うさぎとリザード
制作年:2009年
監督:チュ・ジホン
出演:チャン・ヒョク、ソン・ユリ
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:日本版DVD
幼い頃、アメリカへ養子に出されたメイ(ソン・ユリ)は、生みの両親に会うため仁川空港にやってきた。タクシー運転手をしているウンソル(チャン・ヒョク)は、現代医学で治療法がない心臓病で、不定期に鼓動が停止して呼吸困難で苦しみ、いつ死んでもおかしくないことを医師から告げられていた。仁川空港のタクシー乗り場で発作が起こったウンソルは、偶然通りかかったメイの腕を掴んでしまい、メイはお客としてウンソルのタクシーに乗り、メモに記された目的地へと向かう。メイが持っているメモは、養子縁組記録に書かれていた生みの両親が住んでいる住所である。メイは、その住所に建っている家を訪れると、父の妹である叔母ポクチャ(キム・ドンジュ)がいた。メイは、叔母ポクチャから自分の両親が事故で亡くなっていたことを初めて聞かされる。事実を知ったメイは、動揺してソウルの街を歩き彷徨い、バス停のイスに座り、そこで財布をみつける。財布の中身を調べたところ、持ち主が仁川空港で乗ったタクシーの運転手ウンソルのものとわかり、メイは財布の中に入っているカードをみて連絡し、ウンソルをバス停まで呼び、再びウンソルのタクシーに乗り込み、泊まるところを探しているので知り合いが経営している近くのモーテルまで乗せていった。偶然のように度々再会するウンソルとメイは同行し、各々の心の傷を描いたお話。
監督は、本作デビュー作のチュ・ジホン監督。
出演は、タクシー運転手のウンソルを演じるのは『Sダイアリー』『オガムド』のチャン・ヒョク、メイ(養子後の名前)及びウォンソン(養子前の名前)を演じるのは『私の男のロマンス』のソン・ユリ、警察官チャンホを演じるのは『バカ』『過速スキャンダル』のチャ・テヒョン、メイの叔母ポクチャを演じるのは『ARAHAN アラハン』『シークレット』のキム・ドンジュ、ウンソルの祖母を演じるのは『マヨネーズ』『ライバン』のウォン・ミヨン、ポクチャの息子チャンホを演じるのは『逆転の名手』『無影剣』のイ・ジャンヒョン。
死を覚悟して身辺整理をするウンソルと両親の死を知って目的を失ったメイが、偶然出会うことで、お互いの心の傷と向き合っていく。
ウンソルの場合は、体の問題と心の問題の二つ持ち合わせている。体の問題は、心臓病の痛みに苦しみ、死を覚悟している。心の問題は、死が近いことを感じており、昔の友人たちに連絡したり、アルバムを焼いたり、死の準備をする中で、唯一の肉親である呆けている祖母(ウォン・ミヨン)を心配していたり、両親が死んだときの記憶を閉じ込めようとしている。そして、常に「赤いうさぎ」を探しており、「赤いうさぎ」を見つけることができたら心臓病が治ると感じている。
メイの場合は、心の問題が主になっており、なぜ生みの両親が自分を手放したのか知りたくて戻ってきたが、生みの両親が死んでいることを知り、自分の僅かな記憶を頼りに自分や両親の過去をみつけようとする。更に自分の誕生日だからアメリカの育ての母に連絡をしたとき、自分の誕生日に気づいてくれないことで孤独感を増幅してしまうのだ。そして、メイは、背中にあるリザード(トカゲ)のような傷跡が残っており、この傷の理由を探している。
共通点として、ウンソルとメイには心の傷を持っていることである。メイは微かな記憶を思いだそうと自分や両親の過去を知ろうとしていき、ウンソルは苦しい過去の記憶を忘れようとしている。記憶に対して正反対なことをしているのだ。序盤から中盤まで過去を探し、終盤に過去と現在の接点をみせて、ウンソルの閉ざされていた記憶によって全てがみえる構成になっている。
何も考えずに観てしまうとドラマティックな作風にみえてしまうであろう。ウンソルとメイの心の描写をどのように感じとるかで、作品の見え方が変わるだろう。ウンソルの心情は、複数の要因があり、ひとつひとつを順序通り消化するとみえてくる。例えば、ウンソルにとって「赤いうさぎ」は生の希望として幻想的にしているが、本当は現実を意味しており、「赤いうさぎ」と「メイ」を重なることでパンドラの箱の鍵にしているのだ。メイの心情は、生みの両親の死によって生みの両親の想いがわからなくなり、育ての母に誕生日を忘れられていることから、現実逃避のようになっているのがみえる。イヤホンを付けて外の音を遮断するところは比喩的な表現方法のひとつであろう。その表現方法の裏をついているのがラストのシーンになっているのだろう。いろいろ小細工している作品なので、深く追求していくと面白さが増すだろう。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★