多くの俳優が出演している作品。6つのエピソードを同じ時間軸で一つの物語にしている。同じような作品で『サッド・ムービー』があるが、本作品は韓国国内では同時期に劇場公開された。なぜ、この作品が日本で一般公開されないのかが不思議である。やはり、『サッド・ムービー』は日本での知名度がある俳優チョン・ウソンやチャ・テヒョンが出演したからなのか。比較すれば明らかに本作品の方が出来がよい。この作品の弱点としてはキャストが多いことで、誰が誰だか混乱する可能性があるだろう。本レビューを書くときにチラシの裏にメモした人物相関図を纏めて、簡易的に人物相関図を作成したので参考にしてくれたら幸いである。個人的には『私の生涯で最も美しい一週間』の出演者の方が豪華にみえるのであるが、価値観の違いなのだろう。
私の生涯で最も美しい一週間
制作年:2005年
監督:ミン・ギュドン
出演:オム・ジョンファ、ファン・ジョンミン、イム・チャンジョン、ソ・ヨンヒ、キム・スロ、チョン・イダ、チョン・ホジン、キム・テヒョン、チュ・ヒョン、オ・ミヒ、ユン・ジンソ、チョン・ギョンホ
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
鑑賞:韓国版DVD
一週間という時間の中での、様々な愛をテーマにした6つのエピソードで構成されたオムニバスである。
■第一話
ケチな映画館主をしているカク・マンチョル(チュ・ヒョン)は、映画館を建て替えて新しくする計画を進めていた。この映画館内の喫茶店を一人で切り盛りしている女性オ・ソンヒ(オ・ミヒ)も映画館の建て替えのために出て行くことになる。ソンヒは、喫茶店以外にも脇役女優として映画に出演するが大した役はもらえず、夢はオードリー・ヘップバーンのような女優になりたいのだ。ソンヒはすでに夫は他界しているため、寂しい毎日を過ごしているが、口喧嘩の相手マンチョルがいることで満たされていた。そんな熟年の二人のほのぼのした愛のお話。
■第ニ話
芸能関係の社長をしているジェギョン(チョン・ホジ)は妻ユジョン(オム・ジョンファ)と離婚して息子ジソク(イ・ビョンジュン)と二人暮しをしている。不慣れな家事に疲れたジェギョンは家政婦を雇うことにしたが、やって来たのが若い男性のテヒョン(キム・テヒョン)であった。子供のしつけにも厳しく、仕事でも不要なものは容赦なく切り捨てるジェギョンは友人も少なかったが、お金に困ってジェギョンのところにやってきた友人ドンマン(キム・ユンソク)にも冷たくあしらった。その結果、ドンマンは地下鉄で飛び込み自殺をする。落ち込むジェギョンに、更に追い討ちをかけるように息子ジソクも元妻のところに行ってしまい、一人ぼっちのジェギョンであるが、テヒョンがやさしく接する。ジェギョンとテヒョンの男の友情を描いたお話。
■第三話
精神科医のユジョン(オム・ジョンファ)は、離婚暦があり息子ジソクは元夫ジェギョン(チョン・ホジン)のところにいる。そんなユジョンと恋愛未経験でがさつなドゥチョル刑事(ファン・ジョンミン)が、テレビ番組の討論会で知り合った。テレビ出演者たちと飲み会で酔ってしまい、目を覚ますと二人はホテルにいた。ドゥチョル刑事は、そのホテルに拳銃を忘れてしまい、ユジョンが警察署まで届けてくれたが、ドゥチョル刑事の態度に腹を立てたユジョンが意地悪をしてなかなか拳銃を渡さず、ドゥチョル刑事にとって屈辱的な写メールを撮られる。デートを何回も重ねて、徐々に惹かれあっていった二人であるが、ユジョンの息子ジソクが遊びにきてドゥチョル刑事と一緒に遊んでいたときに目を離してしまい息子ジソクはどこかに消えてしまう。誘拐騒ぎになって、犯人から身代金を要求されて動揺するユジョンであった。果たして、息子ジソクは無事で取り戻せるのか、そしてドゥチョル刑事とユジョンの愛の行方はどのようになるのかというお話。
■第四話
元バスケット選手で現在は借金取立て屋をしているソンウォン(キム・スロ)。女性のイ放送作家(チョン・イダ)がソンウォンにバスケット選手として復活を考えており、その話題作りとして、不治の病にかかった幼い少女ジナ(キム・ユジョン)の父役をソンウォンが演じるのだ。理由は、ジナの母ヨンジュ(ハ・ジウォン)は学生時代にソンウォンと付き合っていた女性で、ソンウォンとヨンジュが一緒に写っている写真をみて、ジナはソンウォンを本当の父と思い込んでいる。そんな幼い少女ジナとソンウォンの不思議な関係とソンウォンとイ放送作家の恋愛を描いたお話。
■第五話
