今週末から少しの間、SSFF(Short Shorts Film Festival)に行きっきりになるので、アジアンクィア映画祭で観た作品のレビューを早めに書いてアップした。アジアンクィア映画祭のクロージング(韓国映画三本)を鑑賞するが、レビューのアップは直ぐにできない状況になるだろう。
マネキンと手錠 (原題:恥ずかしい)
制作年:2011年
監督:キム・スヒョン
出演:キム・ヒョジン、キム・コッピ、キム・サンヒョン
ジャンル:ラブストーリー、ヒューマンドラマ
鑑賞:第4回アジアンクィア映画祭
美大教授チョン・ジウ(キム・サンヒョン)は、教え子の美大生ヒジン(ソ・ヒョンジン)と意見が衝突をする。そのときヒジンが描いた幾つかのスケッチが床に散らばり、ピアスをしているモデルの女性ユン・ジウ(キム・ヒョジン)のスケッチをみて、チョン教授の目がとまる。ユンとヒジンは、偶然道端で知り合って仲良くなった間柄で、一緒にお酒を呑んで交流を深めた仲である。チョン教授は、教え子ヒジンにユンを紹介してもらい、ユンをモデルに抜擢し、あるイメージが湧き出る。後日、チョン教授は、教え子ヒジンとモデルのユン、複数の男性スタッフを連れて海へ向かう。海についたけど天候が悪いことで、船を出すことができず、天候が戻るまでユンが過去の恋愛話しをヒジンとチョン教授に語る。二年前、百貨店で接客業をしていたユンは、忙しい日々を過ごしていた。ユンは、自分と同じ衣装を着たマネキンを百貨店の屋上に運び、マネキンを屋上から落とした。そのとき、スリ仲間の男性二人とカン・ジウ(キム・コッピ)は、現行犯で警察から追われて逃走中であった。三人が乗った車に、百貨店の屋上から落ちてきたマネキンが衝突して、スリグループ三人とユンは警察に逮捕され、カンの左手とユンの右手に手錠をかけてパトカーに乗る。空腹である三人は、刑事(チェ・ミニョン)が知り合いの中華料理屋に二人を連れていき、食事をして、更に刑事と店主がお酒をいっぱい呑んで酔っ払ったところをみて、ユンとカンは手錠をつけたまま逃亡した。カンの友人の家に行って泊めてもらい、ユンとカンは手錠でつながれたまま一緒に歯を磨き、同じベッドで眠りにつく。やがて、二人はカンの知り合いが僧侶(キム・ジュンギ)をしているお寺に辿り着く。そこでユンとカンの感情が揺さぶられ、女同士の恋愛へと発展していくお話。
監督は、『かわいい』のキム・スヒョン監督。
出演は、ユン・ジウを演じるのは『オガムド』『石ころの夢』のキム・ヒョジン、カン・ジウを演じるのは『殺しに行きます』『マジック&ロス (原題:香りの喪失)』のキム・コッピ、美大教授チョン・ジウを演じるのは『チ・ジニ×ムン・ソリ 女教授 (原題:女教授の隠密な魅力)』『今、このままがいい』のキム・サンヒョン、美大生ヒジンを演じるのは『愛なんていらない』『妖術』のソ・ヒョンジン、刑事を演じるのは本作スクリンデビューのチェ・ミニョン、コック長を演じるのは『待ちくたびれて (原題:待つのが狂おしい)』のウ・スンミン、僧侶を演じるのは『10億』『イテウォン殺人事件』のキム・ジュンギ。
時間の配列がバラバラに構成されており、現在、過去、過去の過去、そしてユンの想念も含まれることで複雑化している。前触れのない切り替えになっていることで、シーン毎にどの時間軸を映しているのかを考えながらみていく必要があるだろう。
現在軸では、ユン、ヒジン、チョン教授の三人が芸術作品を制作するため海に行き、そこで天候が回復するまで、ユンが二年前に経験した恋愛を語っていくのである。過去軸では、ユンとカンの出会いから恋愛にたどりつき、その後の二人の感情をみせている。過去軸にもヒジンやチョン教授も登場しており、ユンやカンと接点がある。基本は、現在軸と過去軸が柱になって進行しており、そこに過去の過去が入り込む形になっている。
ユンは、ヒジンとチョン教授に愛に対して「利他主義」と「利己主義」について説明していくのである。カンとの同性愛は利他主義であったことを分析しており、冷静になった現在だからそのようなことが思考できるのだろう。
ユンとカンは、偶発的に起こった事故によって出会い、刑事に逮捕され輸送中に逃亡し、カンの知り合いのところに行って、二人の逃亡生活のような形をみせている。出会ったときは、お互いレズビアンではないと思われる。バイセクシャルという表現になるのかもしれないが、境界線が見え難い。カンはユンと手錠でつながれている状態で、カンと男が性行為をするのだ。ユンは過去に男性と交際して性行為を行おうとしたときに、開かないという表現をしている。病院で診察した結果、医師から潔癖であるからというとんでもない答えが返ってきて、逆に笑いながらカンに話しているのだ。内心では、男性との関係に諦めを抱いているユンの感情が薄々みえるのである。
二人がお寺で雷を見ることによって、神秘的な体験を共有することから、二人の愛が強く動き出す演出をしている。手錠で繋がれている二人はキスをして、その夜はそのまま過ぎ、翌朝になるとユンは手錠がはずされているのに気づくのである。その手錠は僧侶とカンの足に繋げて遊んでおり、それをみてユンが去っていくのである。その後、ユンが新たな生活をしだした時、カンが現れて、二人の愛は深まっていく展開になっている。
手錠というアイテムが色々な意味を持って効果的に活用している。左利きのユン、右利きのカン、という利き手が自由に使える状態になっているところも何らかの意図があるだろう。それよりも手錠は、二人にとって心の繋がりを意味しているように感じとれるのだ。一緒に逮捕されてから手錠をつけられ、逃亡してからも常に隣におり、物理的な距離だけでなく、心の距離も近くなっており、気持ちを共有する仲になっているのがみられる。お寺で手錠がはずれ、僧侶とカンが手錠で遊んでいる姿をみて、ユンはある感情を抱いて去ったのも何となく理解できる。逆の視点として、カンがわざと僧侶に手錠をかけることにより、カンがユンとは違う感情表現を持ち、ユンへのアピールする意味ともとれる。複数の解釈が考えられることで、観る側が判断しながら、二人の愛の進展を楽しめるようになっている。
ユンの想念として宙に浮く映像をみせている。冒頭で自分に似せたマネキンを屋上から落とすところで、自らも落下しながら飛んでいる想像シーンをみせている。そして現実の描写としては、チョン教授の映像作品を撮影するため、軽装姿でユンが海に潜り、海の底に落下していく姿を捉えたシーンをみせている。心の中のイメージと現実で体験したものを重ね合わせている。
結果的には、女性の同性愛を描いているのであるが、その愛が二人にとってどのようなものなのかを終盤あたりにみせている。現在軸と過去軸を同時進行でみせていることから、ユンが失恋したのが始めからわかっており、何故そうなったのかを考えながら観ることができる。難しいテーマを扱っていることで、どこまで自分が解釈できているのかわからない。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★