり、ソラが好きなTVゲームやおもちゃを買ってあげて一緒に遊んだり、ソラが友達と喧嘩したことを知ったことで誕生日パーティーを開いてあげたりと娘のために尽くしている。ある日、ゴウンは自分の体調の異変に気づきながら、ソラに心配させないようにしていた。二人でピクニックに行く約束をして夜遅くまでお弁当を作ったが、翌朝大雨になったことで、行き先を雨が降っていない海岸まで車で行き、海で遊び母の手作り弁当を食べて、母娘は楽しい時間を過ごす。ゴウンの兄チョンウン(キム・ミョングク)の家に集る各家族たちは、ゴウンとソラを待っていた。兄チョンウンと妻チヘ(チョン・ミソン)と息子ミヌと娘ミネ、姉ヨウン(キム・イェリョン)とその息子、そしてゴウンと娘ソラの全員が揃い食事を始める。食事中に意識を失い倒れたゴウンは、病院に運ばれ、医者が兄チョンウンと義姉チヘに胃癌であることを告知し、それをたまたま意識を戻したゴウンがきいてしまった。ゴウンは、兄たちに病気のことを娘ソラに話さないで欲しいと頼み、限りある命の中で娘ソラのために時間を作って愛情を注いでいく。娘ソラは、母ゴウンの体調不良に気づいており、母が望んでいたことをやり残している。死が近づくことを知りながら別れの準備をする母ゴウンと娘ソラを描いたお話。
監督は、『私のちいさなピアニスト (原題:ホロビッツのために)』『トラック』のクォン・ヒョンジン監督。
出演は、母ソ・ゴウンを演じるのは『愛を逃す』『阿娘』のソン・ユナ、娘チャン・ソラを演じるのは『プチトマト』『ガールスカウト』のキム・ヒャンギ、ゴウンの兄チョンウンを演じるのは『ワイルドカード』『ダメ男の愛し方 (原題:生、ナル先生)』のキム・ミョングク、ゴウンの義姉でチョンウンの妻チヘを演じるのは『明るい家族計画 (原題:よい暮らしをして見よう)』『母なる証明 (原題:マザー)』のチョン・ミソン、ゴウンの友人で仕事場のボスのミジャを演じるのは『4人の食卓』『私の愛、私のそば』のキム・ヨジン、ゴウンの姉ヨウンを演じるのは『ブラボー・マイ・ライフ』『飛べ、ペンギン』のキム・イェリョン、テッキョン教室の先生チフンを演じるのは『二人だ』『甘いウソ』のイ・ギウ、ゴウンの仕事場の後輩スランを演じるのは『ハロー・マイ・ラブ』『トライアングル』のミン・アリョン。
死を感じる母ゴウンと娘ソラとの母娘の愛を描いたお涙頂戴物語といった単純なものでなく、二人に絡む周囲の人物たちとの関係が綿密に描いており、ジャブのように後々効いてくるのである。
中盤までは、母ゴウンと娘ソラを中心にして、子供を激愛する生活をみせている。娘ソラが父親の死をしっかり認識しており、「死」の意味を理解していることが大きいところである。片親になっていることで、生活のために母が仕事で忙しいことを理解しており、自分自身が早く大人になろうとしている姿をみせているのだ。母ゴウンは、子供を心配してあれもこれもといったように言葉を投げるが、娘ソラは一人で何でも出来ると強く発することでちょっと揉めてしまうのである。娘ソラの精神的成長が序盤と比べて、中盤から終盤になるに連れて上がっているのがみられるのだ。娘ソラに病気を隠そうとする母ゴウンであるが、一緒に暮らしていることで母の病状がだんだん悪化しているのに気づいている娘ソラの感情を痛々しくみせている。
ゴウンの精神的な支えになっているのが、同僚でありボスのミジャ(キム・ヨジン)である。理由としては、唯一自分の口で病状を語った人物であるからだ。公私の付き合いをしていた二人だからであり、ゴウンの考えをミジャが理解しているからであろう。ゴウンは、オリジナルデザインで手作りのウェディングドレスをソラが将来結婚するときに使ってもらうために用意しているのである。これは冒頭や序盤でこのウェディングドレスの伏線を貼っているので、直ぐにわかるであろう。これだけでなく、随所にこの母娘の間を支えているのがミジャであるのだ。
ソラには、同級生ジナという友人がいるが喧嘩をしてしまったことで、学校では一人ぼっちになってしまったり、ジナも通っているバレエ教室にも行きづらくなり、偶々同じビルの部屋で行われているテッキョン(韓国の伝統武術)教室のチフン先生(イ・ギウ)と知り合うのである。チフン先生は、テッキョン教室の生徒が少なく、女性と電話をしたり、黙々と繰り返しトレーニングをしたり、ソラの通っている小学校に勧誘チラシを配ったりして、一見頼りなくみえるのだ。ソラは、チフン先生に対して生意気な態度や言葉を発するが、一番本音を語れる存在になっている。バレエ教室に行きたくないから逃げ込んだ場所であったが、母ゴウンの病状を知っていくにつれて、チフン先生がソラの心を解していくのである。中盤から終盤では、陰ながらソラを支えている存在になっているので、物語の幅を広げているキャラクターでもあるのだ。
ゴウンには、慕っている兄チョンウンがおり、夫を亡くしていることもあり、頼りにしている存在なのである。兄の嫁で義姉チヘが、ゴウンとソラの両方に優しく接しており、二人の心の痛みを和らげていく存在なのである。兄チョンウンや義姉チヘと違って距離がある姉ヨウン(キム・イェリョン)は、妹ゴウンに少しきつい態度をとっている存在なのである。ゴウンとソラといった母娘だけにスポットを当てているのではなく、兄姉やその子供も含む大きな家族たちにもスポットを当てており、家族の一部が欠けることを知りながら、様々なことに対して心の準備をしたり、ゴウンの死後に起こるソラの養育も考えているのである。その中で、義姉チヘと姉ヨウンが衝突したりと、血の繋がりだけが重要ではないのだ。姉ヨウンは、義姉チヘに対して「姉」というものに嫉妬をしているところがあるのだ。相手の気持ちを考えて気づかいをする義姉チヘ、相手の気持ちを考えない無神経な姉ヨウンが色濃く出ており、終盤にそれを自ら恥を知る姉ヨウンが妹ゴウンへ無言で気持ちを伝えているのだ。
幾つかの伏線を貼っており、序盤の下校時に雨が降り傘がないシーン、ソラとチフン先生のラジオに関する会話シーン、ゴウンが寝ているときのソラが行うシーン、といった終盤に繋がるシーンをしっかりと植えつけているのに気づくであろう。母娘の愛物語だけでなく、家族や友人が大切な人が亡くなるのを知って、何をするべきなのか、心の準備をみせている。ラストシーンのソラの下校シーンが象徴的になっており、母の死という事実を悲しむだけをみせる作品ではないのだ。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★★