よいではないか
制作年:2007年
監督:チョン・ユンチョル
出演:チョン・ホジン、ムン・ヒギョン、キム・ヘス、ユ・アイン、ファン・ボラ、チョン・ユミ、イ・ギウ、イム・ヒョクピル、パク・ヘイル
ジャンル:コメディ、ヒューマンドラマ
鑑賞:韓国版VCD
シム家の父チャンス(チョン・ホジン)は、堅物の英語教師をしている。母ヒギョン(ムン・ヒギョン)は、カラオケ店で働く若い男性ジンソン(イ・ギウ)に夢中である。兄ミギョン(ユ・アイン)は、前世が王だったと信じており、近所に住んでいる女性ハウン(チョン・ユミ)に熱を上げている。妹ヨンソン(ファン・ボラ)は、家族の姿をネタにしてインターネットラジオを開設し放送しており、奇妙な教師キョンホ(パク・ヘイル)に夢中である。母ヒギョンの妹である叔母ミギョン(キム・ヘス)は、売れない小説家で最近恋人にふられてしまう。そんな五人が同じ家に暮らしている。ある朝、五人がテーブルで朝食をとっているとき、母ヒギョンが倒れてしまう。救急車で運ばれて入院することになった母ヒギョンは、前日の出来事が原因で膝の靭帯を損傷していた。妹ヨンソン、兄ミギョン、叔母ミギョンは、インターネットの動画サイトで驚くべき映像をみてしまう。父チャンスが女子高生と一緒にホテルで横たわっている映像が世界中に配信されていた。果たして、シム家の人たちはその後どのようになるのかというお話。
監督は、『マラソン』『3番目の視線』のチョン・ユンチョル監督。
出演は、父シム・チャンスを演じるのは『デイジー』『卑劣な街』のチョン・ホジン、母オ・ヒギョンを演じるのは本作スクリンデビューの舞台女優のムン・ヒギョン、叔母オ・ミギョンを演じるのは『タチャ イカサマ師 (原題:いかさま師)』『浮気するのにいい日』のキム・ヘス、兄ヨンテを演じるのは『俺たちの明日』のユ・アイン、妹ヨンソンを演じるのは『少女たちの遺言 (原題:女高怪談 二番目の話)』のファン・ボラ、ハウンを演じるのは『親知らず』『家族の誕生』のチョン・ユミ、ジンソンを演じるのは『サッド・ムービー』『愛を逃す』のイ・ギウ、ミギョンの男友達ソンシクを演じるのは『クレメンタイン』のイム・ヒョクピル、キョンホ先生を演じるのは『グエムル』『極楽島殺人事件』のパク・ヘイル。
同じ家に暮らしているシム家の五人が、お互いのことに無関心で、自分のことだけを考えている中、ある事件をきっかけにして、バラバラだった家族の心が団結していくのである。シム家の五人の行動や表情をコメディ要素によって引き出し、家族という集合体がどのようなものかをヒューマンドラマとしてみせている。
家族を主にすると感極まるような演出をして、互いに愛情をみせるといったものが浮かびがちだが、シム家の場合は各々にスキャンダルが起こっても、それを淡々と受けとめており、感情的にならないのである。父チャンスのインターネット上にアップされた援助交際疑惑、母ヒギョンの入院生活やコーヒー好きの若い男性ジンソンとの怪しい関係、兄ミギョンがいつも気にしている女性ハウンとの関係や出生秘話、妹ヨンソンが宇宙を語る臨時教師キョンホとの未知なる世界観、売れない小説家の叔母ミギョンが近所の男友達ソンシク(イム・ヒョクピル)をこき使いながらだらけた日常を過ごしている。
家の中にあるアイテムがとても効果的で、作品を大きく盛り上げている。蓋が壊れた炊飯器をいつも上手にご飯を炊いている母ヒギョンが入院することになり、叔母ミギョンが何も考えずに炊飯器を使ったら爆発して米まみれになったり、母ヒギョンが新品のコーヒーメーカーを買ってきてコーヒーについて語ってそれを冷めた眼差しで見つめる四人であったり、いつも空っぽの犬小屋がある伏線になっている。いつも庭がみえる部屋のテーブルで食事をする家族五人の姿が印象的にみせており、ここに大きな軸があるのだろう。
月の演出は、いろいろなメッセージ性を含んでいるようにみえる。カラオケ店から母ヒギョンがヨンソンを追いかけるシーンで満月の光が照らされていたり、ハウンの生理と月との関係であったり、ミギョンが催眠状態でみる前世の時代でみる月であったり、ヨンソンが終盤に走りながら満月をみていたり、キョンホ先生の部屋に飾られている映画のポスターや月の写真、主要人物たちのシーンに必ず月が入り込んでいるから、何を意図しているのかを考えながら観る必要がある。
生活臭が滲み出ている演出としては、家事のためラフ服装でいる母ヒギョン、いつもボサバサヘアーの叔母ミギョンが非常によく目立っている。父チャンスと母ヒギョンとの夫婦の夜をみせていることから、父の援助交際疑惑の真偽がどうなのかはこの夫婦にはわかっているのである。高校生の兄妹は、ほとんど制服を着ていることで見た目に変化はみえないが、二人が物事を捉える考え方が面白く演出されているのだ。
終盤にある出来事が起こることで五人の家族が団結し、その後の五人の姿もみせている。序盤と終盤に家族の集合写真を撮っているシーンをみると、基本軸は核家族の父・母・息子・娘の四人である。一緒に暮らしている叔母の存在を自然に扱っているところは絶妙なところであろう。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★★