青い自転車
制作年:2007年
監督:クォン・ヨングク
出演:ヤン・ジヌ、キム・ジョンファ
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:日本版DVD
閉園が決まっている小さな動物園で、象の飼育係をしているトンギュ(ヤン・ジヌ)は、右手に障害を抱えており義手をしている。自分の障害にコンプレックスを持っていることで、自分の世界に閉じこもっている。恋人ユリ(パク・ヒョジュ)から結婚を急かされ、ユリのご両親に挨拶しにいったトンギュであるが、右手の障害のことで偏見を感じて落ち込んでしまう。動物園が閉園することで、就職活動をするがなかなか就職先が見つからない。トンギュは、恋人ユリと上手くいかずに別れてしまう。そんなとき、トンギュはピアノの先生をしているハギョン(キム・ジョンファ)と出会い、何気ない空気を作りだすハギョンに心を開いていく。入退院を繰り返していたトンギュの父(オ・グァンノク)が亡くなってしまう。トンギュは、自分が小学生の時に父と過ごした出来事を思い出しながら、家族への感情を深く感じだす。障害を抱えたトンギュが、どのようにして人生の希望を探していくのかを描いたお話。
監督は、本作デビュー作のクォン・ヨングク監督。
出演は、動物園で象の飼育係をしているトンギュを演じるのは『達磨よ、ソウルへ行こう』『伝説の故郷』のヤン・ジヌ、ピアノの先生のハギョンを演じるのは『僕の彼女を知らないとスパイ (原題:彼女を知らないとスパイ)』『後悔なんてしない (原題:後悔しない)』のキム・ジョンファ、トンギュの父を演じるのは『天国までの60日 (原題:少年、天国へ行く)』『残酷な出勤』のオ・グァンノク、トンギュの母を演じるのは『麻婆島』『麻婆島2』のキル・ヘヨン、トンギュの恋人ユリを演じるのは『スーパースター カム・サヨン』『ソン・イルグクのレッド・アイ~幽霊列車~ (原題:レッド・アイ)』のパク・ヒョジュ。
トンギュの小学校時代の過去、父が病死した現在、といった二つの時間軸を交互に描きながらトンギュの心情を繊細に描いた人間ドラマである。
小学校時代のトンギュの家族構成は、父、母、姉、妹の五人家族。現在のトンギュの家族構成は、父、母、姉、姉の夫(義兄)、姉夫婦の長女(姪)、姉夫婦の次女(姪)、妹、妹の夫(義弟)と大家族。トンギュの家族も大きな見所になっており、トンギュの姉の家族も一緒に生活していることで、家族の形や家族の愛情をみせている。
小学生時代のトンギュは、友達が少なく、右手の障害を気にしており、父が作ってくれた自転車に乗ろうとしなかった。そのために通学のときは、姉の自転車の後ろに乗せてもらっていた。過去の回想シーンは、力強い父の愛情と初恋が主になってストーリーが進行していく。自分に正直な小卒の父は、自宅兼自転車屋で働き、三人の子供たちを育てており、トンギュが学校で喧嘩して先生に呼び出されても強気であり、トンギュとの小さな約束を忘れない優しい父でもあった。現在の病弱な父の姿との差が大きいことで、父のエピソードがこの作品ではカギになっている。そして、声が出ない同級生の女の子との初恋を描きながら、当時の学校での思い出や自転車のエピソードを交えながら現在と繋がるように構成している。
過去と現在を交互に表現していることで、トンギュと関わっていた人物たちがどのように変化しているのかがみえ、閉じこもったトンギュの心が解れていく姿を少しずつみせている。非常に大きな役割をしているのが父の存在である。昔は大きくみえていた体が、今では弱々しくみえ、支えてやらなければいけない存在に変わっているのだ。トンギュだけがそのように感じているのでなく、母や姉らも同じように感じているのがみえるのだ。母が車の免許を取ろうとする気持ちは、父との夫婦だけの思い出が大きく動かしており、母が父に対する気持ちをみせている。でも、踏み切りの真ん中でエンストしているようでは、危険すぎて免許を与えてはいけない気がする。
トンギュの恋愛に視点を向けてみると、トンギュの状況を理解しているからユリ個人としては問題ないようにみえるが、ユリの両親に対しての気持ちで急ブレーキがかかっている。トンギュがいろいろな面で、自分で自分を追い込んでいるのがみえるのだ。ハギョンの登場によって、トンギュに心の安らぎを与えているのはみえる。ハギョンがトンギュの心をそっと押してくれていることで、複雑に絡み合っていた感情を解いてくれているようだ。
人生の希望を失いかけた青年の心情の変化を描いている作品であるが、そこには家族の気持ちが深く込められた作品にもみえる。特に父の設定が非常に良く出来ており、若き頃、老齢で病弱になった頃、亡くなった後といった時間軸を上手に使っている。ラブストーリーの視点でみてしまうと非常に味気ない作品である。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★