東京国際映画祭コンペティション部門で正式上映され、観客賞を受賞した。この作品だけ、とてもおもしろかったに投票した。ゲストも豪華勢ぞろいで、監督、脚本&製作者、出演者三人。
レッド・ファミリー (原題:赤い家族)
制作年:2013年
監督:イ・ジュヒョン
出演:キム・ユミ、チョン・ウ、ソン・ビョンホ、パク・ソヨン
ジャンル:ヒューマンドラマ、アクション、サスペンス
鑑賞:第26回東京国際映画祭
北朝鮮のスパイグループが普通の家族を装い韓国で暮らす。擬似家族として、妻を演じるスパイグループのリーダーのスンヘ(キム・ユミ)、夫を演じるジェホン(チョン・ウ)、祖父を演じるミョンシク(ソン・ビョンホ)、女子学生の娘を演じるミンジ(パク・ソヨン)の四人のスパイ。擬似家族の隣りに住んでいるのは、純粋な韓国の家族で、夫、妻、祖母、男子学生の息子の四人家族である。擬似家族を演じる北朝鮮家族は、スパイ活動をしていることで、幸せそうな生活を周囲にみせるようにしている。一方、隣りの韓国の家族は、いつも夫婦喧嘩をしており、祖母と妻の関係もよくなく、男子学生の息子は同級生からカツアゲされている。距離を置いて生活していた二つの家族は、徐々に親しくなっていき、パーティーをするようになる。ミンジと隣りの男子学生は、同じ学校に通っていることで親しくなり、ミョンシクも隣りの祖母と親しくなっていく。お互いの家を行き来する中、隣りの家でパーティーに招待され、スンヘは珍しく酔っ払っており、北朝鮮の話題になったとき、擬似家族は北目線で話すことから、隣りの家族たちから親北派な家族だと云われてしまう。帰宅した擬似家族は、他のスパイグループに盗聴されているのを知らず、北朝鮮のマイナス的な発言をしたことを上層部に知られてしまう。小さな町工場を一人だけで働くスパイグループのボスは、スンヘたち擬似家族に指示を出し、そして北にいる本当の家族の様子を教えてもらう。擬似家族の四人は、北に本当の家族がおり、工作活動の失敗や民主主義にかぶれたものは、北にいる家族が罰せられる。北の命令によって四人のスパイは工作活動をしていく中、擬似家族なのに感情的な絆が生まれ、お互いのミスをカバーするようになっていく。そして、スンヘの大きな決断によって行動した四人のスパイは、致命的なミスを犯してしまう。懲罰として北の命令は、隣りの四人家族を殺害することであった。果たして、擬似家族を演じる四人のスパイグループはどのような行動をとり、家族とは何かと追求していくお話。
監督は、本作が長編作品デビューのイ・ジュヒョン監督。
出演は、北のスパイで擬似家族の妻スンヘを演じるのは『コン・ピルドゥ』『リターン』のキム・ユミ、北のスパイで擬似家族の夫ジェホンを演じるのは『願い』『人類滅亡報告書』のチョン・ウ、北のスパイで擬似家族の祖父ミョンシクを演じるのは『パーフェクト・ゲーム』『パパ』のソン・ビョンホ、北のスパイで擬似家族の娘ミンジを演じるのは本作スクリンデビューのパク・ソヨン。
南北問題を掲げてシリアスなテーマを絶妙なユーモアを交えており、北と南の家族を設定しながら、家族とは何かを人間の心理から追求していく流れになっている。
序盤は、隣りの韓国家族の騒動を皮肉りながら、北朝鮮擬似家族は会話をしており、共産主義との違いをみせている。スンヘがリーダーで上官となっており、位の低い三人に命令口調で指示を出し、上下関係をみせている。隣りの夫婦は、いつも喧嘩ばかりして、金使いの激しい妻が金貸し屋に脅されていた。厳しい取立てをする金貸し屋に対して、助太刀に入ったのが北朝鮮擬似家族の四人であった。暴力で仕掛ける金貸し屋だが、圧倒的な強さをみせる四人にやられてしまい、高額な利子を減らして返済できる額にしてもらう。それがひとつのきっかけとなって、二つの家族は交友が深まるようになっていく。
隣りの男子学生はミンジに惚れており、隣りの祖母はミョンシクに求愛することで複雑になっていく。北朝鮮擬似家族の家の中には、金日成、金正日、金正恩の肖像画が飾られているのだ。そんな状態で、隣りの韓国家族が訪問してきたとき、慌てて三つの肖像画を外して隠す姿は笑えてしまう。しっかりとタイミングよくユーモアを入れることによって、緊張感を和らげる効果をみせている。
中盤あたりで、北朝鮮擬似家族の素性がみえてくるのだ。スンヘの本当の家族は、夫も南にスパイとして工作活動していたが死亡してしまい、北に子供を残している。ジェホンの本当の家族は、妻がいることで、いつも心配している。ミョンシクの本当の家族は、子供や孫もおり、数十年もこの仕事をしていることで北にいる家族と会えない。ミンジの本当の家族は、北にいる親のことを考えている。北からの指令で、脱北者家族の三人を暗殺する命令が下り、赤ちゃんまで含まれている。赤ちゃんを殺害することができなかったスンヘは、ミンジが実行し、いつも威張っているスンヘに対して抗議をしだすのだ。スンヘは自分の子供を想い出し、決断できずにいたのだ。結果的には、北からの指令を成功させており、次なる指令の前に嫌な情報をスンヘが知る。ジェホンの妻が北から亡命したことだった。ジェホンをフォローしようと考えたスンヘは、指令が下されるまえに、ある家族を殺害して先走ってしまう。擬似家族で上下関係もあって仕事として行っていたが、それぞれに絆が生まれており、お互いを助けようとしていく。体調が悪いミョンシクは、病院で診察を受けるとガンであることが分かり、痛み止めの錠剤の薬を飲んでいる。ミョンシクの病状に気づくジェホンは、何時しか気遣うようになっている。
スパイグループのボスからの指令で、隣りの韓国家族を殺害することを四人の擬似家族スパイグループに下されるのだ。それができないのであれば、自分たちの命や北にいる家族に制裁が下されるのである。男たちだけのスパイグループが見張りをしており、動きを監視しているのだ。北朝鮮擬似家族と隣りの韓国家族は、泊まりでキャンプをすることにして、海岸沿いでテントを張って、殺害のチャンスをみている。だが、そこで「家族」とは何かという根本的な問いにぶち当たるのである。
北朝鮮擬似家族と韓国家族、二つの家族に違いがあり、どちらが正しいかという事を問われているのではない。二つの家族を描きながら、本当の家族とは何かというのを北のスパイたちの心を揺さぶるのだ。北朝鮮擬似家族を演じていた四人にも、北に本当の家族が存在しており、彼らを監視する北のスパイグループにも、それぞれ北に家族がいるのだ。
家族と理念の間で葛藤する過程で繰り広げられる様々な出来事に、観る側も考えさせられ、心の奥を突かれたような気分であった。最後までドラマがあるので、気の抜けない作りになっているのだ。
キム・ギドクの製作と脚本、長編デビューのイ・ジュヒョン監督、この組み合わせによって、キム・ギドク世界を上手に料理して出来た作品である。『豊山犬』もキム・ギドクの脚本で、違う監督が撮っており、これはキム・ギドク色がよく出ている。
ティーチ・インで、キム・ギドクの発言に観客は唖然としていた。「この中に朝鮮総連の方か、共和国の方はいますか?」館内は一瞬凍りついてしまった。その場にいても手を挙げにくいと、キム・ギドクが自身でつっこんでいた。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★★