ヒマラヤ、風がとどまる所
制作年:2008年
監督:チョン・スイル
出演:チェ・ミンシク、チリン・キパル・グルン、テンジン・シェルパ
ジャンル:ヒューマンドラマ
中年男性チェ(チェ・ミンシク)は、会社を解雇され、弟が経営する工場を訪れる。弟の工場で働いていたネパール人男性ドルジが交通事故で亡くなり、葬式が行なわれていた。チェは、ドルジの遺灰と遺影をネパールにいる遺族に届けて欲しいと頼まれる。チェは、ガイドと一緒にネパールの奥地を歩き、雪が積もるヒマラヤを登っていく。チェは、登山中に高山病にかかってしまい、途中で出会った老人に馬を借り、馬の背中につかまりながらなんとかドルジの村に到着して遺族に会う。二日間寝たきりでようやく目覚めたチェは、ドルジの家族たちを見て、ドルジが死んだと言えなかった。チェは、ドルジの友人で旅行にきたと嘘をつき、ドルジに頼まれていたお金と土産を彼の家族に手渡す。チェは、ドルジのことを心配する妻ペマ(チリン・キパル・グルン)に、彼は元気にしていると云い、英語が少し話せるドルジの息子テンジン(テンジン・シェルパ)と遊ぶ。暫くヒマラヤにとどまるチェは、ドルジの家族たちと一緒に生活するお話。
監督は、『犬と狼の間の時間』『黒い土の少女』のチョン・スイル監督。
出演は、韓国人男性チェを演じるのは『親切なクムジャさん』『クライング・フィスト (原題:拳が泣く)』のチェ・ミンシク、ドルジの妻ペマを演じるのはチリン・キパル・グルン、ドルジの息子テンジンを演じるのはテンジン・シェルパ。
中年男性チェがドルジの死を伝えにきたはずが、それを言い出せずに彼の家族たちと少しの間だけ生活し、ヒマラヤの地で生活する村人をみせながら、チェ自身が自己をみつめていく。
全体の作りとして、台詞が少なく、片言の英語で会話をするチェと少年テンジン、現地語を話すドジルの家族たちや村人たちをみせ、壮大なヒマラヤの風景をみせながら人の行動から人の心を読み取っていく作風になっている。それと同時に現地の生活様式や風習をみせて、チェと同じ視点で物事を認識していくようになっている。
ヒマラヤで暮らすドルジの家族は、妻ペマ、息子テンジン、赤ちゃん、父、母、ブラザー・カルマがいる。水汲みをしたり、家畜の羊を世話したり、サッカーボールで遊んだり、歌を歌ったり、祈りを捧げたりと彼らの日常を映している。ヒマラヤでの日常は、原始的な生活でありながら、冷たい風や空気が薄い気候といった厳しい環境で行っていることで、大変な生活のようにみえる。チェという異人がこの地で暮らすことで、チェと同じような感覚になるようにさせてくれる。そして、ドルジの母が亡くなり、父が母を布で拭き、そして死者に対して儀式を行なうのであるが、不思議な風習のようにみえるのだ。彼らの死生観が中盤と終盤にみられることで、興味深いものになっている。
ドルジの家族とふれあうことで、チェも自分の家族が気になり、アメリカで生活している妻や子供に電話をするのである。韓国での生活に疲れていたチェが、ヒマラヤの地で忘れていたものを少しずつ取り戻していく姿もみせている。少年テンジンが、かつて僧侶から人間の業について教えられ、チェに説明するところがあり、この会話が大きな意味を成していることに気づくであろう。英語の会話では「カルマ」という表現をしており、仏の言葉の「業(ごう)」を意味しているのであろう。チェは、ドルジの死を彼の家族に伝えることが重くなっており、その影響で外で彷徨い寝込んでしまう一連の行動に繋がるのであろう。ある出来事によって、その心の重荷が外れ、チェの役目も終わりヒマラヤを後にしていくのである。台詞よりも力強い映像によって表現しているので、鑑賞者によっていろいろな解釈の仕方ができる作品になっている。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★