これで11月下旬に鑑賞した東京フィルメックス映画祭絡みもののレビューが終わった。韓国映画以外にも外国の作品を鑑賞しているが、それらの作品はブログでレビューをアップすることはしない。
この作品について、内容より印象に残ったことは、サービス精神旺盛な監督だったことだ。
亀、走る (原題:亀が走る)
制作年:2009年
監督:イ・ヨヌ
出演:キム・ユンソク、チョン・ギョンホ
ジャンル:コメディ、アクション、ヒューマンドラマ
鑑賞:韓国映画ショーケース2009
韓国の忠清南道にある田舎村。大した事件もなく平穏な村で刑事をしているピルソン(キム・ユンソク)。ピルソン刑事は、年上で本屋をしながら靴下の内職をする妻(キョン・ミリ)に頭が上がらず、小学生の娘と幼児の娘がいる。刑事なのに収入が少ないピルソンに対して妻は、文句を言ってうるさい。村の一大イベントである闘牛大会で、大本命の牛「台風」が体調不良という情報を入手したことで、友人ヨンベ(シン・ジョングン)たちと一緒にお金を集め、ピルソンも妻の通帳を盗み出し全額下ろして、ライバルの牛に賭け、見事に大金を手に入れることができた。ピルソン刑事は、いつも友人たちと遊んでいる建物に行ったとき、ある男とすれ違い、素通りしてそのまま友人のところに行った。なんと、友人たち数人が倒れており、闘牛大会の賭けで勝った大金入りのバックをある男に取られた。先程、ピルソン刑事がすれ違った男が大金を奪った者で、その男はダイヤ強奪事件で逮捕されたが脱獄して指名手配中のソン・ギテ(チョン・ギョンホ)であった。急いでソン・ギテを追い、ピルソン刑事は盗られたバックを取り戻そうと戦うがボコボコに殴られて気を失ってやられてしまう。ピルソン刑事は、同僚たちに脱獄犯ソン・ギテにやられたことを話しても信じてもらえず、自ら奴を捕まえようと友人たちと協力して実行する。ソン・ギテが隠れている場所を発見したピルソン刑事は、応援を呼ぶために上司や同僚に電話をしても無視されて、仕方なく友人たちと一緒に確保しようとした。次もソン・ギテにボコボコにやられたピルソン刑事。しかも、ソン・ギテは、弱っているピルソン刑事の小指を切り落とす大怪我をさせて、TVのニュースや新聞に犯人を取り逃がしたダメ刑事というレッテルを張られて停職三ヶ月の処分をくらう。怒りに満ちたピルソン刑事は、友人たちと協力して脱獄犯ソン・ギテを捕まえようとするお話。
監督は、『キム・レウォンの引越し大作戦 (原題:2424)』のイ・ヨヌ監督。
出演者は、刑事のピルソンを演じるのは『楽しき人生 (原題:楽しい人生)』『チェイサー (原題:追撃者)』のキム・ユンソク、脱獄犯のソン・ギテを演じるのは『永遠の魂 (原題:星の光の中へ)』『あなたは遠いところに』のチョン・ギョンホ、ピルソンの妻を演じるのはTVドラマで活躍するのキョン・ミリ、ソン・ギテの恋人キョンジュを演じるのは『最高のパートナー (原題:マイ・ニュー・パートナー)』『星から来た男 (原題:スーパーマンだった男)』のソン・ウソン、ピルソンの友人ヨンベを演じるのは『ザ・ゲーム』『神機箭』のシン・ジョングン。
貧乏で妻と二人の娘を持つ中年オヤジの田舎刑事が、指名手配中で逃げ回る武道家の脱獄犯と対決するなかで、田舎刑事のオヤジらしさや家族を大切に思う気持ちや仲間たちとの友情を同時に描いている。
ピルソン刑事は、二回も脱獄犯ソン・ギテを逃がしていることで停職処分になり、私的な形で田舎の友人たちと一緒にソン・ギテを捕らえようとする。もちろん、地元警察も捜査しており、ソン・ギテが恋人キョンジュ(ソン・ウソン)を連れ出すところで、地元警察はやられてしまうのだ。ソン・ギテの方が一枚も二枚も上手なのがみえるなかで、ピルソン刑事と友人たちも捕まえることが出来ずにいる。特別捜査官たちがソン・ギテを捕まえようと横入りしながら、地元警察はこの捜査は自分たち主導で行おうとする警察内部の抗争もみせている。
ピルソン刑事の周辺人物に対しては幅広く描かれているのに対して、脱獄犯ソン・ギテの周辺人物に対してはかなり浅く描かれているのが目立つのである。ソン・ギテの協力者としては、恋人キョンジュ、ソン・ギテを崇拝している青年とその恋人だけである。逃亡するときの手助けとして役目を果たすのであるが、かなり素っ気なく描かれているので、もっと捻った形で利用して欲しいところである。
中盤から終盤では、ピルソン刑事と脱獄犯ソン・ギテの追いかけっこと格闘である。ここの表現もあまりにも正攻法すぎる。伏線として、武術家のところでピルソン刑事が指導を受けているシーンがある。武術家が出てくるシーンは、コメディ要素を強くみせているので、戦いの伏線としては弱い気がする。単に刑事が犯人を捕まえる作品ではないから、このような表現をしているのはわかるが、物足りない思いである。
題名の「亀」は、主人公のピルソン刑事を示していることは直ぐにわかる。対立している存在は「兎」であり、それが動きが速く逃げ回る脱獄犯ソン・ギテであることも当たり前のようにわかる。それ以外にも意味があることをティーチ・インで監督が説明しており、舞台となっている地域の人たちは行動が遅いことで一般的に「亀」と言われているから、これも絡めているようだ。
作風としてはアクションコメディと人間ドラマを兼ね備えたもので、ピルソン刑事のコメディ要素がどのぐらい面白いかで評価が変わってくる。小ネタばかりで笑いを取ろうとしており、観客は笑っているが面白いとは思えないところが多々ある。これは個々の感性の問題だからであるが、前作の『キム・レウォンの引越し大作戦 (原題:2424)』と同じような感覚でもある。前作よりはパワーアップしているのはわかるが、全体的に中途半端に描かれている印象を受けた。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★