貧乏な新婚生活をしている夫チャンフ(イム・チャンジョン)と妻ソネ(ソ・ヨンヒ)。ラブラブの夫婦であるが、チャンフは地下鉄などで物売りをして、ソネも駅周辺で物売りをして生活をしている。借金取りからの電話で煽られるチャンフであるが、お金がない生活状況の中で妻ソネは妊娠していまう。生まれてくる赤ちゃんに悩む二人は、どのような決断をするのかというお話。
■第六話
修道院にいた見習い修道女スギョン(ユン・ジンソ)は、憧れていた人気歌手ジョンフン(チョン・ギョンホ)が隠れて恋人ユニョン(キム・ヘヨン)と会っているのを目撃する。毒を飲んだスギョンは入院するが、隣のベッドにはあのジョンフンが入院していた。体が不自由になったジョンフンであるが、彼に片想いしているスギョンは初めは冷たく接していたが、徐々に二人の関係は親密になっていく。二人は恋の行方はどのようになるのかというお話。
監督は、『少女たちの遺言 (原題:女高怪談 二番目の話)』のミン・ギュドン。
出演者は、第一話で映画館主のマンチョルを演じるのは『ファミリー (原題:家族)』『孤独がもがく時』のチュ・ヒョン、喫茶店の経営するソンヒを演じるのは本作がスクリンデビューののオ・ミヒ。
第二話で芸能関係の社長をしているジェギョンを演じるのは『ビッグ・スウィンドル! (原題:犯罪の再構成)』『人形霊』のチョン・ホジ、家政夫のテヒョンを演じるのは『愛しのサガジ』『まわし蹴り』のキム・テヒョン。
第三話で精神科医のユジョンを演じるのは『シングルズ』『どこかで誰かに何かが起こると必ず現れるホン班長』のオム・ジョンファ、ドゥチョル刑事を演じるのは『浮気な家族』『ユア・マイ・サンシャイン (原題:君は僕の運命)』のファン・ジョンミン。
第四話で借金取立て屋をしているソンウォンを演じるのは『風の伝説』『Sダイアリー』のキム・スロ、イ放送作家を演じるのは『LIES 嘘』『ジャングルジュース』のチョン・イダ、ソンウォンの学生時代の恋人ヨンジュを演じるのは『愛しのサガジ』『恋する神父 (原題:神父授業)』のハ・ジウォン。
第五話で夫チャンフを演じるのは『セックス・イズ・ゼロ (原題:色即是空)』『偉大なる遺産』のイム・チャンジョン、妻ソネを演じるのは『ラブストーリー (原題:クラシック)』『麻婆島』のソ・ヨンヒ。
第六話で見習い修道女スギョンを演じるのは『オールド・ボーイ』『スーパースター カム・サヨン』のユン・ジンソ、人気歌手ジョンフンを演じるのは本作がスクリンデビューのチョン・ギョンホ。
時間軸を一週間に限定して、6つのエピソードをランダムに移っていく構成である。6つのエピソードは、あらゆく角度からみた「愛」を表現している。そして、各々のエピソードで登場する人物が、別のエピソードにも登場するので、大きな物語の中に6つの話しが混在しているイメージである。登場人物が多いことやその登場人物たちがどのようにリンクしているのかを整理するために人物相関図を頭の中で整理して鑑賞する必要がある。
第一話では、マンチョルが映画館を建て替えるために、長年の交友があった映画館内の喫茶店主ソンヒを仕方がなく追い出すことから、マンチョルがソンヒに対しての気持ちが高まっていくのだ。マンチョルがソンヒに片想いをしているのが行動や表情でわかり、何かと難癖をつけたりするし、時には涙を浮かべて心配したりとするのだ。映画出演のため現場に向かうソンヒを偶然を装って出会い車に乗せるマンチョルは、彼女に愛を打ち明けるためにバラの花を仕込んでいたが、あっさりをかわされてしまう。食事のシーンでも二人っきりになるように仕組んだりとマンチョルなりの遠回しな愛の表現であったが、一週間目の最後にソンヒへ最高の愛の告白をするのだ。これはマンチョルならではのアイデアで、ソンヒにとって素晴らしいサプライズである。熟年カップルの温かいストーリーになっており、出来としてはかなりいい。
第ニ話では、ジェギョンが離婚して息子ジソクと二人暮しをしているところに家政夫テヒョンがやってきて、三人の心の交友を描いている。仕事や私生活でも厳しいジェギョンであり、自分のせいで友人を亡くしたことでショックを受け、息子ジソクのしつけで体罰をする。ジェギョンが父親として息子をどのように育てていくのか悩んでいる姿があり、決して悪い人間ではなく、不器用な性格なだけである。ジェギョンが中心ではあるが、家政夫テヒョンと息子ジソクは仲良く遊んだり、息子ジソクと入院中の幼い少女ジナとの交友があり、他のエピソードとの繋がりがある。息子ジソクが元妻のところにいったり、家政夫を必要となくなりクビにしたことで一人ぼっちになって始めて人の心の大切さを切々と感じのが伝わってくる。そんなときに手をさしのべてくれたのが、家政夫テヒョンであり、彼ら二人は同性愛ではなく、年齢も職業も違うが心で繋がる友情というものであろう。
