1980年代の作品3『シバジ』。
シバジ
制作年:1986年
監督:イム・グォンテク
出演:カン・スヨン、イ・グスン、ハン・ウンジン
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:日本版Video
時代は李氏朝鮮末期、名家シン一族のサンギュ(イ・グスン)と妻(パン・ヒ)の間には子供に恵まれなかった。サンギュの妻は、28歳の若奥様で結婚して12年経つが子供ができず、サンギュの母(ハン・ウンジン)や叔父チホ(ユン・ヤンハ)は跡継ぎを心配していた。陰門谷という山奥に暮らすシバジ(代理母、種受け)たちが住む村に行ったサンギュの母と叔父チホは、17歳の生娘オンニョ(カン・スヨン)をシバジとして選び、オンニョに目隠しをして自分たちの屋敷に連れてきた。サンギュは、妻を心底から愛していることで世継ぎのためにシバジを使うことに消極的であったが、オンニョが若くて美しいことから惚れ込んでしまった。オンニョの存在は、村では秘密にしていたことで、オンニョは屋敷の隅の部屋で隔離されており、サンギュの母が全てをしきって、決められた日にサンギュとオンニョは性交する。オンニョは次第にサンギュのことを本気で愛してしまい、性交が許されてない日にも外で行ってしまった。オンニョの心情を考えたサンギュの母は、オンニョの母ピルリョ(キム・ヒョンジャ)を呼び寄せて、母ピルリョ自身もシバジでありどのような境遇であったかを話してオンニョに言い聞かせた。オンニョが妊娠して、村の人たちにはサンギュの妻が妊娠したことにして伝え、村人たちは祭祀で盛り上がる。果たして、シバジとして生き始めたオンニョは無事に男児を産むことができるのか、その後オンニョの人生はどのようなものなのかを描いたお話。
監督は、『キルソドム』『チケット』のイム・グォンテク監督。
出演者は、若い娘の代理母をするオンニョを演じるのは『Wの悲劇』『鯨とり2』のカン・スヨン、子供が授からない夫サンギュを演じるのは『壁と壁の間』『イー・ヘースクのテンプテーション 甘い誘惑 (原題:誘惑時代)』のイ・グスン、サンギュの母を演じるのは『修学旅行』『ピョンテとヨンジャ』のハン・ウンジン、サンギュの叔父チホを演じるのは『曼陀羅』『チケット』のユン・ヤンハ、オンニョの母ピルリョを演じるのは『愛の望郷 激流を超えて (原題:鸚鵡からだで鳴いた)』『コバン村の人々』のキム・ヒョンジャ、子供が授からないサンギュの妻を演じるのは『曼陀羅』のパン・ヒ。
「シバジ」とは、代理母や種受けの意味を指しており、後継ぎがいない名家の主人と性交をして、後継ぎの男の子を出産する事で代金や土地を得る職業である。女の子を出産した場合は、受け取る報酬が極端に低くなり、その子供はシバジ自身が引き取るか、相手が引き取る。シバジが世継ぎの子を出産したら、直ぐにその家から立ち去らなければならないと決められている。男性直系を重視し、儒教信仰にもとづいていることで、朝鮮の世継ぎの風習とされていた。まさに女性の人権を無視したやり方であるが、男尊女卑で男性直系を重くみている世界にしてみれば当たり前の世界であるのだ。某大臣が「女性は子供を産む機械」という比喩的な発言で辞任まで追い込まれたが、これも時代によっては変わってくるのだろう。日本も側室制度が存在していたから何ともいえないが、そこまで男性直系の世継ぎに拘っていない。江戸時代の徳川家の武家政権を例にみればわかると思うが、養子によって名家を存続していた。徳川家だけでなく、他の名家もそうである。
冒頭では、サンギュ夫婦が子作りに専念しており、言い伝えを信じて妻のお腹にお灸をしたりして、様々なことを試しているのだ。それでも子に恵まれず仕方なく、サンギュの母がシバジに頼るのである。シバジを選ぶのも実績と年齢が目安となっており、サンギュの母と叔父チホがシバジを選ぶのに三人が用意されていて、結局選んだのはその三人ではなく、最初に村に入ったときに見かけた若い生娘オンニョを選んでいる。結局は容姿と年齢かよと思うであろう。
オンニョが屋敷に来てからの女の醜さがおもしろいところである。サンギュの妻からすれば、姑が出しゃばっているのが嫌そうにみえ、しかもシバジのオンニョを勝手に連れてきて、サンギュとオンニョが性交するときに性交の儀式を部屋の外から自ら説明しているのである。かなり屈辱的でサンギュの妻の歪んだ表情が印象深いのだ。オンニョも自分の立場を忘れてサンギュを本気で愛してしまうことで、正妻との間は微妙な空気が流れているのだ。サンギュの母がこの家で一番強い存在になっており、世継ぎを残すことが自分の使命のような感じで前へ前へと出てくるのだ。オンニョの母ピルリョがオンニョの精神的な柱になっており、オンニョの失態によって代わりに体罰を受ける母ピルリョをみるとかなりの不条理な世界だと感じてしまう。
サンギュの視点とすると、オンニョに対しては愛情といっても一時的なものになっており、精神的には妻だけを愛しているのが終盤でわかるはずだ。オンニョの視点で中盤を示しているから、正妻から夫を奪って相思相愛のようにみえるが、実情をみるとロマンティックな愛とはかけ離れているのがわかるはずだ。明白に表現されているのは、オンニョが男児を生んだ後のシーンなのだ。
女性を描く作風として、男性優位がかなり強調されている中で、そこでどのように女性が存在しているのかを描いている。シバジとして生きてきたオンニョの母ピルリョの過去やそのときの心情、それにリンクするようなオンニョの心情をみせているのだ。ラブロマンスを求めるとなるとサンギュが正妻を捨ててオンニョと一緒に勘当するようなストーリーも作れるが、かなりシビアな世界をみせているのがわかるはずだ。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★