随分まえに映画館で鑑賞したこの作品。今では仁川といえば空港のイメージが強いが、この作品が撮影していたころはこれから空港が出来る時期だと思う。だから仁川を郊外の港町のようにみせているし、都会のソウルへの憧れもみせているのだろう。映像でみると仁川という町もいいところにみえる。
話題は変わるが、「韓流シネマ・フェスティバル 2007 ルネサンス」で上映する予定でいた『人生の路(みち) (原題:道)』が中止になったので、観たいのが減ってしまった。元々半分は鑑賞済みで、鑑賞したい作品が少ない上に減るのは腹が立った。しかも代わりに上映するのが『愛なんていらない』はもう鑑賞済みだし。今回もこのイベントはパスの方向性になってきた。
子猫をお願い
制作年:2001年
監督:チョン・ジェウン
出演:ペ・ドゥナ、イ・ヨウォン、オク・チヨン、イ・ウンシル、イ・ウンジュ
ジャンル:青春ドラマ
鑑賞:一般上映 (日本)
高校時代の同級生で女の子5人の親友グループが、卒業後それぞれの道を歩み出していく。仁川で生まれ育った女の子たちが高校を卒業してから5人の生活というと、テヒ(ペ・ドゥナ)は、家業の大衆サウナで働きながら身体障害者の詩人が読み上げる文をタイプライターで打ち込むボランティアをしている。ヘジュ(イ・ヨウォン)は、ソウルの証券会社に勤務するOLとなりキャリアウーマンとして野心に燃える。ジヨン(オク・チヨン)は、イラストやデザインが得意でいつかはそのような仕事に就きたいと夢を持ちながら工場に勤務していたがリストラにあって今は仕事を探している。明るい中国系の双子姉妹オンジョ(イ・ウンジュ)とピリュ(イ・ウンシル)は、アクセサリーの露店を出して商売しているが、いつかはしっかりとした自分たちの店を持ちたい夢を持っている。5人とも高校を卒業後社会人になり、なかなか集まることができなかった。ヘジュはソウルで勤務して、その他の4人は仁川にいるが、社会に出て時間に制約があり都合がつかないでいた。テヒが中心となり、仲間たちを集めて遊ぶが、ギクシャクした感じになる。ヘジュの誕生パーティを開いた彼女たちは、それぞれがプレゼントを渡すが、ジヨンだけは飼っていた捨て猫ティティをプレゼントとして渡すが、翌日になってヘジュは猫を飼えない事情があることでジヨンに猫ティティを渡した。彼女たちの生活に猫ティティが割り込んできて、猫ティティと一緒に彼女たちは予想できない展開になっていく。仲良しの高校時代からの同級生5人が20歳になり、日常生活を通してこの年代の気持ちや夢や挫折を描くお話。
監督は、本作品が初監督・脚本である女性のチョン・ジェウン監督。出演者の主要人物5人は、『吠える犬は噛まない(原題:フランダースの犬)』『プライベートレッスン 青い体験 (原題:青春)』のペ・ドゥナ、『男の香り』『アタック・ザ・ガス・ステーション!』のイ・ヨウォン、この作品がスクリーンデビューのオク・チヨン、『純愛譜』で登場した双子のイ・ウンジュとイ・ウンシル。でも、あくまでスポットを浴びているのは、双子以外の3人がメイン。また、テヒ役のペ・ドゥナの母役には、実母のキム・ファヨンが演じている。
高校を卒業して、それぞれの道に進むのであるが、5人とも家庭においても社会においても自分の居所がないと感じて、孤独感を持ちながら今の生活に耐えている。テヒは、父母、兄夫婦、兄の子供たち、弟と暮らし家業を手伝いながらボランティア活動をしているが、家族の中ではあまり可愛がられていないと感じており、いつかこの家を出て行きたいと思っている。ヘジュは、ソウルの会社に就職してOLになったはよいが、仕事は雑用が主であり、同僚の女上司に憧れており、彼女から学歴社会の厳しさを聞かされ夜間の大学で勉強することを勧められる。早くソウル市民になりたくて姉が住んでいるソウルに引っ越したり、友人たちには見栄を張って忙しいふりをしてキャリーウーマンのように振舞っていたりと自分自身で彷徨っている。ジヨンは、夢と現実を身にしみて感じており、病気がちな祖父母とバラック住宅で貧乏生活しており、女性浮浪者をみたときに自分も将来はあのようになるのかと不安を感じている。家庭の事情もあり面接で落とされたりなかなか仕事がみつからないでいる。双子姉妹オンジョとピリュは、子供たちをお客に露店でアクセサリーを売るがなかなかうまくいかないでいる。そうした家庭にも仕事にも問題を抱えていた彼女たちが、テヒを中心として集まって買い物をしたり食事をしたりとバカ騒ぎするのだ。
人物設定が非常にうまく出来ており、テヒ、ヘジュ、ジヨンの三人の状況はバラバラになっており、20歳の女性たちと共感する点もあるようにみえる。現段階の生活に嫌気を感じたり、仕事ができるようになりたいが空回りしたり、将来への不安を感じたりと各々たちが自分だけが孤立しているように感じている気持ちを表現している。高校時代はとても仲がよかったヘジュとジヨンであるが、ジヨンがリストラにあって仕事を探している中でヘジュが仕事で成功しているふりをしているのが鼻につき、二人の関係にズレが生じてきている。二人の関係を修復しようとするテヒがおり、テヒはある意味でグループの拠点のような存在でみんなから好かれみんなを愛している。一人だけヘビースモーカーな点もおもしろく、何を仕出かすかわからない子でもあるのが終盤にみえる。
事あるごとに集まっては、時にぶつかり合いながら友情を育んでいる彼女達を結び付けているのはジヨンが拾ってきた子猫ティティの存在も大きい。子猫ティティは、ジヨン→ヘジュ→ジヨン→テヒ→オンジョ&ピリュという順路で譲り受けていくのであるが、それぞれ事情があってこのような経過になっている。
終盤は、ジヨンに不幸が起こり自分に将来がないことで諦めかけていたのが切々と映し出される。それでも何とかしようとするテヒがいるのが見所のひとつである。友情を扱った青春ドラマであるが、高卒で社会に出た彼女たちの不安な未来も映し出されており、学歴社会、男性優位な社会、格差社会、障害者の不安なども含まれたものにもなっている。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★