パパは女の人が好き
制作年:2009年
監督:イ・グァンジェ
出演:イ・ナヨン、キム・ジソク、キム・ヒス、イ・ピルモ
ジャンル:コメディ、ラブストーリー、ヒューマンドラマ
鑑賞:日本版DVD
美人写真家として活躍するソン・ジヒョン(イ・ナヨン)は、映画のスチール撮影をしており、個展も控えて準備に忙しくしている。ジヒョンに猛アプローチしているのが、映画の特殊メイク技工師をしているジュンソ(キム・ジソク)である。いつも映画の撮影現場で一緒になる二人は、仲良くなり一年が過ぎていた。ジヒョンには、誰にも云えない秘密があり、元男性で性転換した女性である。ジヒョンは、それを知られたらジュンソが離れていくと思っており、深い関係にならず少し距離おいた形で交際している。ある日、ジヒョンのマンションに9歳の少年ユビン(キム・ヒス)が訪ねてきて、本当の父に会いにきたと云う。ジヒョンは、少年ユビンが棟番号と部屋番号まで知らないので、人違いだと云って帰してしまう。少年ユビンは、警備員室に行って警備員に父の名「ソン・ジヒョン」という名の人を捜してもらい、妻帯者の男性とジヒョンが呼ばれた。そこで、少年ユビンが母の名前キム・ボヨン(チョン・エヨン)を口にして、母と一緒に写っている写真を出したことで、ジヒョンはボヨンと大学時代の同級生で一度だけ体の関係を持ったことを思い出す。とりあえず、ジヒョンは、困っている少年ユビンを部屋に泊めてあげ、少しの間一緒に生活するようになる。性転換したジヒョンに、実父に会いたいと願う少年ユビンが訪ねてきたことから巻き起こる騒動を描いたお話。
監督は、本作デビュー作のイ・グァンジェ監督。
出演は、写真家ジヒョンを演じるのは『私たちの幸せな時間』『悲夢』のイ・ナヨン、特殊メイク技工師ジュンソを演じるのは『目には目、歯には歯』『国家代表』のキム・ジソク、ユビンを演じるのは『ファム・ファタール (原題:無防備都市)』『息もできない (原題:糞蠅)』の子役キム・ヒス、ジヒョンの先輩ミンギュを演じるのは『アリラン』『風の伝説』のイ・ピルモ、ユビンの母ボヨンを演じるのは『僕が9歳だったころ (原題:九歳の人生)』『悲しみよりもっと悲しい物語』のチョン・エヨン、キム刑事を演じるのは『スカウト』『亀、走る (原題:亀が走る)』のキム・ヒウォン、ジヒョンの友人ヨングァンを演じるのは『父とマリと私』『悪い奴ほどよく眠る』のキム・フンス。
写真家ジヒョンは、性同一性障害で男性の体で生まれ、性転換によって女性として生活している。そんな中、男性時代に同級生ボヨンと体を交わし、子供ユビンが生まれ、ジヒョンはボヨンが妊娠も出産も知らず海外へ行ってしまい月日が流れ、実父と実子が出会い複雑な想いを抱きながら接するのである。
少年ユビンは、母子家庭で育っており、最近母ボヨンがミンギュ(イ・ピルモ)と結婚したことで、慣れない環境で生活をしている姿をみせている。新しい父ミンギュは、父親としてユビンに愛を注いでいるが、何かが違うと感じているのである。実父に会いたいと両親に頼み、母の携帯電話からジヒョンの住所を盗み見て、ジヒョンのマンションに出かけていくのである。ミンギュとボヨンが、仕事で出張中というタイミングをみての行動のため、彼らはユビンが家で静かに暮らしていると思っているのである。その後、行方不明になったユビンを知り、ミンギュとボヨンが警察に届けて誘拐騒ぎに発展していく。
ジヒョンは、ジュンソに対して二つの秘密をしている。元男性であったことと実子が存在していることである。ジヒョンは、この二つの障害があることで、ジュンソとこれ以上深い関係を続けるとばれてしまうことを恐れているのである。意外な救世主として登場しているのが、ジヒョンの高校時代からの友人で自動車セールスマンのヨングァン(キム・フンス)である。ヨングァンは、ジヒョンの過去をよく知っており、未だに友人として仲がよいことでジヒョンから相談される。だが、最後はお決まりのように車を買わないかとセールストークになっていくのだ。偶然にも飲み屋でヨングァンとジュンソが語りあうところがあり、そこで根本的なところを衝いてくることでジュンソの心の迷いを打ち消していくのである。意外なところで、人と人との繋がりをみせている作品なので、主要人物はほぼジヒョンと何らかの繋がりを持っている人たちなのである。
ジヒョンがジュンソにお願いをして特殊メイクで男装した姿になって、ユビンに父親として会い、暫く一緒に暮らしながら父子の愛情を育む流れになっている。そこに幾つかのトラブルやユビンの無茶な要求によって、コメディとして表現している。中盤から父子としての人間ドラマに展開されていくことで、親と子の感情の見せ方が不足しているようにみえてしまう。切欠の出来事で、多機種のカメラのシャッター音を聞き分ける能力であったり、パソコンゲームの銃声音を聞き分ける能力といった共通の感覚を持っていることで共感しているが、それぐらいでいいのだろうかと感じてしまう。
性同一性障害に対して差別や偏見のないような形で展開されているところは面白いところである。父母とジヒョンは、男性から女性に性転換しても否定的なこともなく、常に電話での連絡をしており良好な関係をみせている。高校時代からの友人ヨングァンも平然のようにジヒョンと接している。嫌みのない形で表現されているから、もっと性同一性障害を取り上げた形で進行していたら良作になっていたかもしれない。
多くの良い素材があるのに活かしきれていない作品になっているのが本音である。そのために、どこをとっても中途半端な形に姿を変えてしまい、一応コメディものとして纏めているようにみえる。ひとつひとつを素材を丁寧に演出していけば、面白い作品に生まれ変わるであろう。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★