圧倒的暴力と女性蔑視が露骨だな。映像は好きだけどストーリーが薄くてイマイチかな。
悪魔を見た
制作年:2010年
監督:キム・ジウン
出演:イ・ビョンホン、チェ・ミンシク、チョン・ググァン、チョン・ホジン
ジャンル:スリラー
鑑賞:動画
ある夜、雪の夜道で車のタイヤがパンクしたことで、レッカー車の到着を待っていた若い女性ジュヨン(オ・サナ)は、婚約者で国家情報院捜査官のスヒョン(イ・ビョンホン)に電話をかけていた。捜査で忙しいスヒョンは、ジュヨンの誕生日を一緒に祝えないことで謝っていた。そんなとき、ジュヨンは、前方に停車していた黄色いスクールバスから怪しい男ギョンチョル(チェ・ミンシク)が現れ、ジュヨンの車に向かって走ってきて、フロントガラスを叩きわりギョンチョルに拉致される。まもなく警察は、川底から切断されたジュヨンの頭部を発見する。被害者ジュヨンの父は、引退した元刑事チャン(チョン・ググァン)であり、何とか犯人を挙げたくて元同僚から情報をもらう。婚約者を亡くしたスヒョンは、自分が最後の電話相手であり、そのとき救えなかったことに怒りと絶望に打ち震え、自らの手で犯人に復讐することを決意する。被害者ジュヨンの父チャンは、過去の殺害手口から四人の容疑者をリストアップして、その資料をスヒョンに渡した。スヒョンは、二週間休暇をもらい、その間にジュヨンを殺害した犯人を調べていく。スヒョンは、資料にピックアップされた容疑者に会い、一人目と二人目の容疑者を殴って犯人かどうか訊きだすが違っていた。三人目のギョンチョルを調べるため、ギョンチョルの実家を訪ね、彼の年老いた両親と彼の息子に話しを訊き、ギョンチョルの現在住んでいる場所がわかる。スヒョンは、ギョンチョルのアジトに無断で潜入して、部屋にある引き出しから女性用の下着や靴や鞄を発見し、奥の部屋の作業場で、排水溝からジュヨンの婚約指輪を見つけ、ギョンチョルが犯人だと確信する。ジュヨンだけでなく、次々女性を襲って殺しを続けているギョンチョルにスヒョンは復讐できるのかというお話。
監督は、『甘い人生』『グッド・バッド・ウィアード (原題:良い奴、悪い奴、変な奴)』のキム・ジウン監督。
出演は、国家情報院捜査官のスヒョンを演じるのは『夏物語 (原題:その年の夏)』『グッド・バッド・ウィアード (原題:良い奴、悪い奴、変な奴)』のイ・ビョンホン、殺人鬼ギョンチョルを演じるのは『クライング・フィスト (原題:拳が泣く)』『ヒマラヤ、風がとどまる所』のチェ・ミンシク、引退した元刑事チャンを演じるのは『作戦』『グッドモーニング・プレジデント』のチョン・ググァン、オ課長を演じるのは『GP506』『炎のように蝶のように』のチョン・ホジン、スヒョンの婚約者ジュヨンを演じるのは本作スクリンデビューのオ・サナ、ジュヨンの妹セヨンを演じるのは本作スクリンデビューのキム・ユンソ、殺人鬼テジュを演じるのは『ベストセラー』『房子伝』のチェ・ムソン。
凶行を繰り返す殺人鬼ギョンチョルに婚約者を殺された国家情報院捜査官スヒョンが、自らの手で始末することを誓い、地獄の苦しみを味あわせるような復讐をしていくスリラーである。
スヒョンはギョンチョルが殺人犯であると直ぐにわかってしまうことで、犯人探しというサスペンス要素はなく、スヒョンと殺人鬼ギョンチョルの戦いを過激な描写でみせている。ビニールハウスで女学生を強姦しているギョンチョルを見つけたスヒョンは、最初の戦いが始まり、スヒョンがギョンチョルをボコボコにしてしまう。とどめを刺すことをせず、意識が朦朧としている間に、追跡用のGPSカプセルを飲み込ませて、そのまま解放するのだ。ギョンチョルからすると、何故逮捕したり殺したりしないのか不思議に思うであろう。命拾いしたギョンチョルは、相変わらず犯罪を犯していくが、スヒョンはギョンチョルの行動を監視し先回りして、ギョンチョルに制裁を加えていくのだ。
スヒョンとギョンチョルの戦いでは力の差が歴然で、スヒョンが圧倒的に強い。窒息させようと頭にビニールを被せたり、無防備な左手を踏み潰し骨折させたり、アキレス腱を医療メスで斬ったり、スヒョンの行動は悪魔化したものになっている。スヒョンは、このような残虐な行動をギョンチョルだけにしか行っておらず、常に無表情でいることが恐怖をみせている。スヒョンを悪魔のような存在にみせるには、ギョンチョルが常に極悪でなくてはこの作品は盛り上がらないのだ。尋常じゃないギョンチョルの極悪ぶりをみせることで成立させようとしている。確かにその目論見通り、ギョンチョルの極悪ぶりは健在で、何度も殴られても戦意を失わない強さをみせている。だから、イ・ビョンホン演じる国家情報院捜査官スヒョンよりも、チェ・ミンシク演じる殺人鬼ギョンチョルの存在が大きくなくてはいけないのだ。その点に関しては、成功している。
ギョンチョルは、常に獲物を探しており、弱者である女性を鉈や斧で斬りつけたり、強姦して殺すという手口がパターンのようだ。凶悪犯というよりは、変態強姦魔といったところだ。冒頭からバラバラ殺人をみせており、その次のターゲットにはギロチンという殺し方をしていることで、一応は凶悪犯というようにみせているけれど。性的な欲求と猟奇的な欲求が入り混じっていることで、ギョンチョルの心理的な描写がみえにくくなっている。
コメディ的な面として、ビニールハウスでやられたギョンチョルがタクシー(二人組みに強盗されたもの)に乗るエピソードであったり、獲物を探して暗闇から現れたのが数十人が乗る兵士の車であったりと、笑えないけど盛り込んでいる。この作風にコメディ要素は、恐怖の緊張感を壊してしまうためマイナスなように感じてしまうだろう。
殺人鬼テジュ(チェ・ムソン)のつぶやきから、「キャッチ・アンド・リリース」に気づくギョンチョルの終盤間際の逆襲だけは楽しめたところだ。スヒョンに対して直接攻撃しているわけでないから、逆襲というには難しい表現だが、ギョンチョルが別の人物を攻撃することでスヒョンに精神的ダメージを与えるからだ。
残虐描写が話題になっており、個人的にはホラー映画が好きだからグロテスクなシーンで動じることはなかった。排便のシーンはちょっと躊躇したけど。視覚的なものだけでなく、内面からくる怖さも表現しているようだが、そこは感じられなかった。最後まで「恐怖」を前面に押しており、思考する事柄もなく、真っ直ぐ物語が進んでしまうことでストーリーの質としては低い方であろう。人間の深層心理といったものは、残念ながらほとんど感じられなかった。ラストにスヒョンが目的を成し遂げた後、涙を流していたところをちゃんと解釈すれば、この作品の意図を理解したことになるだろう。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★