痛み
制作年:2011年
監督:クァク・キョンテク
出演:クォン・サンウ、チョン・リョウォン、マ・ドンソク
ジャンル:ラブストーリー
鑑賞:日本版DVD
ナムスン(クォン・サンウ)は、幼い頃に交通事故で両親と姉を亡くし、事故の後遺症で無痛覚症になってしまう。ナムスンの場合は、先天的なものではなく、心的外傷によって起こり、この症状は痛覚や味覚や皮膚感覚がない。学生時代に生徒を殴って少年院に送られたナムスンは、そこでボンノ(マ・ドンソク)と出会い、今では一緒に借金取り屋をして、毎日を無気力に生きている。ある日、ナムスンは取り立て先でアパートの屋上に住む女性ドンヒョン(チョン・リョウォン)と出会う。ドンヒョンは、死んだ父親の借金返済に苦しみながら、露天商をして生活している。ドンヒョンは、ナムスンが自分を痛めつけて血だらけになっても、全く怖がりもしない。ドンヒョンは、ナムスンの策略によって、大家から追い出されることになり、ホームレスになってしまう。ナムスンは、ドンヒョンがいつも攻撃的な態度で喰ってかかるので不思議に感じだす。またドンヒョンも、いつも傷だらけのナムスンの姿をみて痛々しい思いでみつめる。ナムスンは、住むところがなく困っているドンヒョンを自分の家に連れてくる。ナムスンの家は一軒家で、家族との思い出が詰まったままになっており、注意事項だけ説明してドンヒョンを住ませる。たまたま、ドンヒョンは家にあったナムスンのカルテをみて、ナムスンが無痛覚症であることを知る。ある日、ナムスンはドンヒョンから自身が血友病であることを知らされる。血友病は、わずかな痛みや出血が致命傷になる病気で、ドンヒョンは病院で治療することを拒み、凝固剤を自分で注射している。痛みに対して対照的な二人は、相手の痛みを知ることで不器用な愛を育んでいくお話。
監督は、『愛 サラン (原題:愛)』『目には目、歯には歯』のクァク・キョンテク監督。
出演は、借金取り屋のナムスンを演じるのは『悲しみよりもっと悲しい物語』『戦火の中へ (原題:砲火の中へ)』のクォン・サンウ、露天商をするドンヒョンを演じるのは『彼とわたしの漂流日記 (原題:キム氏漂流記)』『敵との初恋 (原題:敵との同床)』のチョン・リョウォン、借金取り屋のボンノを演じるのは『記憶の中の僕たちへ (原題:私たち会ったことありますか)』『クイック』のマ・ドンソク、ボンノの妻ゲジョンを演じるのは『クイズ王』『ハローゴースト』のチャン・ヨンナム、借金取り屋のヨンベを演じるのは『超能力者』『ホームランが聞こえた夏 (原題:グローブ)』のクム・ドンヒョン、借金取り屋の会長ミョン・ソンチョルを演じるのは本作スクリンデビューのキム・ギュヨル、ドンヒョンの隣の露店商人ジソンを演じるのは『生き残るための3つの取引 (原題:不当取引)』『マイ・ブラック・ミニドレス』のイ・ミド、会長の甥を演じるのは本作スクリンデビューのソン・ポングン。
ナムスンとドンヒョンがお互いに難病を抱え、両極端な痛みを持つことでお互いの心が惹かれあっていく。ソウルが旧市街地で強制立ち退きをしている時代を設定しており、立ち退き反対派組織と暴力団組織のテイストをいれながら、暴力団組織の内部抗争でボンノが巻き込まれていくのである。
無痛覚症になってそれをネタに仕事をして、家族を失い生きる希望を失っているナムスン。20代を過ぎると生存率が一割以下の血友病患者ドンヒョンは、強気で明るい性格で前向きなところが、ナムスンの心を刺激していくのがみえてくる。難病系ラブストーリーではあるが、悲しみを表現するアイデアでなく、二人の感情を繋ぎ、「痛み」が別の意味の「痛み」へと変化させたのだ。ドンヒョンと出会ってナムスンが生きることの目的をみつけだし、新たな生き方を模索していくのである。
借金取り屋の内部で大きな動きがあり、カギになる人物が、ボンノなのだ。ボンノは、借金取り屋の会長(キム・ギュヨル)に雇われており、会長の甥(ソン・ポングン)と喧嘩したり、ボンノの妻ゲジョン(チャン・ヨンナム)が借金していたりと、追い込まれた状況になるのだ。暴力団組織の作りは、クァク・キョンテク監督らしい定番な展開になっており、主役の二人と同じぐらい重要な役割を担っているのがボンノなのだ。
登場人物の設定は、底辺層の人たちになっており、現実に生きる人たちを泥臭くみせている。ナムスン、ドンヒョン、ボンノといった人たちの生活をみるとそう感じるであろう。さらにソウル再開発をめぐる住民立ち退きの問題を絡め、住民たちと暴力団組織との抗争も激しくみせている。ラブストーリーでありながら、社会的な側面を絡めた作品に仕上がっている。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★