ドント・クライ・マミー
制作年:2012年
監督:キム・ヨンハン
出演:ユソン、ナム・ボラ、トンホ、ユ・オソン
ジャンル:ヒューマンドラマ、スリラー
母ユリム(ユソン)は、夫(チェ・デチョル)と離婚することになり、娘の養育費だけは送れと捨て台詞を云い、高校生になった娘ウナ(ナム・ボラ)と共に新しい人生を歩み始めようとする。女子高校生ウナは、同級生のスミン(チョン・ソヤン)と仲良くなり、母ユリムにも紹介して一緒に料理することを話していた。ウナは、チェロのケースを持ち歩いており、授業でチェロを演奏する機会があり、同級生たちに披露する。ウナは、同級生の男子高校生ユン・チョハン(トンホ)が気になり、二人っきりで会話をして、気分良くなっていた。ウナは、チョハンとメールのやり取りをして、ある場所で会う約束をする。そこに着いたウナは、チョハンだけと思いきや彼の友人のパク・チュン(クォン・ヒョンサン)とハン・ミング(イ・サンミン)がおり、彼らにレイプされて、傷だらけの状態で病院に運ばれた。直ぐに病院へ駆けつけた母ユリムは、医師から病状の説明を受け、警察署でオ刑事(ユ・オソン)が担当となり母ユリムに説明をする。オ刑事は、娘のスミンとピザ屋で外食し、スミンがウナのことを聞いてもあまり教えてくれず、スミンは学校に恐怖を感じて留学の話しを持ちかけたが却下される。入院中のウナは、婦警が傷跡を写真に撮って、後に裁判で争う。裁判は、未成年者で少年法があり更生を前提にして加害者側が有利な形のため、パク・チュンの体液が残っていた証拠からレイプしたことで執行猶予二年、ユン・チョハンとハン・ミングはその場にいた証拠がないことで証拠不十分で無罪という理不尽な判決に母ユリムが怒りを感じる。肉体的にも精神的にもボロボロなウナは、自宅のベッドで寝込んでおり、そんなとき彼らからメールがきて、レイプのときハメ撮りをしていたことから、動画を返して欲しくて指定された場所にチェロを背負って目的地に向かう。ウナは反撃を試みるが、彼らにボコボコに殴られ、状況は更に酷くなって帰宅する。絶望したウナは、自宅の浴槽で手首を切って自殺をし、病院に運ばれたが蘇生できずに亡くなる。葬式には、母ユリムと別れた元夫とスヨンを含む五人の同級生たちとオ刑事が集まって、出棺から火葬まで行って見送る。母ユリムは、一人っきりの自宅に戻り、ウナの携帯電話をみていたら、彼らとのメールやハメ撮り動画や新たな卑猥な動画が残っているのをみつける。母ユリムは、加害者たちに復讐することを決心し、実行していくお話。
監督は、本作デビュー作のキム・ヨンハン監督。
出演は、母ユリムを演じるのは『ホームランが聞こえた夏 (原題:グローブ)』『GABI ガビ -国境の愛- (原題:珈琲(カビ))』のユソン、ユリムの娘ウナを演じるのは『サニー 永遠の仲間たち (原題:サニー)』『凍える牙 (原題:ハウリング)』のナム・ボラ、男子高校生ユン・チョハンを演じるのは『マイ・ブラック・ミニドレス』のトンホ、オ刑事を演じるのは『ダブル捜査線 (原題:ありがたい殺人者)』『チャンプ』のユ・オソン、パク・チュンを演じるのは『コ死 2番目の話:教育実習』『月の光をくみ上げる』のクォン・ヒョンサン、ハン・ミングを演じるのは本作スクリンデビューのイ・サンミン、オ刑事の娘で女子高校生スミンを演じるのは本作スクリンデビューのチョン・ソヤン、チウクを演じるのは本作スクリンデビューのソン・ウン、元夫を演じるのは本作スクリンデビューのチェ・デチョル、アン・ヘスを演じるのは『ロマンス・ジョー』『コードネーム:ジャッカル (原題:ジャッカルが来る)』のシン・ドンミ。
社会にメッセージ性を込めたものになっており、年々増加する未成年加害者の性犯罪、未成年加害者を罰する法体系、少年法による壁、性犯罪においての罪の軽さ、といった現実と法に大きな壁があることを提示している。実際に起こった未成年加害者の性犯罪事件をエンディングロール前に字幕で流れ、とんでもないことが起こっているのに、加害者に対する刑罰があまりに軽すぎて誰でもおかしいと感じるであろう。
