前作の『ユゴ 大統領有故 (原題:その時、その人々)』でもそうだが、おもしろい視点で描く監督だと感心している。レビューを書くのに何回か修正したが、なかなか纏まらず苦労してしまった。
なつかしい庭 (原題:古い庭園)
制作年:2007年
監督:イム・サンス
出演:ヨム・ジョンア、チ・ジニ、キム・ユリ、ユン・ヒソク、ウンソン
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
鑑賞:韓国版DVD
1980年代の独裁軍事政権の時代に、民主化運動に積極的に参加していた活動家ヒョヌ(チ・ジニ)が逮捕されて、約17年ぶりに釈放された。変わってしまったヒョヌの家族たち、ソウルの風景、韓国の政治といった逮捕前と全く違う世界になっている現代の韓国に戸惑いを感じていた。監獄中は、大切に持っていた若き頃のユニ(ヨム・ジョンア)の写真が彼に勇気を与えてくれていた。ヒョヌは、母からユニの手紙を渡されて、ガンで亡くなったことを知る。17年前、逃亡生活を続けていたヒョヌは、学校の美術教師ユニ(ヨム・ジョンア)と出会い、自分の思想や状況を理解した上で匿ってくれ、田舎の小さな家屋で二人は恋に落ちた。幸せな日々は長く続かず、同志の活動家たちが逮捕されていく状況から、ヒョヌは再び活動家としての行動をとるためにソウルへ向かった。独裁軍事政権という時代背景で、ヒョヌとユニという男女の悲しい恋のお話。
監督は、『浮気な家族』『ユゴ 大統領有故 (原題:その時、その人々)』のイム・サンス監督。
出演者は、ユニを演じるのは『サッド・ムービー』『少年、天国へ行く』のヨム・ジョンア、ヒョヌを演じるのは『H』『チ・ジニ×ムン・ソリ 女教授 (原題:女教授の隠密な魅力)』のチ・ジニ、ミギョンを演じるのは『ラブリー・ライバル (原題:女先生 VS 女弟子)』『百万長者の初恋』のキム・ユリ、ヨンジャクを演じるのは『アドリブ・ナイト (原題:とても特別なお客さん)』のユン・ヒソク、ヒョヌとユニの娘ウンギョルを演じるのは『多細胞少女』のウンソン。
1980年代と現代の二つの時代背景をみせながら、現代軸ではヒョヌの視点、1980年代軸ではユニの視点で進行していく。
光州事件が発生して軍によって鎮圧され、再び民主化運動を背景にしていることから、光州事件に関わった人々の心の傷が癒えない姿をみせている。ヒョヌが実際に光州にいたことで事件の真相を知っていること、ユニのようにラジオからの情報や人から伝わった情報という第三者的な角度でみていること、この違いが二人の人生の分岐になっているのであろう。
現代軸と1980年代軸を頻繁に切り替えていることで、主人公ヒョヌとユニだけでなく、周囲の人たちの変化もみせている。現代軸で、当時一緒に民主化運動した仲間と光州で再会するのであるが、社会的に成功した者もいたり、未だに当時のトラウマから精神的にまいっている者、時代の流れのまま生きている者といった様々な人生をみせられることで、ヒョヌが時間の流れを恐ろしく感じている。ヒョヌがユニと過ごした家屋にいくことで、空白の17年をユニの記憶と共に手に入れていく流れだ。
1980年代軸では、ユニとヒョヌの二人の愛を描き、この時代によって引き裂かれた愛をみせている。視点を変えれば、この時代だったからこそ二人が出会っていたという見方もある。運動家たちと知り合いが多いユニは、偶然町中で出会ったようにみえているが、ユニはヒョヌのことを知っていることから、出会うことは必然的に決められていた感じがみられる。ユニは、ヒョヌの思想や経験を関係なしに愛し合い、いつかこの場から居なくなることを覚悟しているのもみえる。ヒョヌへの愛情が深くなることで、いつまでも一緒にいたいことを望む気持ちが生まれてきて、彼女が葛藤している姿が痛々しく感じてしまう。当時のユニとヒョヌとで、愛情の重さがあまりにも違う。ヒョヌが去ってから生まれた娘ウンギョルを育てるユニ、いつか必ず戻ってくると信じている気持ちが親子三人でいる夢のようなシーンを挿入しているのであろう。17年という月日がそれをヒョヌに教えているのであり、ユニと過ごした17年まえの幸せな日々を痛いほど心に衝撃を与えている。ヒョヌへのメッセージが手紙ではなくユニが描いた絵というのもよく出来ている表現方法だ。所々で出てくる幾つかの時間を越えた絵が印象的で、しっかりとラストの伏線になっている。
運動家たちの暴動だけでなく、民衆の抵抗もみせていることで、当時の民主化運動の激しさを表現している。火ダルマになる警察、屋上から飛び下りる運動家、極めつけはユニと親しい者までも焼身自殺するシーンがあり、壮絶な時代をこれでもかとみせつけている。全体的に重たい内容になっているために鑑賞するのにかなり疲れる作品である。ユニとヒョヌのラブストーリーは、ユニが死んでいることが序盤から分かっているので、ラブストーリーに爽快感が全くなく、心に刺さるような痛さを切々とみせつけられる。ラブストーリーに対する表現はこれで構わないが、それとは別に政治的背景を強く主張していることで、さらに重い作品に仕上がっている。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★