ビー・デビル (原題:キム・ボンナム殺人事件の顛末)
制作年:2010年
監督:チャン・チョルス
出演:ソ・ヨンヒ、チ・ソンウォン
ジャンル:サスペンス
鑑賞:日本版DVD
ソウルの銀行に勤める独身女性ヘウォン(チ・ソンウォン)は、無茶な要求をして頼むお客に困り、犯罪の目撃証人として警察に呼ばれるが犯罪者に恫喝されたり、運悪く会社のトイレに閉じ込められ、若い同僚がやったと勘違いしてみんなが見ているところでその同僚を殴ってしまい停職になってしまう。都会での生活に疲れたヘウォンは、亡くなった祖父の故郷で幼い頃に過ごした無島を訪れる。九人の住民が暮らす孤島に到着したヘウォンは、いつも手紙を送ってくれていた幼馴染みのキム・ボンナム(ソ・ヨンヒ)と再会する。ヘウォンを歓迎するのはボンナムだけで、島民たちはヘウォンを邪魔者のように感じて冷たく応対する。ボンナムは、夫マンジョン(パク・チョンハク)、幼い娘ヨニ(イ・ジウン)、マンジョンの弟チョルジョン(ペ・ソンウの家族がいる。明るく振舞うボンナムであるが、昼間は畑で農作業をして、夜は男たちの性の捌け口になり、日常的に夫から暴力を受け、奴隷のように扱われている。ボンナムは、ある出来事を知って娘ヨニと一緒に島から脱出しようとするが失敗してしまう。その後、とんでもない悲劇がボンナムを襲い、恐ろしい出来事が起こるお話。
監督は、本作デビュー作のチャン・チョルス監督。
出演は、キム・ボンナムを演じるのは『宮女』『チェイサー (原題:追撃者)』のソ・ヨンヒ、ヘウォンを演じるのは『ハーモニー』のチ・ソンウォン、トンホを演じるのは『アジョシ (原題:おじさん)』のペク・スリョン、ボンナムの夫マンジョンを演じるのは『コン・ピルドゥ』『レストレス ~中天~ (原題:中天)』のパク・チョンハク、マンジョンの弟チョルジョンを演じるのは『ミスにんじん』のペ・ソンウ、船乗りトゥクスを演じるのは『モダンボーイ』『飛べ、ペンギン』のオ・ヨン、ポンナムの娘ヨニを演じるのは『春の日のクマは好きですか?』『アイスケーキ』の子役イ・ジウン。
平穏な小さな孤島で、肉体的虐待と性的虐待をされながら耐えていたボンナムが、ある出来事が引き金となり、復讐に転じていくのである。
無島に暮らす九人は、妻ボンナム、夫マンジョン、幼い娘ヨニ、義弟チョルジョン、四人の婆さん、呆けた長老である。そこに、無島が亡くなった祖父の故郷で久しぶりにやってきたヘウォン、本土と無島を行き来する船乗りトゥクス(オ・ヨン)、本土から無島に仕事のために来るタバンのミラン(チェ・シヒョン)が絡んでいき、ストーリーが展開されていく。
ヘウォンの視点で、無島の住民たちの暮らしや人間性を描写していることで、異様な光景にみせているのである。男の存在が絶対的なものになっており、マンジョンとチョルジョンの行動に対して四人の婆さんたちは口を挟まないのだ。ボンナムを奴隷のように扱う住民たち、ボンナムを暴力で虐待する夫マンジョン、義弟チョルジョンの性奴隷になっているボンナム、夫マンジョンが本土からタバンを呼んでボンナムがいるところでやったり、ボンナムの地獄のような暮らしが浮かび上がってくるのである。この島で良人は、幼いヨニと呆けた長老だけなのだ。
序盤にヘウォンがソウルで経験する一連の出来事が、この作品の主張に繋がっており、無島でそれが具現化された形になったのが幼い娘ヨニの死であろう。その後、本土からきたマンジョンの知り合いの刑事が、島民たちに事情聴取してもボンナムの言葉がかき消されていくのである。閉鎖的な島で、男の行動が絶対としていることでヨニの死の真相を隠そうとしたり、揉め事に関わりたくない心理があったり、周囲の人間たちは傍観者になってしまう。事件には、加害者、被害者、傍観者というそれぞれの立場があり、傍観者にスポットを当てているのだ。ストレートなメッセージが込められていることで、その心理を突きつけている。ソウルと無島を舞台にしているが、都会でも田舎でも主張しているところは同じなのである。無島では、極端な形で表現されているから奇妙にみえるだけである。
ボンナムが、芋掘りしているとき、太陽の光線を浴びることで変貌するところは上手く出来ている。太陽の光がボンナムの体に照らされ、影となる後方から黒くみせているのだ。極限の状態を超えてしまったことで、抑えていた心を解放し、人間の本質を露にしていくのである。首を鎌で切りつけるという人間の弱点を攻撃し、血まみれになる残酷描写はホラー作品のようにみえるが、ホラーものとして扱ってはいけない内容である。
序盤と終盤はソウルが舞台になっており、ヘウォンの心情をみせている。ヘウォンは、幼少の頃からトラブルから逃げているのが回想シーンでわかり、それが今でも変わっていないことに気づいていくのである。逆にボンナムは、どんなトラブルが起きても親友を守ろうとする強い心があり、ヘウォンの弱い心と対比する形で描いているのである。終盤に描かれるヘウォンの心の変化であるが、視覚的な効果として、島を遠くから映して、ヘウォンの体と島をリンクさせるような表現をしており美的センスがある。ボンナムとヘウォンという二つの視点から全体を描いていることで、非常にバランスのとれた作品になっている。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★★