2003年の東京国際映画祭で上映したときに鑑賞した作品。来月に東京国際映画祭が開催されるから、この作品のレビューを書いてみた。今年の協賛&提供企画の「コリアン・シネマ・ウィーク 2010」では、偶然ながらレビューでアップした全作品が上映される。『ハーモニー』『私のチンピラのような恋人 (本レビューでは『私のヤクザのような恋人』)』『食客2 (本レビューでは『食客:キムチ戦争』)』『執行者』『ベストセラー』。珍しく今年は面白い作品が揃っている。
嫉妬は我が力
制作年:2002年
監督:パク・チャノク
出演:パク・ヘイル、ペ・ジョンオク、ムン・ソングン、ソ・ヨンヒ
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:第16回東京国際映画祭
卒論を書きながら海外留学の費用を貯めている大学院生イ・ウォンサン(パク・ヘイル)は、恋人ネギョンから妻子がいる男性を愛するようになったと一方的に云われて会えなくなってしまう。ウォンサンは、雑誌社で仕事をする友人ジョンウン(チェ・ジニョン)を手伝い、恋人ネギョンとの別れの原因である男性編集長ユンシク(ムン・ソングン)に会い、その男を知りたくなり衝動的に雑誌社に就職する。ウォンサンは、雑誌社の仕事で獣医をしながらアマチュア写真作家をしているパク・ソンヨン(ペ・ジョンオク)と会い、彼女の生き方に好感してしまい、いつしか愛してしまう。ウォンサンは、下宿の大家の娘ヘオク(ソ・ヨンヒ)から思いを寄せられており、ヘオクの気持ちに応えることが出来ずにいる。雑誌社のみんなと呑みに行った帰り道、泥酔したソンヨンを編集長ユンシクがタクシーに乗せて送って行ってしまい、男女の関係になってしまう。またしてもウォンサンは、同じ男に女をとられてしまう。二度にわたって同じ相手に恋人を奪われる青年と様々な心の動きを描くお話。
監督は、本作デビュー作のパク・チャノク監督。
出演は、大学院生ウォンサンを演じるのは『ワイキキ・ブラザーズ』のパク・ヘイル、獣医で写真作家のソンヨンを演じるのは『若き日の肖像』『深い悲しみ』のペ・ジョンオク、編集長ユンシクを演じるのは『グリーン・フィシュ (原題:緑の魚)』『秘花 ~スジョンの愛~ (原題:オー!スジョン)』のムン・ソングン、大家の娘ヘオクを演じるのは『バイ・ジュン』のソ・ヨンヒ、ウォンサンの元恋人ネギョンを演じるのは二人をおり、声を担当しているのが本作スクリンデビューのイム・ミヒョン、一人二役を演じるペ・ジョンオク。
パク・チャノク女性監督は、ホン・サンス監督の下で助監督をしていた経験があることで、ホン・サンス作品の作風が匂うのである。大学院生ウォンサンを中心にして、恋心を持つ獣医ソンヨン、恋人をとられた編集長ユンシク、片思いされているヘオク、まだ未練がある元恋人ネギョンとの人間関係を表現して、ウォンサンを含む中心人物の日常を描いている。
ウォンサンは、恋人ネギョンの心を奪った編集長ユンシクの下で働き、ユンシクという人間を知っていくのである。二人は職場だけではなく、編集長ユンシクがウォンサンを英語で書かれたコンピュータの説明書を解読して欲しいことで妻と娘がいる自宅に呼んだり、二人っきりで酒を呑んで喋ったり、ウォンサンを運転手のような扱いされたりするのだ。青年と中年男性の女性に対する考え方の違いをみせながら、ウォンサンからはあまりにも自由すぎる編集長ユンシクの存在をみせている。
編集長ユンシクは、浮気者として設定されているが、容姿は平凡でただの中年男性である。寂しく生きるソンヨンの心の隙間に入るユンシクは、肉体関係を持つのであるが、割り切った感じにも取れるのだ。編集長ユンシクとソンヨンの微妙な大人の関係を描き、ウォンサンの心は嫉妬をしていくのである。
獣医ソンヨンは、年齢差がある青年ウォンサンと知りあうことで、今までの孤独感から解放されるように描かれている。編集長ユンシクと青年ウォンサンの間で、揺ら揺らと飛んでいるようでありながら、自分を持っている。女性監督特有な表現方法なのかもしれないが、独特な感じを受けるのだ。
意外にも存在感があるのが大家の娘ヘオクである。毛糸屋を一人で営み、病気の父を面倒みており、弟が病気になり混乱してしまうのだ。ヘオクにとって心の動揺を抑えてくれるのはウォンサンだけであり、ウォンサンはそんな弱っているヘオクをソンヨンへの嫉妬心を振り払うように肉体関係を結ぶのである。「嫉妬」というのがポイントになっており、主に男性視点のウォンサンの感情を表している。その後、ウォンサンとヘオクの間に気持ちの溝があるのが徐々にみえてくるのである。
気にかかるのが、最初から声だけ登場しているネギョンが、終盤に雑誌社のエレベーターで、しかも後ろ姿だけ登場するのである。ネギョンの見せ方に工夫をしており、鑑賞者に顔をみせない演出をしているのである。このあたりは、終盤の修羅場の場面だから深く触れないでおこう。
作家性が強い作品なので、鑑賞者の好みによって割れる作品だろう。内に秘める心の動きを描いている作品なのはわかるが、個人的には合わなかった。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★