われらの歪んだ英雄
制作年:1992年
監督:パク・チョンウォン
出演:ホン・ギョンイン、コ・ジョンイル、テ・ミニョン、チェ・ミンシク
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:日本版Video
予備校の英語教師をしているビョンテ(テ・ミニョン)は恩師の訃報をきいて田舎へと向かった。そして数十年前の小学校時代にソウルから田舎に引っ越してきたころを思い出す。田舎の小学校では子供たちの間で階級があり、ベテラン教師はその級長ソクテの存在を尊重する。級長ソクテは、テストのカンニングを各人に振り分けたり、腕力をつかったりしてクラスを牛耳っていた。ビョンテは、そんなソクテに反抗するがことごとく失敗する。みんなが六年生になり、担任が熱血漢ある若き新任教師キム(チェ・ミンシク)になる。キム先生は、ソクテの不正を次々暴き追い込ませる。キム先生に罰せられた屈辱を受けたソクテは校舎に火を放ち、行方をくらました。そして今、葬儀に参列したビョンテは昔のクラスメイトと再会した。級長ソクテという歪んだ英雄を当時の韓国社会に皮肉って表したお話。
『九老アリラン』のパク・チョンウォン監督の第二作目。イ・ムニョルの原作が有名で1987年に李箱文学賞を受け、その後11カ国で翻訳・出版された。出演者は、主人公ビョンテを演じるのは、少年時代をコ・ジョンイル、青年時代をテ・ミニョン、級長ソクテを演じるのはホン・ギョンイン、六年生の担任キム先生を演じるのチェ・ミンシク。1960年代の韓国の歴史背景を示した作品である。李承晩大統領の独裁政権を打倒した学生革命、その後に文民政府、軍事クーデターによって朴正煕大統領の独裁政権に取って代わられる。これを小学校に置き換えて、少年たちの権力関係に置き換えている。
ソウルからきたビョンテが不思議でしょうがないのが級長ソクテの独裁主義。誰もが反抗することなく言うことをきくこの世界を客観的にみれる唯一の立場でもあった。だが、この世界にはこの世界の生活をしなければならない心の葛藤があるのをうまく表現している。決定的だったのが、ソウルから新しく新任できたキム先生だ。キム先生は子供たちの異様な世界に気づき級長ソクテの行ってきたことをあからさまにした。キム先生がみんなにソテクが今までしてきたことを勇気を持って発言させたからだ。現実社会と違うのは教師という上の立場であることでこの独裁者ソクテを懲らしめることができる。現実社会であれば、下の者たちがクーデターを起こすか、外国が裁くかということになる。今回の場合は上(キム先生)下(生徒たち)からの圧力によって生徒たちが自由を勝ち取る。葬儀のときにビョンテたちクラスメートは集まったがあのソクテはみんなのまえに現れず花輪が届けられており、あのキム先生は国会議員になっている。歪んだ英雄が今何をしているかが不明にしている点はよい。
このような独裁的な社会をとっている国は世界にいろいろある。スーダン(オマル・バシル大統領)、北朝鮮(金正日総書記)などが最悪の独裁者。その他にも、ミャンマー(タン・シュエ議長)、ジンバブエ(ムガベ大統領)、トルクメニスタン(ニヤゾフ大統領)と21世紀になっても独裁国家は存在する。一番の問題は、独裁者が生まれる共同体のシステムの方に欠陥があり、このシステムを改善することなのである。1960年代は南北朝鮮とも独裁国家であったが、かたや民主化した社会、もう一方で独裁化した社会が残るとこのような結末があるのかとしみじみ感じてしまった。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★★