日本版DVDでは、「長官」を「大臣」と訳していたので、レビューでも「大臣」という言葉を使用することにした。
ハートに一発! (原題:決定的な一発)
制作年:2011年
監督:パク・チュング
出演:ユ・ドングン、ユン・ジンソ、キム・ジョンフン
ジャンル:コメディ、ヒューマンドラマ
鑑賞:日本版DVD
若い頃、警察に逮捕されて妻や息子に迷惑をかけた過去を持つイ・ハングク大臣(ユ・ドングン)。清廉潔白な政治家で、国民が納める税金を大切に思い、国民のために働く。イ・ハングク大臣には、30年共に苦労してきた妻スンヨン(チャ・ファヨン)、インディーズのヒップホップ歌手をしている息子スヒョン(キム・ジョンフン)と生活している。ハングク大臣の側近には、パク・ハヨン補佐官(ユン・ジンソ)がついて、大臣を常にサポートしており、キム秘書(パク・チュンソン)やイ秘書(チェ・ヒョヌク)らと一緒に政治活動をしている。ハヨン補佐官は、公務員であり定時に帰ってしまい、残りの仕事を秘書たちが行い、自分はクラブで踊り酒を呑む。スヒョンは、ダニーという芸名で歌手活動をしてそれなりにファンもついており、ライブをみていたカンPDからあるイベントに参加して歌って欲しいという依頼を受ける。芸能事務所に所属してアイドル歌手の練習生をしているジナ(キム・ボルム)と親しくしているスヒョンは、二人の関係をジナの芸能事務所社長に知られてしまい、トラブルが発生してしまう。政界では、汚職ばかりしている国会議員キム・グンソク(オ・グァンノク)が、イ・ハングクが大臣になったことが気に入らず裏で汚いことばかりしている。気さくで熱心な大臣のドタバタした政治活動の中で起こる笑いを交えながら、父親としての姿をみせて父と息子の間に生じている問題を解いていくお話。
監督は、本作デビュー作のパク・チュング監督。
出演は、イ・ハングク大臣を演じるのは『君に捧げる初恋 (原題:初恋死守決起大会)』『オッケドンム』のユ・ドングン、大臣の補佐官パク・ハヨンを演じるのは『イリ』『秘密愛』のユン・ジンソ、大臣の息子イ・スヒョンを演じるのは『ジョンフン in ふざけるな (原題:ふざけるな)』『カフェ・ソウル』のキム・ジョンフン、国会議員キム・グンソクを演じるのは『ただ君だけ』『カウントダウン』のオ・グァンノク、大臣の妻スンヨンを演じるのは『白夜行 - 白い闇の中を歩く』のチャ・ファヨン、アイドル歌手の練習生ジナを演じるのは本作スクリンデビューのキム・ボルム、大臣のキム秘書を演じるのは『味噌』『ブラインド』のパク・チュンソン。
イ・ハングク大臣が主人公になることで、政治風刺コメディの要素をみせながら、妻や息子といった家族の物語を絡めた人間ドラマをみせている。
イ・ハングク大臣が政治家になるまでの過去を徐々にみせることで、現在までの韓国政治の闇を回想シーンでみせている。若い頃、妻とすでに結婚していながら、民主化運動に参加をして警察に何度か逮捕され拷問を受けた過去を持ち、志を持って政治家になったところがみえてくる。国民生活をよくしようと、田舎の村を視察して舗装されていない危険な道路を毎日通学する小学生をみて、早急に改善策をうつが縦割りな行政システムによってその行為がマイナスな評価にみられてしまう。税金を多く払っている村を優先している仕組みに腹を立てていたり、末端の国民生活と行政との間にギャップがあることを肌で感じていくのである。
大臣と共に政治活動をしているのがハヨン補佐官であり、常に行動を一緒にして相手との間に入る役割をしている。仕事はきちんとこなすが、残業を嫌がり定時で帰ってしまい、残業する秘書たちからみれば羨ましく思ってみえる。酒癖が悪く、大臣の家で秘書たちと一緒にお酒を呑み、記憶を失くすほど酔っ払って暴言をはいてしまうドジな一面があり、憎めない人でもある。ハヨン補佐官は、酔って寝込んでしまい大臣の家に泊まり、そこで大臣の息子が歌手のダニーと知り、驚くのである。大臣と息子の関係は上手くいっておらず、失礼ながらもハヨン補佐官は本音を云ってしまったりとストレートな性格をみせている。その人格ギャップをみせることで笑いを誘っている。
学生時代から「大臣の息子」という肩書きが嫌だったスヒョンは、今でも引きずっている。大臣の息子ということだけで、周囲の大人たちは自分を特別扱いしているのがみえてしまい、それがストレスになっているのだ。自らの実力でヒップホップ歌手で成功してきたが、ジナとのスキャンダルを目撃した芸能事務所社長が揺さぶりをかけてくるのである。芸能事務所社長が多くの罠をしかけてスヒョンを妨害していき、スヒョンはその罠に引っかかってしまい、実は裏に大きな仕掛けがあるのが終盤にみえてくるのだ。そのようなことがあって、徐々に父と息子の関係が理解しあえるような展開をみせて人間ドラマの要素を取り入れている。
スヒョンがヒップホップを歌っているシーンが結構あるから、スヒョンを演じる歌手キム・ジョンフンが好きな人にとっては嬉しい作品かもしれない。歌手スヒョンがいることで芸能界の姿をみせ、相手の弱みを武器に契約させようとしたり、アイドル歌手育成の事務所方針、歌手への曲提供に事務所が口出ししてきたり、終いには性接待であったり、と華やかな面だけでなく汚い面を同時にみせている。
政治コメディとしては笑うようなシーンを入れているが面白くて笑うというのがなかったのが本音である。大臣の政治活動の中でのコメディ要素や大臣の周囲の人たちのコメディ要素などを映し出しているが、政治的な面でも人間模様でも笑いが薄く感じてしまった。大臣の妻や息子が絡んだヒューマンドラマ要素の方が目立ってみえた。始めからキム・グンソク議員のあくどい様相がみえ、中盤に様々な出来事が起こり、その後どのように収束していくのかは予想できるであろう。もう少し政治色を強く入れた方が面白くなるのにと感じられた。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★