チャン・ジンの腕が落ちたのかな。所々でこの監督の色はあるけど、陳腐なギャグが目立つ。日本劇場公開版でカットしたシーンだが、カットしない方がいいのに。
グッドモーニング・プレジデント
制作年:2009年
監督:チャン・ジン
出演:イ・スンジェ、チャン・ドンゴン、コ・ドゥシム
ジャンル:コメディ、ヒューマンドラマ
鑑賞:日本版DVD
■第一話:キム・ジョンホ大統領
任期終了まであと半年となったキム・ジョンホ大統領(イ・スンジェ)は、前職大統領の特赦に関して国論が分かれており苦労している。宝くじのイベントに嫌々ながら参加したキム・ジョンホ大統領は、自らも宝くじを購入して、当たったら全額寄付すると宣言した。公務が終わり官邸でくつろいでいたキム・ジョンホ大統領は、宝くじの当選発表の生中継番組をみており、購入した宝くじが当り、244億ウォンの当選者となる。突然の出来事にその場で倒れてしまったキム・ジョンホ大統領は、救急車で病院に運ばれ、意識を失ったが直ぐに回復した。一緒に暮らしている大統領夫人(チョン・ヤンジャ)、海外で生活していた娘イヨン(ハン・チェヨン)、秘書官や政治家たちが、キム・ジョンホ大統領を心配して病室に駆け込む。周囲の人たちと大統領の会話はどこか食い違っている。キム・ジョンホ大統領は、政治のことよりも、宝くじで大金を当てたことで豊かな老後を選択するか、国民に大々的に宣言してしまった全額寄付を実行するかで悩んでしまう。
■第二話:チャ・ジウク大統領
チャ・ジウク(チャン・ドンゴン)議員は、最年少で野党の総裁となる。キム・ジョンホ大統領とチャ・ジウク議員の父は、昔から親友であり、チャ・ジウクのことを幼い頃からよく知っている仲である。キム・ジョンホ大統領の任期が終えて、政権交代が起こり、チャ・ジウクが大統領に就任する。チャ・ジウク大統領は、妻を亡くしており、5歳の息子をひとりで育てている。そんなとき、キム・ジョンホ元大統領の娘で初恋相手イヨンが、韓国に帰国していることを知り動揺してしまう。就任して直ぐ、北朝鮮の挑発によって、日本の海上自衛隊が動きだし、アメリカの海軍も同様に動きだし、韓国領海に侵入してきて、朝鮮半島を巡る一触即発の危機に直面する。更に、市場を視察中、チャ・ジウク大統領が謎の青年(パク・ヘイル)に襲われるという危機に直面するが、青年は大統領にある懇願をし、そのことでチャ・ジウク大統領は悩み、大きな決断をする。
■第三話:ハン・ギョンジャ大統領
ハン・ギョンジャ(コ・ドゥシム)議員は、キム・ジョンホ政権時では重要な要職に就いており、チャ・ジウク政権時では野党の総裁をしていた。政権交代が起こり、ハン・ギョンジャは、韓国初の女性大統領になる。多忙なハン・ギョンジャ大統領は、毎日職務を遂行しているが、官邸で一緒に暮らしている夫チェ・チャンミョン(イム・ハリョン)は規則を押しつけられた生活にストレスを溜めている。チェ・チャンミョンは、妻が政界を引退した後のことを考えて、老後は二人で田舎で暮らすことを望み、ある場所に土地を購入する。だが、そのことが政界に大きな打撃を与えてしまい、支持率低下を招いてしまい、大きな出来事に発展していく。
監督は、『偉大なる系譜』『My Son あふれる思い (原題:息子)』のチャン・ジン監督。
出演は、キム・ジョンホ大統領を演じるのは『僕の、世界の中心は、君だ。(原題:波浪注意報)』『みんな、大丈夫?』のイ・スンジェ、チャ・ジウク大統領を演じるのは『タイフーン』『PROMISE』のチャン・ドンゴン、ハン・ギョンジャ大統領を演じるのは『お母さん』『家族の誕生』のコ・ドゥシム、ハン・ギョンジャ大統領の夫チェ・チャンミョンを演じるのは『仁寺洞スキャンダル』『私の愛、私のそばに』のイム・ハリョン、キム・ジョンホ大統領の娘キム・イヨンを演じるのは『今、愛する人と暮らしていますか?』『ガールフレンズ』のハン・チェヨン、大統領官邸の料理人チャン・ギスを演じるのは『My Son あふれる思い (原題:息子)』『正しく生きよう』のイ・ムンス。
