「韓国インディペンデント映画2007」で鑑賞したこの作品。作品云々よりも満員で立見がでるほどだったので、その出来事に驚きを感じてしまった。在日朝鮮人が通う朝鮮学校が現在どのように変化しているのかを知るのにはよいのかもしれない。エンターテイメント性をもった井筒監督の『パッチギ!』とは違う。時代背景が違うから当然だが。個人的には、20歳まで朝鮮初中級学校から歩いて1分の場所に住んでいたので、あまりに在日韓国朝鮮人という存在が身近であったし、朝鮮学校がどのようになっているかは幼少のころから知っていた。当時と比べると変化しているのがみられた。
ウリハッキョ~われらの学校
制作年:2007年
監督:キム・ミョンジュン
出演:キム・ミョンジュン、北海道朝鮮初中高級学校の生徒たち
ジャンル:ドキュメンタリー
鑑賞:韓国インディペンデント映画2007
「ウリハッキョ」とは、朝鮮語で「私たちの学校」という意味である。舞台となった北海道朝鮮初中高級学校は、北海道で唯一の在日朝鮮学校である。朝鮮半島の4分の3の広さをもつ北海道に朝鮮学校がひとつしかないため、生徒の多くが寄宿生活を送っている。幼くして親元を離れ、ホームシックになる生徒がでるなか、友人や先生らと暮らして学校に通う。日本人には馴染みの薄い朝鮮学校の今の姿、以前は540校もあった朝鮮学校が今では60校まで減少した朝鮮学校が抱えている問題、朝鮮学校が作られた経緯や運営などをみせている。そして日本の高校3年生にあたる学年の1年間を通して、生徒たちが卒業するまでのドラマや彼らが学校でどのような学校生活をしているのかを映し出している。キム・ミョンジュン監督が北海道朝鮮初中高級学校で3年間記録したものを纏めて、普段の朝鮮学校の生徒たちの生活、先生との信頼関係、学校行事、悩みといったものを描いたドキュメンタリー作品である。
監督は、『一つのために』のキム・ミョンジュン監督。この監督は、『冬眠』や『フラワー・アイランド』の撮影監督も経験している人である。出演者は、キム・ミョンジュン監督以外は北海道朝鮮初中高級学校の生徒たちや先生たちである。
朝鮮学校の存在としては、第二次世界大戦が終わって、いずれ朝鮮に戻っていく子供たちに朝鮮の言葉や文化の基盤を提供するものであった。朝鮮学校をサポートしていた金日成政権時代の北朝鮮が民族教育に力を注いでいた。だが、現在では生徒も減少していき北朝鮮籍だけでなく、韓国籍の生徒も存在している。以前は、朝鮮民族のアイデンティティーを学び、次の代に継承していくものであったが、今では日本の学校で学んだり、日本と同化するような考え方も増えてきて、日本国籍を取得する人も増えてきた。このような時代の流れもあり、現在の朝鮮学校にいる生徒たちはどのような学園生活をしているのかをカメラに映し出され、無邪気な少年や少女たちの普通の笑顔がたくさんみられる。
全編が日本語字幕のこの作品であるが、それは校内公用語が朝鮮語で、全て朝鮮語で授業を行うからである。校内では朝鮮語での会話が多く用いられいるが、自然と日本語とミックスして使う生徒もいる。初級部(日本でいう小学校1年生)から入学している生徒は、朝鮮語をマスターしているが、編入してきた生徒たちもおり、彼らは朝鮮語が話せないことで苦しんだり、彼らのために特別授業を先生らが行ったり、同級生たちが協力している。生徒自身もカメラのまえで、日本語で話すほうがラクとポロリと漏らしていたのが本当の気持ちなのがわかった。来る者もいれば去る者もいて、日本の学校に編入していく生徒もいるのが現実でもある。
思春期の子供たちと一緒に生活する先生は、先生というよりは「兄」「姉」に近い存在であるのだ。若い先生が多いのでそのように感じのもわかるし、先生たちもかつては朝鮮学校の生徒であったから生徒が抱える悩みなどは経験を踏まえて語れる点は頼もしいのだ。カメラで映し出されている生徒たちは真面目で模範的な学生である。運動会、合唱コンクール、修学旅行なども全力で取り組む生徒たちで、一昔まえの日本の学生にみえてしまった。井筒監督の『パッチギ!』で登場するようなツッパリ生徒がいないのが不思議な感じを受ける。
修学旅行のシーンは印象的で、祖国に行く夢が叶った喜びや現地の人たちの温かい対応に生徒たちは心の底から感謝と喜びを表情から感じとれる。日本のニュースでみるような映像と違って、生徒たちがカメラをまわしていることで現地の人たちの素の部分がみられる。監督が韓国籍のために北朝鮮に入国できない理由で、北朝鮮内では生徒たちが撮影を行っているのである。この修学旅行に行く前は日本の制裁措置が発動していなかったため問題なかったが、帰りのときに制裁措置が発動しており、「万景峰」の日本入港が禁止された。そこには新潟港に集まる拉致被害者の家族会たちの抗議が映し出されており、女生徒たちはチマ・チョゴリからジャージに着替えるように先生から指示されたりしていた。ニュースで放送されていたので新潟港から「万景峰」をみる映像が鮮明に覚えているが、この作品では全く逆で船から見下ろす映像になっている点がおもしろい。
ミサイルが日本に向けられて発射されると、学校に右翼を名乗る男たちから脅迫電話がかかってきて、録音された内容をそのまま流れ、恐怖感を与えるようにしている。修学旅行での北朝鮮からの帰りの船で、拉致被害者の家族会たちの叫びをそのまま流していたことで自分たちは何も関係ない「被害者」という印象をみせつけるようにみせている。
生徒たちがしきりに「祖国」という言葉を使い、現在は2つの国に分断されているが彼らの意識では半島全土を「朝鮮」という国としてみているように感じとれる。韓国のことを「南朝鮮」と彼らは呼んでおり、「韓国」という言葉に違和感があるようだ。祖国統一を口にするが、実際のところは彼らは統一に対してなにもしないで、統一してくれるまで待つような姿勢でいるところに疑問を感じる。完全に人任せになっており、自ら何かを起こそうという考えが全くないのである。そして、南北が統一することで生じる未来予想図を何も描いていないことが一番の問題である。
今の朝鮮学校の現状をみることができる本作品は、日本という土地でどのように自分たちのアイデンティティーを守っているのか、どのように「北朝鮮」「韓国」をみつめているのかがわかる。そして日本人も現在失いつつある自分たちのアイデンティティーを再確認しなければいけないと感じさせてくれる。
本作品と同時上映された短編映画『右翼青年 ユン・ソンホ』は、監督がナレーションをして反共主義の思想を持って、実際にニュースの映像を使って、「○○はアカだ。」と批判する作品だ。こいつもアカ、こいつもアカ、こいつもアカって感じで連発する。社会的な内容を意味しているので国際情勢や韓国国内の政党や人物なんかを知っていると余計に笑える作品だ。久しぶりに映画館で声を出して笑ってしまった作品なだけにDVDがほしい。上映時間7分しかないけど。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★
【おまけ】 2007.09.12
本作品が一般上映される予定になったのはいいことなのだが、北海道朝鮮初中高級学校の教師が盗撮容疑で逮捕された。事実関係はまだはっきりしてないのでわからないが、果たして本作品は一般上映されるだろうか。逮捕された容疑者は、この作品に映っていたのだろうか。
北海道新聞のHP
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/society/48781.html
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