凍える牙 (原題:ハウリング)
制作年:2012年
監督:ユ・ハ
出演:ソン・ガンホ、イ・ナヨン、シン・ジョングン、イ・ソンミン
ジャンル:サスペンス
深夜の駐車場で、車を停めていた男性が、突然下半身から炎が吹き出し、車が炎上して男性は黒焦げになって亡くなった。ソウルの麻浦署の刑事たちは、現場検証を行い、ソ班長(シン・ジョングン)は、万年昇進を逃しているベテランのサンギル刑事(ソン・ガンホ)と新米女性のウニョン刑事(イ・ナヨン)に担当させた。サンギル刑事は、嫌々ながらウニョン刑事とコンビを組むことになる。ソ班長含む多くの刑事たちは、自殺と思って二人に担当させたが、実際調べていくと奇妙な点がみえてくる。サンギル刑事とウニョン刑事は、遺体がある検視官のところで情報を聞き、遺体の尿からハバという新種ドラックの薬物反応が検出され、大腿部に大きな犬に噛まれた傷跡を発見する。被害者は、焼死体で黒焦げになり、身元不明で、指紋も検出されなかった。二人は科捜研からの情報で、ベルト内部に小型時限爆弾が仕込まれていたことがわかり、自殺でなく殺人であることがわかる。この情報を上司や同僚に報告することをせず、サンギル刑事は自ら手柄を立てて昇進しようと試みている。ウニョン刑事は、何度もサンギル刑事へ上司たちに報告することを話すが聞く耳を持たない。新種ドラックの線から被害者の身元を追うことにしたサンギル刑事とウニョン刑事は、売人を捕まえるために張り込みをして、売人を捕まえて新種ドラックの元締めの男が焼死体の被害者とわかり、被害者の家に向かう。二人は、被害者の家を調べると隠し部屋があることに気づき、そこは売春を行う部屋で、未成年者の少女たちのリストがあり、未成年者の売春ビジネスをしていたことが判明する。二人は科捜研から呼ばれ、携帯電話のメモリーを復元すると、売春現場の隠し撮りの動画があり、売春している男の背中に刺青があることがわかる。そんなとき、ナム・サンフンという男が、帰宅途中で犬に首筋を噛まれて死亡した。ナム・サンフンは、違法薬物と未成年者売春の記録があり、彼も未成年者の売春ビジネスの一人であった。ナム・サンフンの私物から、四人が写っている写真を入手した。犬に噛まれて亡くなったナム・サンフン、車で焼死したオ・キョンイルとわかり、残り二人の身元を刑事たちは追う。ナムを殺害した犬は、狼と犬のハイブリッドである狼犬という珍しい犬の可能性が出てきて、未だにその犬は逃走している。手掛かりを追う毎に、連続殺人事件が発生していき、悲しい出来事が明らかになっていくお話。
監督は、『卑劣な街』『霜花店』のユ・ハ監督。
出演は、チョ・サンギル刑事を演じるのは『義兄弟』『青い塩』のソン・ガンホ、チャ・ウニョン刑事を演じるのは『悲夢』『パパは女の人が好き』のイ・ナヨン、ソ班長を演じるのは『平壌城』『敵との初恋 (原題:敵との同床)』のシン・ジョングン、ク・ヨンチョル刑事を演じるのは『生き残るための3つの取引 (原題:不当取引)』『逮捕王』のイ・ウニョン、キム・ギョンス刑事を演じるのは『ビースティ・ボーイズ』『霜花店』のイム・ヒョンソン、元警察犬トレーナーのカン・ミョンホを演じるのは『生き残るための3つの取引 (原題:不当取引)』『青い塩 』のチョ・ヨンジン、ミョンホの娘チョンアを演じるのは『悪魔を見た』『コ死 2番目の話:教育実習』のナム・ボラ、福祉財団会長のチェ・ダルギュンを演じるのは『チョン・ウチ 時空道士 (原題:田禹治)』『月の光をくみ上げる』のクォン・テウォン。
日本の乃南アサのベストセラー小説を原作にした作品。過去に日本で、この作品の単発テレビドラマが放送されており、共に女性刑事が主人公になっている。女性刑事と中年刑事がコンビを組むことで、アンバランスな二人が真相を追いながら、お互いが認め合い信頼関係が生まれてくるところは原作に似ている。
刑事の私生活の面をみせることで、人間ドラマの部分をみせている。サンギル刑事は、妻と別居しており、素行の悪い息子と聞き分けのよい娘がいる。母親が出て行ってしまったことで息子が荒れだし、この状況を悲しむ娘の姿をみせている。ウニョン刑事は、離婚しており、両親も亡くなっていることで家族がいないのである。唯一の家族が離婚した夫だったことで、寂しい気持ちを抑えているのだ。お互いの家庭環境をみせ、お互いがそのことを知ることで、お互いを理解しだしてくるのである。
サンギル刑事が昇進できず、後輩たちが昇進していく姿をみせている。同僚のヨンチョル刑事が昇進したことで、サンギル刑事は焦っているのがみえるのだ。そのことで、組織として序盤に捜査が進まないのが、明らかにみえるのだ。
非常に目立つ点として、男性中心の刑事という職場で、女性を蔑視しており、それを問題提起しているのである。サンギル刑事が、ウニョン刑事とコンビを組むときも、上司の命令で仕方なく組んだが、彼女のことを戦力としていないのだ。ソ班長やヨンチョル刑事も、ウニョン刑事に雑用を押し付けており、本来の業務が止まってしまうのだ。ヨンチョル刑事は、サンギル刑事が女刑事とコンビを組んでいることでからかうのである。はじめのうちは、サンギル刑事がデートをしていたと冗談交じりに答えていたが、中盤あたりからウニョン刑事を認めだすと態度が変化し、ウニョン刑事を擁護するようになり、サンギル刑事とヨンチョル刑事が取っ組み合いの喧嘩までしだすのだ。
事件は、幾つかの層になっており、それを解くことで次の展開がみえてくるようになっている。四人が写っている写真は、未成年者の売春ビジネスをしていたメンバーで、焼死したオ・キョンイル、狼犬に咬殺されたナム・サンフン、新しい彼氏と事業している女ソン・ミンジョン、闘犬場に出入りするミン・テシクである。ソン・ミンジョンは、ウニョン刑事の目の前で狼犬に咬殺され、ミン・テシクは囮捜査によって警察が逮捕する。野放しにされている狼犬を追う方向に視点が向けられ、よく飼い慣らされた殺人犬の狼犬を育てた人物をウニョン刑事は探っていくのである。そこには悲しい真実が潜んでおり、狼犬が何故特定の人物だけを殺していたのがみえてくるのである。狼犬は、ある復讐のために動いており、まだ仕留めていないターゲットに向かっていくのである。
狼犬の描き方は、なかなかよく出来ていたので、ストーリーを崩さずに進行していた。戦闘モードに入るときの目と穏やかなときの目が違っており、表情のつくりに圧倒される。狼犬がウニョン刑事を助けるところでみせる狼犬の目は、優しさに満ちているのだ。ターゲットに標準を合わせたときの狼犬の目は、光輝いて恐怖心を作り出すのだ。狼犬には、心があるのだ。単なる殺人犬ではなく、狼犬のストーリーも見所のひとつになっているのだ。
原作を知っていれば、日本で放送された単発テレビドラマで十分かもしれない。原作の内容もよく、映画用に多少脚色しており、そこそこ楽しめるような作品になっている。今年の九月に日本で一般上映されるので、興味があれば劇場に足を運んでみるのもありかも。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★