今度は、日本の一般人が知っているような知名度のある有名女優チェ・ジウの作品。映画祭の当時はTVドラマ【冬のソナタ】がブームになっていたこともあり、本作品は大人気で先行チケットが早く売り切れた記憶がある。
ピアノを弾く大統領
制作年:2002年
監督:チョン・マンベ
出演:アン・ソンギ、チェ・ジウ、イム・スジョン、イ・ジャンスク
ジャンル:ラブストーリー
鑑賞:コリアン・シネマ・ウィーク2003
国民から支持を得ている大韓民国の大統領ミヌク(アン・ソンギ)。大統領の一人娘ヨンヒ(イム・スジョン)が通う学校に新しく来た女教師ウンス(チェ・ジウ)は、常に学生の方に立って学校と摩擦を起こして何回も学校から追い出された前歴がある。ウンスは新しく担任になり、そのクラスには問題児ヨンヒがいた。ヨンヒは、授業時間中に教室から出て行ってしまうなど反抗的で、態度が一貫するヨンヒを理解できないウンスは親に電話して叱り飛ばしたが、その電話先は大統領府であった。ウンスは学校を訪ねた大統領ミヌクにヨンヒの代わりに宿題をだす。徐々に二人の関係は近づき、二人は惹かれ合っていった。大統領とその娘の担任とのロマンスを描いたお話。
この作品がデビュー作であるチョン・マンベ 監督は、新人監督と言ってもデビューまで20年かかり、シナリオ通算10本目の本作と遅さき監督である。韓国の大統領ミヌクを演じるのは『真実ゲーム』『MUSA -武士-』『黒水仙』のアン・ソンギ、大統領の娘の女教師ウンスを演じるのは『オルガミ~罠~』『ファースト・キス (原題:キスしましょうか)』のチェ・ジウ。大統領の娘ヨンヒを演じるのは本作スクリンデビューのイム・スジョン。チョン・マンベ 監督も大統領役はアン・ソンギしか思いつかないというような褒め言葉を述べていた。
大統領と娘の先生とのシンデレラストーリー。はじめのシーンで大統領が地下鉄の駅で、浮浪者に変装し警察が彼らをゴミ扱いするのを叱ったり、大統領の立場であるのにバスや地下鉄に跳びこんで市民たちと対話し、実際に市民の目線になって国をみつめる模範的な大統領なのである。ここで注目して欲しいのは、浮浪者をバカにする警察とのいざこざの中、いきなり登場するのが浮浪者扮するイ・ボムスで、ミヌクが大統領であると主張するが、大統領に向かって「あんたが大統領ならオレは金正日だ」と当時タイムリーなネタで会場を沸かせてくれる。イ・ボムスの登場はもう一回あって、電車内で大統領が踏みつけるチラシなのだ。
熱血漢教師ウンスにとって、天敵なのが大統領の娘ヨンヒなのだ。「大統領の娘」というコンプレックスを持っているヨンヒは、ボーイフレンドを使ってイタズラをして憂さ晴らしをする。大統領の娘として特別扱いする今までの教師と違って、本気で怒ったり笑ったりしてくれたのがウンスなのだ。ウンスとヨンヒの関係も見どころのひとつである。
ウンスがヨンヒを職員室に呼び出したり、大統領を学校に呼び出したり、いつもヒヤヒヤしている校長先生の表情がおもしろい。電話口でも実際に大統領が目の前でも、常に萎縮する校長の姿が笑える。「閣下、閣下」ってしつこいぐらい連呼しているのだ。大統領とウンスの関係は、ふとしたきっかけで出会った二人が、恋に落ちて、いくつかのすれ違いや危機を経て愛を手に入れる。だから、二人の愛の過程については有り触れた内容にみえる。ヨンヒと一緒に住んでいるニューハーフの友人がなかなかのキャスティングである。性転換手術で体は女性なのに軍服をきて予備軍訓練に行くのだから。何だかんだヨンヒの恋の力になっているニューハーフなのだが、大統領とヨンヒが新聞にスクープされてから、このニューハーフにも悲劇が襲う可哀相な子なのだ。ピアノを弾き、ダンスをする、国民のための素敵な大統領は、ウンスとの出会いで考え方が変わり、本当の自分を国民へむけて演説するところが見せ場になっている。
ピアノに注目してみると、アン・ソンギはこの映画のために4ヶ月間ピアノを練習したのだ。大統領とヨンヒが別れるシーンで出たピアノの演奏も、アン・ソンギが弾いたピアノの音をそのまま利用しているのである。そしてチェ・ジウの配役は、大統領の恋人相手として若すぎない女性をターゲットにして、20代後半の彼女が適しているから決まったそうだ。まあ、それだけの理由ではないと思うが。これはティーチ・インでの監督からのコメントでわかったことである。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★