第三話では、離婚して人生の再出発をする精神科医のユジョンと恋愛に奥手なドゥチョル刑事の恋愛もの。ユジョンの気の強い性格がよくでており、それに負けじと張り合うドゥチョル刑事のやりとりがおもしろい。映画館でのデートでウブなドゥチョル刑事や大胆なユジョンの姿もそうであるが、鑑賞しているのがファン・ジョンミンも出演している『甘い人生』というところがかなり笑える。ちゃんとこの伏線があり、映画館の外には『甘い人生』のポスターがデカデカと張ってあるのだ。デートを重ねることで親密になっていく二人で、別居していたユジョンの息子ジソクに対しても考えるようになる。おもちゃ屋で子供にプレゼントを買うシーンでは、ドゥチョル刑事がお客さんにどのようなものが子供に気に入るかたずねるのだが、その人は息子ジソクの実の父ジェギョンで、しかもジェギョンが買ったおもちゃと同じものを選んでいるのが笑える。ユジョンの息子ジソクの誘拐事件になるのだが、その犯人は他のエピソードとリンクしているだ。両方の立場で心境が見えるところにおもしろさがある。何故息子ジソクの実父ジェギョンに何も連絡しないのかが不思議ではあったが。このエピソードは、ユジョンとドゥチョル刑事の正統派ラブストーリーというところだ。
第四話では、借金取立て屋をしているソンウォンにイ放送作家の突然の訪問から人生が大きく変わっていくのだ。過去にバスケット選手として名があったソンウォンが、再び選手として復活するプロセスを描いている。そこにソンウォンの学生時代の彼女ヨンジュの娘ジナが絡んでいることで、父娘の感情が大きくなっていくのだ。実際のところは、ジナとソンウォンとは血の繋がりがないのはわかるが、ジナの存在によってソンウォンに大きな変化をもたらしてくれたのだ。そしてソンウォンとイ放送作家のラブストーリーも展開しているが、ここはかなり控えめに描いている気がした。もう少し欲を言えば、ハ・ジウォン演じる学生時代の彼女ヨンジュの回想シーンをもっと取り入れればストーリー全体に広がりがでたと思う。このエピソードはアイデアがいっぱい詰まっており、いろいろ変化がつけられるのでもう少し時間を使ってもよかった。
第五話では、夫チャンフと妻ソネの苦難な新婚生活を描いている。お金がないがいっぱいの愛はある。でも現実は厳しくて夫チャンフには借金に取り立て屋から電話がかかってくるし、妻ソネはチャンフのために少しでも力になりたい気持ちが感じられる。夫チャンフが電車で実演販売しているが、品物もかなり安価なものだから厳しいのがわかる。苦しい生活なのに妻ソネが妊娠したことで、嬉しい気持ちであるが今後の生活に苦悩する姿がみられる。夫チャンフの借金取立て屋がソンウォン(キム・ソロ)なのがリンクしており、お互い電話だけの付き合いで顔は知らないが、二人の間には友情のような感情が生まれているのも見せ場である。そして思わずところで出会う二人なのである。終盤、あるエピソードとリンクして盛り上がるようになっているのが見せ所だ。
第六話では、人気歌手ジョンフンの所属事務所がジェギョン(チョン・ホジ)の会社で、ジェギョンからジョンフンは切られたことから、ジョンフンの不幸が始まっていくのだ。ジョンフンは重病で入院して、毒を飲んで自殺未遂をした見習い修道女スギョンも入院した。偶然同じ病室になり、隣りのベッドにいる二人は、憧れていたジョンフンに動揺するスギョン。心を閉ざす二人であったが、徐々に心を通わせていく姿が伺える。二人の担当医が、精神科医のユジョン(オム・ジョンファ)であることでリンクしているが、他のエピソードとあまり絡んでいないのがこのエピソードの弱さである。二人の恋は、意外な方向になるのでその点ではおもしろさはある。
全体像をみると、各エピソードが絡み合っている点においては編集がよく出来ている。「愛」についても違った角度でみせており、一週間という時間においてあらゆる人の人生を描いている。このような作品のラストの見せ方が難しいのだが、各エピソードのラストシーンもよく出来ていた。2時間強でよく纏めているが、6つのエピソード以外にも幼い少年少女の交流や貧乏チャンフと借金取立て屋ソンウォンの交流、昔の恋人同士ソンウォンとヨンジュといったかなり多くのアイデアが詰まっている作品なので、もう少し時間を延ばしても良かった気がする。
(おまけ)主な人物相関図
映画館主マンチョルと喫茶店主ソンヒ 社長ジェギョンと家政夫テヒョンと息子ジソク
刑事ドゥチョルと精神科医ユジョン 放送作家イと借金取立て屋ソンウォン
妻ソネと夫チャンフ 歌手ジョンフンと見習い修道女スギョン
ソンウォンとジソクとジナ 回想シーンでのジナの母ヨンジュ
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★★