この作品には、二つの要素を備えており、ひとつはレイプされるウナによって社会の盲点が浮き彫りになり被害者が一方的不利な状況でウナと接点がある母ユリムや親友スミンやオ刑事の心情をみせている。もうひとつは、法が不備なら自らの手で裁くことを決意する母ユリムが加害者三人を殺害していくスリラー要素をみせている。
かなり早い段階でウナのレイプ事件が起こり、ボロボロの被害者ウナを母ユリムが支える姿をみせている。オ刑事がこの事件の担当をし、未成年者の犯罪について嫌な経験ばかりしてきたことで、法の不備に憤りを感じているのがみえる。オ刑事は、娘スミンの親友が被害者だと知ることで、娘ウナと母ユリムを心配するのだ。未成年者の犯罪において、あまりにも罪が軽いことを知っているから、裁判所でも母ユリムの隣に座って動揺する彼女を落ち着かせようとするのだ。女子高校生の子供を持つ母ユリムとオ刑事は、親として共鳴できるところをみせており、終盤でその想いが複雑にさせるシーンは印象的である。娘スミンがオ刑事に留学の話しをしたのは大きな理由があって、それは終盤にオ刑事がその理由を知り、オ刑事もある意味で衝撃を受けるのである。
母ユリムが加害者をひとりずつ復讐のため、殺害していくのを直接的な映像によって表現している。殴り合いの喧嘩なんかしない風貌の母ユリムが、体だけは大人顔負けの加害者に向かっていくのである。始めに失敗するシーンを入れているあたりは、素人で殺しなんて簡単にできないことをみせているのであろう。一対一での戦いで、母ユリムもかなりやられているが最終的には仕留めるのだ。証拠隠滅といった完全犯罪を目的としておらず、とにかく復讐のために加害者たちを殺すことにこだわっているから、警察の捜査で簡単に誰が犯人か直ぐにわかるのだ。警察が亡くなった者の遺留品からレイプ事件の証拠品を発見するが、これを証拠に裁判させようとするオ刑事、今更それを証拠に裁判しても執行猶予がつく軽い刑なのを知っている母ユリム。
アイテムを用意することで、母ユリムの感情を大きく刺激している。冒頭で離婚調停のときにつけたスカーフを凶器のナイフを包む道具として使用したり、ウナが母ユリムのために手作りケーキを作って冷蔵庫にしまってあるのを発見したときの母ユリムの感情の高ぶり、ケーキの表面に書かれた「Don't Cry Mommy」の文字、序盤でウナが美しい音色を奏でるチェロであったが、彼らの手によって歪んだ音色に変化してしまい、それがウナの感情であるのを示している。
韓国で、未成年者が未成年者を犯すまで進んでおり、エンディング前の字幕で実際に起こった事件とそれに対する軽い刑罰を説明し、この危機を問題定義しているのだ。男子高校生が一年間女子中学生をレイプして44人の共犯者のうち3人だけ服役で他は警告だけ、16人の男子高校生が知的障害者の女子中学生を一カ月間レイプするが加害者への刑罰がない、6人の男子中学生が同級生の女子中学生をレイプしてネットのオンラインにアップする犯罪でも10日間の停学、2人の男子高校生が女子高校生をアルコールで酔わせてレイプして執行猶予四年、男子中学生が酒を呑んだ後に妹をレイプ。2011年で2765件起きており、年々増加している。成人に対しては、アジアで韓国だけが化学的去勢を実施したり、性犯罪者の個人情報を公開したり、いろいろと法律を作って対処しようとしているが、未成年者への対応が追いついていないのが現状らしい。
未成年者の刑罰をみると本作品で登場する母の気持ちも分かるような気もする。娘を自殺に追い込むまでして、加害者はのうのうと何もなかったかのようにシャバで生活している姿をみて、被害者家族は我慢できるであろうか。個人的な意見として、少年法をなくして大人と同じように裁くのが一番だろう。それは『未熟な犯罪者 (原題:犯罪少年)』のレビューでも記述したから、繰り返して書かない。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★