マイナーな作品でも日本版DVDが発売されるんだね。探した末に見つけた場所がアダルトコーナーだった。描こうとしていることは理解できるが、面白いかどうかは別であろう。編集次第で少しは良くなる作品だろう。
私は私を破壊する権利がある
制作年:2003年
監督:チョン・スイル
出演:チョン・ボソク、イ・スア、チュ・サンミ、チャン・ヒョンソン
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:日本版DVD
タクシードライバーのトンシク(キム・ヨンミン)は、恋人セヨン(イ・スア)に強く愛情を注いでいる。セヨンは、トンシクの実兄であるサンヒョン(チャン・ヒョンソン)とも付き合っている。激しく肉体を欲しがるセヨンは、自殺願望を持ち出し、自殺幇助人で作家S(チョン・ボソク)に相談をしていた。そして、セヨンは密封した部屋を作り出してガスを使って自殺をする。トンシクは、セヨンの死に酷くショックを受けて、何故セヨンが死んだのか真相を探し出す。一方、肉体を使って芸術を表現する芸術家のマラ(チュ・サンミ)と映像クリエーターのサンヒョンは、一緒に仕事をすることになり、共作することになった。サンヒョンは、主に女性のヌードをカメラで撮ることが多く、マラとの仕事ではパソコンを使って立体的な映像を創りだそうとする。だが、サンヒョンが完成させた映像をみて、マラは自分の芸術を理解していないことで絶望してしまい、この共作は破約しそうになる。トンシク、セヨン、マラ、サンヒョン、カット(チェ・ソンホ)が、現実から逃げたり、肉体の快楽に溺れたり、死の誘惑にかられたり、現代社会で生活する人たちが葛藤する姿を描いたお話。
監督は、『私の中で鳴る風』『鳥は閉曲線を描く』のチョン・スイル監督。
出演は、作家Sを演じるのは『ムクゲの花が咲きました』『秘花 ~スジョンの愛~ (原題:オー!スジョン)』のチョン・ボソク、セヨンを演じるのは『秘密 -Desire- (原題:欲望)』のイ・スア、タクシードライバーのトンシクを演じるのは『受取人不明』『春夏秋冬そして春』のキム・ヨンミン、芸術家のマラを演じるのは『気まぐれな唇 (原題:生活の発見)』『微笑』のチュ・サンミ、映像クリエーターのサンヒョンを演じるのは『吹けよ春風』『ビデオを見る男』のチャン・ヒョンソン、ロックバンドのボーカルをしているカットを演じるのは本作デビュー作のチェ・ソンホ。
題名から推測できて、映像からわかることは、自分で自分を壊すことであろう。哲学的な内容になっており、作家Sは人が神になるには、何かを創作するか、死の世界へ導くか、二通りあると云う。その中で死の世界へ導く方法を選択して、それに賛同し行動を起こす者達がいる。作家Sは、自殺願望がある者へ死に対する考え方を説明したり、自殺方法を教えたりする。自殺幇助人のようでもあり、心理カウンセラーのようでもあるのだ。
作家Sとロックバンドのボーカルをしているカット(チェ・ソンホ)との交渉をみせている。格好よく死にたいと望む自殺願望を持つカットは、作家Sに依頼するが、カットが色々と体験していくことで生死の選択を真剣に考えだすのだ。死にたいと思っていても生きていたり、生きようと思っていても死ぬのである。終盤で運命のイタズラみたいな流れになっているのも意表をついているところであろう。
兄弟と三角関係にあるセヨンは、性に対して開放的であり、何を考えているのか分からない女性である。弟トンシクは、セヨンに惚れ込んでおり、兄サンヒョンとセヨンとの関係を知ったときは激しい嫉妬をみせている。兄弟でも兄サンヒョンの方は、クールな面を見せており、弟とは対照的な性格を表現している。セヨンが作家Sと接触して自殺し、トンシクがセヨンの自殺の真相を調べるうちに作家Sに辿りつき、死に関することを知っていくのである。弟トンシクと作家Sの間にも終盤に大きな動きがあるので注目して欲しい。
芸術を主にしたドラマも含まれており、それがサンヒョンとマラである。自分の肉体を使ってみている者たちと一体感を持ち、独自の感性で芸術を表現するマラの描き方が印象的である。冒頭に、白いシーツを頭上に上げると赤いインクで赤く染まる肉体を血のようにみせている。マラの芸術美は、観客がその場にいることで観客が望んでいることを表現することかもしれない。マラが現実感を追及することで、サンヒョンの美意識とズレがあり、サンヒョンが作った映像作品が気に入らないのだ。最終的には、リアリティを求めたマラの行動がとんでもないことになるのだ。
構成が複雑になっているので、中心人物になる作家S、カット、セヨン、弟トンシク、兄サンヒョン、マラが、どのように繋がっているのかをみていき、各々のドラマを別々に整理しながら消化していくと分かりやすくなるだろう。抽象的な表現が多いことで、鑑賞者側に負担が掛かる作品である。
【なめ犬的おすすめ度】 ★