現在、NHKで放送しているヨンさま出演のTVドラマ【太王四神記】でヒロインを演じているムン・ソリの作品。この作品は、ムン・ソリよりも息子役のイ・ジェウンが主役である。
映像表現で気になるのがあったのだが、長男が御札を裏から透かして読める文字は、あれは検閲に引っ掛からないのかな。英語にすると「pussy」に相当すると思うが。日本語で表現すると卑猥になるので遠慮する。まあ、冗談だけど。
愛してる、マルスンさん
制作年:2005年
監督:パク・フンシク
出演:ムン・ソリ、イ・ジェウン、ユン・ジンソ
ジャンル:ヒューマンドラマ、コメディ
鑑賞:韓国版DVD
舞台は、1979年の朴正煕大統領が暗殺された時代。中学1年生のクァンホ(イ・ジェウン)は、海外に出稼ぎに行っている父、化粧品の訪問販売をしている母マルスン(ムン・ソリ)、幼児の妹ヘスク(パク・ユソン)の四人家族である。グァンホは、いつも変な化粧をしたり、新聞に書いてある意味もわからない無教養、コーヒーを音を立てて飲む下品な姿、女性っぽさがなく逞しい母マルスンを恥ずかしく思っている。グァンホにとって、隣りに一人で住んでいる見習い看護婦ウンスク(ユン・ジンソ)は憧れの女性である。いつも面倒をみてくれる優しいお姉さんのウンスクに、グァンホは心を奪われていた。ある日、グァンホの元に不幸の手紙が送られてきた。グァンホは自分を守るために不幸の手紙を誰かに送り返さなければいけない。考えて末に、母マルスン、隣りお姉さんのウンスク、ダウン症のチェミョン(カン・ミンフィ)、親友のチョロ(キム・ドンヨン)らに不幸な手紙を送るが、彼らは全くの無反応であった。1979年の時代を背景に生きる中学校1年生クァンホが、学校や家庭や近所であらゆる出来事を経験して大人へと成長していくお話。
監督は、『私にも妻がいたらいいのに』『初恋のアルバム (原題:人魚姫)』のパク・フンシク監督。
出演者は、二児の母マルスンを演じるのは『オアシス』『大統領の理髪師 (原題:孝子洞の理髪師)』のムン・ソリ、中学1年生でマルスンの息子クァンホを演じるのは『ぼくらの落第先生 (原題:先生キム・ボンドゥ)』『大統領の理髪師 (原題:孝子洞の理髪師)』のイ・ジェウン、見習い看護婦のウンスクを演じるのは『スーパースター カム・サヨン』『私の生涯で最も美しい一週間』のユン・ジンソ、クァンホの同級生チョロを演じるのは『風の伝説』『春が来れば (原題:花咲く春が来れば)』のキム・ドンヨン、クァンホに懐いているダウン症のチェミョンを演じるのは本作デビュー作のカン・ミンフィ、幼児でマルスンの娘ヘスクを演じるのは本作デビュー作のパク・ユソン。
中学1年生のクァンホが、様々な悲しい出来事を経験することで、子供から大人へと心も体も成長していく過程をみせている。クァンホ視点でストーリーが描かれているので彼が主人公である。
時代背景をうまく表現しているのがみられ、平屋の家々の造り、外にあるトイレ、共同で使用する井戸水、登場人物の衣服、惣菜を隣りの家に届けたりする近所付き合いといった以前日本でもみられていた光景が懐かしく感じる作りになっている。忘れかけていた共同体を思い起こさせる情景である。
思春期のクァンホの気持ちが繊細に表現されていることで、男性からみると幾つもの共感できるシーンに納得するであろう。学校生活をみると他愛のない話で盛り上がったり、エロ本に夢中になったり、成長が早い男子生徒が体育の授業で先生にレスリング(or韓国相撲)で何度も勝ったり、先生からのしつけ、幼いときからの友人が不良だけど心の中はお互い昔のままであったりと中学生の学校生活を細かく表現している。
クァンホが、母マルスンを女性という視線でみることはなく、ダサくみえたり、恥ずかしくみえたりするのは思春期の少年にはみられる光景であろう。家にいるスッピンの母マルスンは、眉毛がほとんどなく平安時代の人みたいな状態になっており、クァンホからすると不自然でしょうがないのだ。女性であれば、お洒落のために眉毛をかくから、眉毛を抜いたり剃ったりするのはごく自然なのだが。そして、友達の母親が綺麗にみえたり、隣りお姉さんのウンスクを妙に意識したりと周りの異性に対して気になり、母マルスンとは正反対にみえるのだ。特にウンスクへの憧れが初々しくみられ、ちょっとした行動でも嬉しく思えてしまうのだ。
母マルスンの今後を予兆させるのが、頻繁に咳をしたり、息子クァンホに対して家事を教えるところである。がさつで勇ましい母マルスンが、二人の子供に無償の愛を注ぐシーンが幾つもみられるので、子供を持つ女性がみると特別な感情になるかもしれない。家族という共同体から近隣を含む共同体へと広がって繰り広げられる出来事が、終盤への伏線にもなっている。クァンホの意識の中にある共同体の人物たちがいなくなっていくことで、当たり前の意識がクァンホの中で特別であったことに気づき、クァンホが大人へと成長していくプロセスがみられるはずだ。
ラストへの伏線は幾つか張っており、どうすることもできない家族の別れをみせている。マルスンらの家族、ウンスクと田舎に暮らす両親、ダウン症のチェミョンとその母親、といった複数の家族の姿を設定して、それぞれにドラマをみせている。やはり、切ない思いになったのは、幼児の娘ヘスクの号泣シーンで、あの小さな子供でも事の重大さを認識しているところである。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★