三つの時代をみせながら、三人の大統領を主人公にしたオムニバス作品である。時間的な流れは継続されており、キム・ジョンホ大統領(統一民主党)、チャ・ジウク大統領(新韓国党)、ハン・ギョンジャ大統領(統一民主党)と政権交代をしている。
第一話では、キム・ジョンホ大統領が宝くじに当選したことで、黙って自分の懐に入れるのか、宣言通りに全額寄付するのかを笑いを交えて悩む姿をみせている。キム・ジョンホ大統領は、子供のときからお金に苦労をしていたことから、ようやく掴んだチャンスと思っている。自らの主張を取り下げて大金を手に入れるか、国民との約束を果たすために大金を寄付して手放すかの迷いをみせているのだ。キム・ジョンホ大統領が倒れたとき、マスメディアや国民たちは、キム・ジョンホ大統領が意識を取り戻し家族写真の入った財布を持ってくることを要求したことで、偉大な人で家族を愛する人のように報道されているが、実は宝くじの券が入っているかを心配していたのである。周囲の人たちと大統領の考えがズレているところをコメディとして表現されている。
第二話では、シングルファーザーのチャ・ジウク大統領が、就任早々に外交問題に直面し、強気な選択をする。北朝鮮の軍事行動、日本の海上自衛隊やアメリカの海軍が韓国海域に無断で侵入して、朝鮮半島で軍事衝突が起こるかもという状況になり、その危機を乗り越えるのだ。実はここのシーンで、日本劇場公開版ではカットされているシーンがあり、日本への敵意が露骨に出ているからであろう。ある意味コメディとして描かれているシーンで、そこは自国なら容易く理解できるのだろうが、他国では違った意味で捉えてしまうからかもしれない。詳しく知りたいのであれば、韓国映画ショーケース2009(東京フィルメックス映画祭)のティーチ・インのサイトに監督の説明が載っている。
このサイト。日本版のDVDでは、日本劇場公開版でカットされた部分も含まれている。更に、市場で大統領に懇願する青年キム・ジュジュンが警察に逮捕され事情を訊きにきた大統領は、その理由を知って悩み、青年の願いを叶えてあげようと立ち上がる。本当は、パフォーマンスとして行動したが、後に引けない状況になってしまうところをコメディとして描いている。表面的には強硬な人とみえてるが、実は小心者で注射が大嫌いであったり、初恋相手のイヨンのことになると別人になってしまうのだ。
第三話では、重要なポストで議員活動をしてきた女性のハン・ギョンジャが大統領になり、新しい政策をしている最中に、良いと思って起こした夫チェ・チャンミョンの行動によって、野党から攻撃されて支持率が落ちていき、夫チェ・チャンミョンが妻のことを考えて離婚しようとする。「公」と「私」が強調されているのがこのエピソードにみえる。大統領の夫の視点も描いており、配偶者が公人であれば、自分も同じような立場になることを切々とみせている。大統領の政策を知らない夫の行動が、ここまで叩かれてしまう現実をみせているのだ。ハン・ギョンジャ大統領の「私」という点で、夫婦の愛というところをみせている。
第三話中に退官したキム・ジョンホ元大統領やチャ・ジウク元大統領のその後をみせており、政治と離れた生活をしているのをみせている。日本の元首相のように一議員として政界に居座るのでなく、政界から離れて一市民として質素に暮らしている姿をみせているので、日本もそうであって欲しいと望む。
三つのエピソードで共通して示していることは、大統領も普通の人間であることである。大金が欲しかったり、日常の小さなことで臆病になったり、好きな人がいたり、人間であれば当たり前の感覚を持っているのだ。各エピソードをみれば、そのことに気がつくのであるが、第三者の者が最後にそのことを語るので、アイデアとしてはよかったところである。不満な点として二つあり、ひとつは群像劇だから各エピソードとも深く掘り下げていないこと、もうひとつはこの監督の特徴的なコメディ要素が消えて一般的なコメディなのであまり面白くなかったことである。チャン・ジン流の笑いのキレが薄くなっており、どうしたんだろうと気になるところである。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★