昨年、東京の有楽町で「韓国映画ショーケース2009」にて上映していたけど、東京フィルメックス映画祭の作品の方を優先したので、スクリーンで鑑賞することを断念した作品。
二人のキム氏の行動が面白いのは言うまでもないが、そこにいろいろな社会問題を取り上げたり、社会的敗者の二人の心が表現されている。
彼とわたしの漂流日記 (原題:キム氏漂流記)
制作年:2009年
監督:イ・ヘジュン
出演:チョン・ジェヨン、チョン・リョウォン
ジャンル:ヒューマンドラマ、コメディ
鑑賞:韓国版DVD
男キム氏(チョン・ジェヨン)は、仕事で失敗して借金苦になり、漢江に飛び込み自殺を図る。気がついたら漢江にある中州に取り残され、周囲は高層ビルがみえる都会の中の無人島にいる。無人島から脱出しようと考えるが、泳げないので自力で脱出することを諦めて、携帯電話で救助を呼ぶが途中でバッテリーが切れてしまい失敗し、通りかかった観光船に助けを求めるが救助して欲しいという意志が相手に通じない。無人島で暮らすことを決意した男キム氏は、花の蜜を吸ったり、生えているキノコを無作為に採って食べる。更に、魚や鳥を食べるようになっていき、たまたま落ちていたインスタントのジャージャー麺の空袋をみつけ、何もない状態からジャージャー麺を作ろうとしていく。一方、対岸のマンションで引きこもり生活をしている女キム氏(チョン・リョウォン)は、春秋の年に二回行われる民防訓練のときに窓のカーテンを開けて、町を望遠カメラで眺めることが恒例になっていた。そんなとき、偶然無人島で生活している男キム氏をみつける。女キム氏は、男キム氏の行動に心を躍らせ、コンタクトをとろうとする。男キム氏と女キム氏の奇妙なやりとりが始まるお話。
監督は、『ヨコヅナ マドンナ (原題:天下壮士マドンナ)』のイ・ヘジュン監督。
出演は、男キム氏を演じるのは『カン・チョルジュン 公共の敵1-1』『神機箭』のチョン・ジェヨン、女キム氏を演じるのは『B型の彼氏』『二つの顔の猟奇的な彼女 (原題:二つの顔の彼女)』のチョン・リョウォン、中華屋配達人を演じるのは『カン・チョルジュン 公共の敵1-1』『過速スキャンダル』のパク・ヨンソ。
男キム氏のサバイバル生活と女キム氏の引きこもり生活といった二つの世界を序盤に別々にみせて、この二人が接近して奇妙なコミュニケーションをすることで、徐々に変化していくのである。
男キム氏のサバイバル生活は、自殺に失敗したことで無人島に漂流することになり、始めは生きようといろいろ実行するが失敗し、途中でこの無人島で自給自足の生活をしていくのをおもしろおかしくみせている。砂浜に書いた「HELP」が「HELLO」に変わるのが、男キム氏の意志になっているのだ。そこで一つの目的が出来て、無の状態からジャージャー麺を作ることである。ゴミになって落ちていたインスタントのジャージャー麺の袋の中に未開封のスパイスが入っており、これを使えるように麺や具を自力で作りだすのだ。この過程もおもしろく、麺の元になる小麦をどのように作るのか模索し、鳩の糞から採取する方法をとっており、僅かな可能性に賭けた農業をしているのである。
女キム氏の引きこもり生活は、4年ぐらい続いており、インターネットをすることが中心になり、同居している母との伝達方法はメールで、食事は部屋の前に置き、両親が出かけているときにトイレに行く生活をしているのだ。何故このような生活になったのかははっきり描かれていないが、女キム氏の顔の火傷がコンプレックスになって外部との接触を遮断したように感じとれる。唯一の外出が、年2回の民防訓練のときに窓から眺めることで、この行動によって男キム氏を発見し、「HELP」から「HELLO」に変化しているのを目撃するのだ。それからは、男キム氏を観察する生活が続いていき、ジャージャー麺の袋をみていることで、男キム氏のために中華屋に出前させたり、夜中に部屋から出て行ってワイン瓶にメッセージを書いて無人島めがけて投げる。この行為によって、男キム氏と女キム氏の通信が始まるのだ。
都会の真ん中にある無人島という環境でサバイバル生活をするアイデアと社会問題になっている引きこもりの人間をリアリティに描いているところによさがある。共通点としては社会からの脱落者であるところだ。お互い一人の世界を作りあげて、引きこもりの人間が異世界に接触することで、社会に入り込んでいく姿をみせている。あれほど外に出ることを拒んでいた女キム氏が、夜中に漢江に架かる橋まで走ったり、終盤では昼間の状態でも外に飛び出していくのだ。
男キム氏のサバイバル生活にコメディ要素が強く表現されている。植物から魚や鳩といった食の変化であったり、人間の生理現象を笑いを交えて描き、自分の排泄物を畑の肥料にし、淡水から塩分が摂取できないことで自分の汗を目薬の容器にためて食のスパイスにしている。男キム氏の気持ちも映像で表現されており、社会復帰を拒む心境を無人島から脱出しないことに結びつけている。奇妙な伝達者(女キム氏)によって、男キム氏の砂浜に書く英語の返事が、更なる笑いを重ねている。
終盤は、男キム氏が強制的に無人島から撤去され、それをみた女キム氏の行動があり、二人の接触をみせている。そこでのやりとりは、直接鑑賞して楽しんで欲しい。コメディと人間ドラマを絶妙なバランスで描いた作品である。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★★