複数のエピソードで構成されている作品だったので、各エピソード毎に記述した。
娼婦の羽 (原題:HERs)
制作年:2007年
監督:キム・ジョンジュン
出演:キム・ヘナ、エリザベス・ワイスバウム、スージー・パーク
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:日本版DVD
アメリカに逃れてきた韓国人売春婦の人生を3つのエピソードで構成されたオムニバスである。
■第一話 (ロサンゼルス)
マフィアの管轄下の売春組織にいた20代のジナ(キム・ヘナ)は、マフィアに多額の借金をしたまま、鞄一つで逃亡した。お金もなく行き先のないジナは、野宿をして路上を彷徨い、当てのない日々を過ごしていた。一方、マフィアから逃げた女を連れ戻すよう依頼されたのが、韓国系アメリカ人のルーカス(ウィル・ユン・リー)であった。橋の上で座り込んでいるジナをみて、ルーカスは彼女を車に乗せて、自分の狭い家に連れて行った。二人は体を交わし、翌朝目醒めるジナの横にルーカスはいなかった。
■第二話 (ラスベガス)
デザイナーになる夢を捨てきれない30代のジナ(エリザベス・ワイスバウム)は、売春婦としてお金を稼ぎ生活をしている。チャットでは、デザイナーの仕事をしているキャラにして、画家の仕事をしている男とのやりとりを楽しんでいた。一方、観光ガイドをしている韓国系アメリカ人のK(カール・ユーン)は、強面の日本人男性客の観光ガイドをして、売春宿を招待して、ピン撥ねして稼いでいた。理想と現実の壁にぶつかり生きているジナとKが、偶然にもチャットをしていた二人が出会う。
■第三話 (アラスカ)
流氷が流れ、雪が降る大地で40代のジナ(スージー・パーク)は、道路沿いでヒッチハイクをしていた。なかなか乗せてくれず、夕暮れどきにやっと止まってくれたのが白人のティム(クリス・デブリン)であった。寒い車の中でティムからウイスキーを貰い寒さを凌ぐジナは、ティムにオーロラをみにきたと話す。モーテルにチェックインしたジナは、若い女性が写る紙に連絡先を書いてピンクチラシを作り始めた。翌日、ジナは店の壁や他人の車や教会のドアにピンクチラシを配り、モーテルで電話がかかってくるのを待っていた。なかなか電話がかかってこないので寝ていたら、夜中にお客から電話がかかってきた。急いでお客の家に入ったら、なんとお客はティムであった。
監督は、本作デビュー作のキム・ジョンジュン監督。
出演は、20代のジナを演じるのは『逆転の名手』『ソン・イルグクのレッド・アイ~幽霊列車~ (原題:レッド・アイ)』のキム・ヘナ、30代のジナを演じるのはエリザベス・ワイスバウム、40代のジナを演じるのは『カオスファクター』のスージー・パーク。
アメリカのロサンゼルス、ラスベガス、アラスカを舞台にして、韓国人女性ジナの人生をみせている。20代、30代、40代のジナが、男性との愛や自分の夢、激しい人生の生き様を描いているようにみえる。最初と最後に韓国の田舎町のシーンがあるため、実質的には4つのエピソードになるのかもしれない。
第一話(ロサンゼルス)では、売春組織から逃げ出しマフィアから追われ、お金もなく韓国語しか話せないジナがどのように日々を凌ぐかをみせている。荷車のアイスクリーム屋の男が、ジナの体を買い、その謝礼がたくさんのアイスクリームになっている。アイスクリームのアイテムは、第二話(ラスベガス)の伏線になっているシーンなのだ。マフィアから依頼されたルーカスは、ジナの写真を持っていることで顔を知っている。所々で二人は擦れ違っており、ようやく橋にいるジナをみつけたルーカスが意外な行動に出ているのだ。英語と韓国語が交差する会話の中で、二人が結ばれていくのであるが、終盤に意外な出来事が起こるのである。冷ややかな人間関係にみえるが、人としての感情がよく出ている。ルーカスの行動が、正義にも取れるし、愛情にも取れるし、同情にも取れるからだ。
第ニ話(ラスベガス)では、現実では娼婦であるが、チャットの内容をみると、まだ夢を捨てきれない自分が心に残っている30代のジナをみせている。観光ガイドKの行動も同じ時間上で描きながら、二人の擦れ違いをみせている。ジナと同様にKもまだ夢を捨てきれない自分を持っているのだ。この二人が出会い、体を交わすことで、ジナの心に余裕が出来たようにみえた。芸術にスポットを当てているのが目立ち、ジナが花瓶に飲料水を入れて色を変化させたり、マネキンの存在であったり、Kの部屋に置かれている花やデッサンや造形物、繁華街の夜の美しい映像といった美術面に力が入っている。
第三話(アラスカ)では、40代のジナが売春で生活しており、極寒の地アラスカで人生最後の地のように描かれている。女性比率が少ないアラスカでは、40代のジナでも売春婦としてやっていける望みがみえるのだ。だが、詐欺まがいなピンクチラシは、男の性を利用しているので笑ってしまった。終盤、雪山に一人でテントを張って、過去の自分を振り返るところはグッとくる。終盤の意図が掴み難いので、観る側に解釈を委ねているようにみえた。悲観的には感じなかったから、プラスに捉えたが。
アメリカを舞台にしており、韓国人女性が主人公でありながら、ほぼ英語でストーリーを進めている。面白い設定としては、韓国系アメリカ人も英語だけ話したり、韓国人コミュニティーがあるロサンゼルスでも、同民族に頼ることなく自力で生きていく姿をみせている。アメリカで生きる韓国人の一般的なスタイルと違うので斬新な作風にみえた。どのエピソードも女性の生き様を力強くみせているのが印象的にみえた。
ちょっと気になったことは、どのエピソードにも共通して、相手の男に刺青があることだ。20代のジナはハートマークの刺青を入れていたが、30代と40代のジナには刺青がなかった気がする。そう考えると同一人物の20~40代を描いたものでなく、ジナという同名の各三人の物語を描いているのかもしれない。最初と最後に登場する韓国の田舎町のシーンをどのような解釈するのかだが、エンディングロールで「gina korea」という配役の女優がいたから、第四のジナと考えるのであろう。同一人物のジナの20~40代を描いたものだったら、成長過程がみえて合致する作品になるのだが、四人のジナの性格が違うことでやはりオムニバス作品になるのかな。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★