新しい作品で久々に自分好みの良作を発掘した感じである。原作をキム・ギドクが書き下ろしているところから、かなり彼の色が出ているが、それをうまく脚色してチョン・ジェホン監督の色に染め直している感じを受けた。ラストの胸から下の裸体が出るが、あれってチャ・スヨンの裸体でなく代役のボディを使用しているのかな。
ビューティフル (原題:美しい)
制作年:2008年
監督:チョン・ジェホン
出演:チャ・スヨン、イ・チョニ、チェ・ミョンス、キム・ミンス
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:韓国版DVD
美しい顔とスタイルの持ち主である女性ウニョン(チャ・スヨン)は、いつも男性から熱い視線を感じ、いつもナンパをされ、女性からもその美しさから芸能人に間違えられるぐらいの存在である。女友達ミヨン(イ・ミン)と喫茶店で待ち合わせをしたときに、ミヨンの恋人ミノ(キム・ボムジュン)も後からやってきた。ウニョンは、トイレから出てきたときにミノに口説かれるが、頑なに拒否をして逃げる。自宅に帰ってきたウニョンは、留守番電話のメッセージをきくと男性たちからの誘いの言葉ばかりである。さらにミノはしつこく誘いのメールを送信してきたり、自宅マンションのまえで待ち伏せている。マンションの管理人のおじさんは、毎度のように男性たちから預かったたくさんの花束をウニョンに渡すが、あまりの多さに大半を捨てることになる。ある日、ウニョンのストーカーの一人であるソンミン(キム・ミンス)が業者を装ってオートロックされた入り口を突破し、強引にウニョンの部屋に入った。ソンミンは、ウニョンの美しさに吸い込まれていき、ウニョンを強姦して証拠写真を撮った。強姦犯ソンミンは、そのまま警察に自首をして、ウニョンの部屋にキム刑事(チェ・ミョンス)と警察官ウンチョル(イ・チョニ)が駆けつけた。憔悴しているウニョンを保護して、事情聴取のために警察署に連れていった。衝撃的な出来事にウニョンはショックを受けており、この出来事の発端は自分が美しいからだと思い込み、なんとか醜いようにしようと試みていく。果たして、突然の不幸な出来事から奈落の底に落ちていったウニョンは今後どのような行動をとるのか、そしてウニョンを支えようとする警察官ウンチョルは彼女を助けることが出来るのかというお話。
監督は、本作デビュー作のチョン・ジェホン監督。
出演者は、美しい女性ウニョンを演じるのは『永遠の魂 (原題:星の光の中へ)』のチャ・スヨン、警察官ウンチョルを演じるのは『台風太陽』『堤防伝説』のイ・チョニ、キム刑事を演じるのは『強敵』『セブンデイズ』のチェ・ミョンス、強姦犯のキム・ソンミンを演じるのはキム・ミンス、ウニョンの女友達ミヨンを演じるのはのイ・ミン、ミヨンの恋人ミノを演じるのはキム・ボムジュン。
本作品の原作は、キム・ギドク監督が書き下ろしており、そこからチョン・ジェホン監督が脚本を書いて監督も務めている。元々チョン・ジェホン監督は、キム・ギドクの助監督の経験があることで、本作品は非常に作風がキム・ギドク作品に近いものを感じる。
序盤では、美しさが罪と言わんばかりに多くの男性たちがウニョンに近づいてきたり、女性たちからは憧れの眼差しと嫉妬の両方をみせている。ウニョンは、自然に備わった自分の美貌に特別な感情を抱いていない始まりが非常に良い設定であり、ストーリーが進むにつれてウニョンが変貌していく姿を強烈にみせているのだ。ウニョンの性格は、友人ミヨンとの会話からすると特別変わった性格ではなく、マンションの管理人のおじさんとの会話からして常識的な人間のようにみえるのだ。しつこく言い寄ってくる男性らに対してはかなり鬱陶しい態度をみせているが、それは当たり前の振る舞いにみえる。
大きな分岐点としては、ストーカーのソンミンがウニョンを一途に愛し、偏った愛の感情表現をみせてしまい、終いには強姦をしてしまい、この一連の行動はウニョンが美しいからだと強姦犯ソンミンは相手のせいにしている点である。性に対しての表現は、男は野生的な動物で欲望のまま行動しているようにみせ、女は男の支配下にいる存在で弱い立場に置かれており、自然の原理に基づいた動物的な行動をみせているようだ。人間も動物であるが、理性を持って行動をとっているところに大きな違いがある。そして、処女性に対する美意識がみられる点として、強姦犯ソンミンがウニョンを犯したときに、処女であることがわかったときの言葉と表情だろう。
追い討ちをかけるように、警察署での事情聴取では、被害者のウニョンに対してキム刑事からえげつない言葉を浴びるのである。強姦は女性側にも非があるから起こるといった感じだ。明らかに女性の立場を軽視した言葉や態度をとっており、どちらかというと強姦犯ソンミン側の思考に近いのだ。女性側の位置に属しているのが、キム刑事の事情聴取に一緒にいた警官ウンチョルである。階級が上のキム刑事に対して堂々と意見をぶつけ、ウニョンの壁の役割をしている。警官ウンチョルの気持ちは、ウニョンに惚れてしまったことでの行動ととれるのが本心であろう。
被害者であるウニョンが、自虐的になっていく姿を痛々しくみせていくところから本作品の魅力である。周囲から嫌がられることを考え、ベンチに座っている太った女性を通行人が不機嫌にさせるのを目撃したことで、大量に食事をとることで太って醜い体にしようと行動していくのだ。また、この行動が失敗すると今度はテレビ番組で痩せている女性は魅力がないことを男性が発していたことで、ウニョンは極端なダイエットをして拒食症になり食べては戻すといった症状になっていくのだ。このように、「美しさ」を崩していく過程がおもしろく、それと同時に周囲からの視線も同時にみせていることで、ウニョンが変化していく姿に驚きを感じるであろう。顔の表情が凄まじく変化しており、中盤以降は目の下に薄黒いクマが目立ち、視点が合っておらず、意識が飛んでいるような表情なのだ。
壊れていくウニョンを一途に愛するのが警官ウンチョルであるのだ。ウニョンがピンチのときにはいつも現れて手助けしたり、美しさによってウニョンに近づく男たちを守ったり、倒れるウニョンを病院に運んだりとスーパーマンのような存在であるが、マイナスの見方をするといつも後ろをつけているストーカーにも見えるのだ。ウニョンの意識としては、警官ウンチョルに対して好きという気持ちを持っていないのだ。ウニョンが警官ウンチョルをどのような感覚でいるのかも見所のひとつであろう。終盤の二人の結末も究極な愛と言えるような形をとっていることで、味のある展開になっている。
悲しいラブストーリーともとれるが、やはり精神の崩壊や人間の脆さをみせるドラマに強く感じとれる。どん底な状態に陥ったウニョンに対して、精神が崩壊してからの彼女の視線は全く逆転する。そこでみえる周囲の反応に悲愴感もあるが、それ以上に冷たい態度をとる嫌悪感が表現されている。ウニョンの心身の状態によって態度をコロコロと変化していく周囲の冷たさが痛々しくみせているのだ。生まれながら美しさを持ったことでプラス面とマイナス面を究極に表現しているように感じとれる。惚れ薬でも吹きかけているのかというぐらいに、多くの男性の視線を独り占めする状況は、かなり異常な光景にも見えるのだが。作風からして、キム・ギドク作品が好みの人には受けるであろう。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★★