韓国映画のホラーものとしては異色な作品にみえる。過去と現在、人間と幽霊を同じ空間に表現している作品なので、注意深く鑑賞してないと混乱するだろう。この作品はアイデアで勝負をしている感じがした。
ソン・イルグクのレッド・アイ~幽霊列車~ (原題:レッド・アイ)
制作年:2004年
監督:キム・ドンビン
出演:チャン・シニョン、ソン・イルグク、イ・オル、イ・ドンギュ
ジャンル:ホラー
鑑賞:韓国版DVD
1988年7月16日深夜0時ソウル発麗水行の最終列車が、原因不明の列車事故によって多くの死傷者がでた。その16年後の同日、現在では23時50分発に変更されたその最終列車に、16年前その列車事故で父ジョンヒョン(イ・オル)を亡くした娘ミソン(チャン・シニョン)が車内販売員として乗り込んだ。ミソンは初勤務ということで慣れない仕事に必死だったが、乗務員のチャンシク(ソン・イルグク)がいろいろサポートしてくれた。外は雨が降り、霧がかかった薄暗い空の中、多くの乗客が乗っていた。乗客には、兄ジンギュ(イ・ドンギュ)と妹ヒジュ(キム・ヘナ)の変わった兄妹、男2人女2人グループ、大学教授(イ・デヨン)、新婚夫婦、女子高生の二人組み、若いカップル、出発間際に乗り込んだ新婚夫婦、未亡人、霊感が強い若い女性ソヒ(カク・チミン)、不思議な絵を描く少年といった様々な人たちであった。列車がトンネルを走行中に機関士が線路上に少女が立ち竦んでいるのをみたことで、列車は一時停車をして、10分遅れて次の停車駅に到着した。ミソンは一息入れるために外の空気を吸いに列車から出て休憩し、再び列車に乗り込むときに、列車内が異様な光景であるのを目撃してしまう。ミソンは、列車内が16年前にタイムスリップしたような光景がみえて、1980年代の服装と髪型をした乗客や16年前の新聞を読んでいる乗客を目撃する。異空間に迷い込んでしまったミソンに、今後どのような出来事が起こるのかというお話。
監督は、『リング・ウィルス』のキム・ドンビン監督。
出演者は、車内販売員のミソンを演じるのは『聞くなファミリー』『春が来れば (原題:花咲く春が来れば)』のチャン・シニョン、乗務員のチャンシクを演じるのは本作スクリンデビューのソン・イルグク、ミソンの父ジョンヒョンを演じるのは『純愛中毒 (原題:中毒)』『サマリア』のイ・オル、兄妹の乗客の兄ジンギュを演じるのは『ワイルドカード』『Some』のイ・ドンギュ、兄妹の乗客の妹ヒジュを演じるのは『フラワー・アイランド (原題:花島)』『Mirror 鏡の中 (原題:鏡の中へ)』のキム・ヘナ、乗務員ジンスクを演じるのは『THE KISEI 寄生 (原題:白い部屋)』のキム・ヒョンスク。
多くの乗客の人間模様、乗客を接客するミソンを含む列車側の乗務員の人間模様といった二つの視点からなっており、さらに過去と現在が同時に表現している。
慣れない作業で四苦八苦するミソン、それに対してアドバイスする乗務員チャンシク、ミソンを叱る女性乗務員ジンスク(キム・ヒョンスク)といったギスギスした関係もありつつ、先輩乗務員の引退を祝ったりと和やかな一面をみせながら列車は走り続けていく。そこで幽霊の少女をみた機関士が列車を止めて10分の遅延によって、不思議な世界に入り込んでしまうのだ。この10分は、現在の列車と過去の列車の融合するための時間であり、その後に起こる不可思議な現象の入り口になっている。
停車駅で外からみた列車内には、過去の姿が展開されており、それを不思議に感じながら乗り込むミソン、痴話げんかしたカップルの男がその駅で下りて列車をみた光景も同じようにみえていたのだ。その伏線として、その駅で霧の中に走って消えてしまったスケッチをしていた少年である。少年の描いていたスケッチブックには16年前の列車内の絵、赤く染まった列車内の絵と不気味さを感じさせる。異様な光景もそうであるが、不可思議な事件が起こり乗客が亡くなる事件が起こる。女性用カツラを拾った女性がそのカツラに襲われたり、トイレで発見された変死体の女性といた殺人事件が起こるが、これが人為的なものでなく霊的に発生している。これを解明するのが、乗客の若い女性ソヒであり、霊感の強い彼女によって列車で起こっている出来事を徐々に明らかにしていくのだ。
ホラー要素として取り上げているのは薄暗い列車内の空気であろう。そして、幽霊は登場するが見た目は生きている人間の形なので、それほど幽霊自体に恐怖はない。一番インパクトがあるのは血の溜まり場から幽霊が浮かび上がってくるところや、生きている人間に幽霊が入り込もうとするところである。
変わった演出をしているのが、過去の人物と現在の人物を同じ空間で表現しているところである。車両間を移るときの切り替えや背景色の変化で時間軸を変えていたが、中盤以降は意識が過去と現在に飛ぶような感覚がおもしろいように表現されている。鑑賞者側は、誰が過去の人物で誰が現在の人物なのか混乱するであろうから、しっかりと見分ける必要があるので注意してほしい。ミソンが過去の列車事故の原因が分かり出して急ピッチに進展していくので、過去の人物の背景がみえてなかなかおもしろくなっている。
時間軸を頻繁に変化させ、時には同じ空間に存在させたりする複雑な描写方法をしているので、鑑賞者側にある程度洞察力を要求するような作品になっている。多くの乗客たちにそれぞれドラマがあるのでしっかりと人物を見分けなければいけないのだ。恐怖をみせる表現、過去の列車事故の真相、異空間の表現といったアイデアは誉めるところである。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★