ようやく、キム・ギドク全作品のレビューが完成した。
映画祭で観たときに簡易レビューを書いたのだが、季節毎に感想を書いていたことで全面修正をしてレビューを完成させた。映画祭のときに自分で撮影した画像がないかバックアップ用データを探してみたが見つからなかった。キム・ギドクが来場しており、ティーチ・インがあったのは覚えているがどんな内容だったか忘れてしまった。
春夏秋冬そして春
制作年:2003年
監督:キム・ギドク
出演::オ・ヨンス、キム・ギドク、キム・ヨンミン、ソ・ジェギョン
ジャンル:ヒューマンドラマ
鑑賞:第4回東京フィルメックス映画祭
4つのパート(春夏秋冬)とエピローグ(そして春)。
春――山間に囲まれた湖に浮かぶ小さな山寺に小僧(キム・ジョンホ)と老僧(オ・ヨンス)が暮らしている。小僧は森で捕まえた蛙や蛇や魚に石をぶら下げてイタズラをして遊ぶ。その姿をみていた老僧は、眠りについた小僧の背に石を括りつけて同じ苦しみを体感させる。老僧が小僧に命の重みを教える。
夏――春の小僧が17歳の青年僧になり、山寺に同い年の少女(ハ・ヨジン)が療養しにくる。青年僧は少女に恋をして肉体関係を持つ。少女が去ることになったとき、青年僧は深まる愛の執着を振り切れず山寺を去っていく。
秋――山寺を離った青年僧が、10数年ぶりに戻ってきた。男(キム・ヨンミン)は、自分を裏切った妻を殺害して逃亡犯になっていた。男が仏像の前で自殺を図ろうとするが老僧は殴って止める。そして、老僧が木の床に猫の尻尾を使って書いてくれた般若心経を男がナイフで文字を彫って心を静める。二人の刑事に連行されて男は逮捕されて、この山寺から去っていく。
冬――刑務所から出所した男(キム・ギドク)は、廃墟化した山寺に戻り、老僧の袈裟を集め、氷の仏像を作り、冬の山寺で心身を修練する。布を巻いて顔を隠した女(パク・チア)が赤ん坊と一緒に山寺を訪れ、赤ん坊を山寺に残して去っていく。
そして春――山寺に預けられた赤ん坊は小僧に成長し、男はその小僧を見守る。
監督は、『悪い男』『コースト・ガード (原題:海岸線)』のキム・ギドク監督
出演者は、老僧を演じるのは『童僧』のオ・ヨンス、主人公の壮年僧を演じるのはキム・ギドク監督、主人公の中年僧を演じるのは『エキストラ』『受取人不明』のキム・ヨンミン、主人公の青年僧を演じるのは『リザレクション (原題:マッチ売り少女の再臨)』『ワイルドカード』のソ・ジェギョン、小僧を演じるのは本作デビュー作のキム・ジョンホ。
山奥の湖の水面に佇む小さな山寺を舞台に、自然の四季に重ね合わせて一人の僧侶が波乱に富んだ人生を5つのエピソードで描いている。
罪の意識を四季を通して描いているのがみえる。春の小僧時代は、罪の意識がなく生き物にイタズラをして魚と蛇を死なせてしまったことで、老僧の教えによってその罪を学ぶ。夏の青年時代は、外(俗世)から少女が現れて欲求に負けてしまい、更なる欲求を抑えることが出来ずに山寺を去っていく。秋の中年時代は、妻を殺すという大罪を犯して戻ってきて、怒りと苦痛で自殺を図ろうとするが、老僧の行動によって揺れ動く心を静め、俗世から離脱する行為として写経をして自らの罪を重く受け止めて刑務所に入る。冬の壮年時代は、春から秋に起こした罪を背負いながら厳しい修行をする。
ギドク作品の特徴的な苦痛を本作品でもみせている。冬の壮年時代は、上半身裸で仏像を持ち重い石を自らに括りつけて山を登り、肉体的な苦しみを味わい、自らの人生を見詰めなおしている。精神と肉体の修行であるが、精神的な痛みは春から秋で表現されており、肉体的な痛みは冬に表現されている。
俗世から隔絶された空間にみえる山寺は、湖畔の門を通り抜けて、手こぎボート1艘だけが行き来できるルートになっている。山寺を行き来する人間は湖畔の門を通っていることから、湖畔の門は結界を意味しているように感じとれ、内陣は聖なる世界で、外陣は俗世という寓意を含んだ扉なのであろう。
秋の時代に俗世から離れる決意をして冬の時代で完全に俗世から決別できたと思っていたら、俗世から赤ん坊を持った母親がやって来て、母親は死んで赤ん坊を育てることになる。そして春の時代は再び俗世との繋がりを持ちながら二人で山寺で過ごすところに面白さがある。冬の時代に俗世から離別したが、赤ん坊の存在によって再び俗世との繋がりをみせて、僧侶に人生の再スタートを突きつけているのである。
春と秋で1艘しかないボートが使われているのに、湖畔に老僧が現れて後ろから男(春:小僧、秋:中年)をみているシーンがあるが、あれにはトリックがあり中盤から終盤にその種明かしをみせている。これには見事に騙されてしまい、春のシーンで不思議に思っていたところが面白いように納得してしまった。監督の発想が柔軟であることを改めて認識してしまった。
仏教思想の輪廻転生も含まれていると思われ、山寺を三人の僧侶が世代によって繋いでいる。初めからいる老僧、小僧が壮年僧になって山寺を継ぎ、冬にやって来た赤ん坊が春になって小僧になり生き物にイタズラをしている。僧侶が主になっていることで仏教映画のようにみえるが、宗教色がやや薄い作風になっており、人間の生き様をみせているように感じる。
【なめ犬的おすすめ度】 ★★★
【おまけ】
キム・ギドク全作品(2009年4月現在)のレビューが完成したため、以前記事にした
キム・ギドク監督レポートを更新した。